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第11話 ペリカン

 

 屋外に到着した俺達に待ち構えていたのは、屋内にはいなかった鳥類や哺乳類達であった。

「見て、ペンギンさんだよ!」


 カスミが指差す方向にいたのは、大きな岩の置かれている足場の他に、50メートルは続きそうな長い水槽があったペンギンの水槽だった。陸地には、棒立ちのペンギンが20数匹と、水中をかなりのスピードでグルグルと外周を周りながら泳いでいるペンギンが3匹ほどいた。


「ペンギン、見るの久々だなぁ...」

 俺は、そんな感想を口にする。実際、高校卒業した後、こうやって実際にペンギンを見た覚えはなかった。


「ペンギン、いつ見ても泳ぐの速いねぇ」

「そうだね」

「レンはこれだけ速く泳げる?」

「うーん...どうだろう。一応、溺れてる人を助けられるように水泳の訓練はしたけれど...」

 ペンギンの人間じゃ大きさが違う。俺達の50メートルは彼らにとっての200m程だろう。


「流石にペンギンには勝てないかなぁ」

「ビューンって行っちゃうもんね」

 俺達は、そんな会話をする。屋外のこの場には、俺達の他にもう一組家族が居た。


 俺達と同い年か、または数歳年上であろう夫婦だった。その夫婦は、大体3・4歳位の男児が居た。

 きっと、俺達と同じように休みだから水族館に来ていたのだろう。その男の子は、イルカの水槽を目をキラキラと輝かせて眺めていた。


 心地よい風が吹き、カスミのスカートが少し揺れる。俺は、幸せだった。

「次、行こうか」

「あぁ、そうだ───なッ!」


 俺は、カスミの後ろから迫りくるその影に気が付いて、カスミを抱き寄せて避ける動作をした。


 バサバサと音を立てながら、その白い翼をバサバサと動かして上空を旋回しているのはペリカンだった。

 こんな都会の真ん中に、野生のペリカンが悠々自適に飛んでいるのは、少しおかしな状況だった。


 このペリカンは、この動物園で飼育されているペリカンなのだろう。翼を動かしては上空を翔んでいる。

「あ...ありがとう、レン」

「いやいや。当たってたらカスミもペリカンも怪我してたかもしれないからな」


 空中で旋回しているペリカン。水族館から脱走してどこに行くのだろうか。


 ───と、どうして旋回しているのだろうか。


 ペリカンが空中を旋回する───といった特徴は聴いたことがない。その堂々とした旋回は、まるで狩りをしている鷹のような───。


「───危ないッ!」

 俺は、急にペリカンが下降し始めたと同時に、そう声を荒げた。そのペリカンは、再度俺達に向かって突進───というか、突撃しにきていたのだ。


「マジかよッ!」

 俺は、カスミをお姫様抱っこして、その場から離れる。ペリカンを怒らせるような行動をしてしまったのだろうか。


 ”ブオンッ”


 空気が揺れる音がする。まるで、大きなドローンがすぐ真横を通ったときのような音がする。ペリカンの嘴は尖っており、当たれば怪我は免れないだろう。もちろん、ペリカン側だって怪我をするはずだった。


「おいおい、何が起こってんだよ...」

 俺は、とりあえずこの場から離れることを決定する。カスミをお姫様抱っこしたまま離さず俺は、イルカの水槽の方にいる家族にペリカンの被害を出さないように移動を開始した。


 ───と、その時。


「───ッ!」

 俺の後ろから、迫ってくるペリカン。俺の背中を、突くような感じで嘴が当たり、ペリカンの羽ばたきの音が聞こえる。俺の背中には、ヒリヒリともズキズキとも言えないような、なんとも言えない痛みが広がる。


 オノマトペでは表現できないが、別の痛みで表現するのであれば、足の小指をタンスにぶつけたような痛みが、俺の背中に広がっていた。

「レン、大丈夫?」


 俺の腕の中にいるカスミが、そう心配するような声をかけてくれる。

「大丈夫、血は出てなさそうだし...」


「そうじゃなくって...上」

「───上?」

 俺は、カスミの声を聞いて上空を見る。そこにいたのは───




「───は?」

 上空を旋回しながら翔んでいたのは、合計3匹のペリカンだった。

 先程までは1匹だったのにも関わらず、2匹増えているのだ。


 本来、水族館のペリカン───いや、ペリカンに限らず檻に入れられていない鳥類というのは飛べないように羽が定期的に切られているものなのだ。それなのに、全匹がこうやって空中をバサバサと空を飛んでいるのはおかしい。


 これは、明らかにおかしい。異変だった。

「何が起こってんだ?」


 俺は、様々な可能性を考える。

 俺達が何かをしてペリカンを怒らせてしまったのだろうか。


 ───いや、それだと全員が全員ペリカンの習性に無いような空中の旋回をして攻撃してくるというのは話が合わない。


 ならば、ペリカンに自分とは違う自我が芽生えているのか。それならば、体を交換する性癖(ラヴィット)があれば可能だった。

 だが、そうなるとどうしてわざわざ水族館のペリカンに体を移したのだろうか。

 そんな疑問が生まれてしまう。


「───ならば、このペリカンは...この説が正しいかもな」

「この説?」

「あぁ、そうだ」

 俺が立てた説を、カスミに解説する。その答えは至ってシンプル。それは───



「───ペリカンは、何者かに操られている」

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