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プロローグ


午前11時 JR新宿駅。ここは世界で一番利用客が多いと言われる駅。ここの中央線快速が走る12番線ホームに一人女性が列車を待っている。名を広田美晴。26歳。職業無職。

服装は小綺麗ながらもパンパンの鞄を背負い右手には画面が割れ、薄汚いスマホを右手に持ち、電車を待っている。携帯は5分起きに電話のバイブがなるも無視しスマホを見ようともしなかった。

徐々に電車を待つ人が美晴の後ろに立ち徐々にその人数は増えていく。美晴がホームに立ち5分がたったぐらいでアナウンスと共に遠くから明るい光が見え美晴を照らし出した。後ろには仕事終わりのサラリーマンや歌舞伎町帰りだろうか、派手髪の女性がスマホでSNSや漫画を見ながら今か今かと列車を待つ。列車が近づくにつれ恭子のスマホを持つ手には徐々に徐々に力が入ていった。

そしてその手に力が入るのに比例して、後ろのサラリーマンも派手髪の女性も周りにいる駅員も誰しも美晴が点字ブロックの上を徐々に進む事に意に返す事は無くいつも通りの日常をはぐくむ。

そして勤続歴10年の運転手もいつも通りの方法で、減速を始める。停車位置にずれはあってはならない。そう訓練された運転手は微妙な匙加減を訓練と経験をもとに行う。

駅員もそうだ。この運転手ほどの勤続歴は無いが自分は一駅員としての誇りを胸に今日も何かトラブルは無いか目を光らせつつあたりを見渡した。

そして列車が美晴まで20メートル手前にさし掛かったとき時、美晴は右手にありったけの力を入れ線路に降り立った。運転手はそれに気づき咄嗟に急ブレーキをかけホームをブレーキ音でけたたましく鳴らす。そして後ろに立っていたサラリーマンや派手髪の女性、さらには駅員やその隣で並んでいた人は皆自分の目の前でこの後何が起きるか瞬時に悟った。

〈もう間に合わない〉

そんな思いを馳せる暇すら与えず列車は、美晴の轢きしばらく走行した後に止まった。

美晴は運転手の急ブレーキの甲斐なく即死だった。急ブレーキをかけた運転手はすぐさま防護無線を押し、手元にある三菱電機製の白い受話器を手に取ると指令所と交信を始めた。

運転席でピピピ音と虚しく鳴り響く防護無線の音はまるで、たった今即死した美晴に対する鎮魂歌〈レクイエム〉のようだった。

車内では帰宅目的などで大勢の人が乗り、窓側の人の中にはかつて美晴[だった物]が見えSNSに載せたり人に見せるため写真を撮る人がまばらまばらにいた。

そのうち駅員や警察の鑑識、消防が線路に降り鑑識作業に美晴だった物の回収や洗い流しを済ませたのち列車は車庫へと走っていく。美晴が降り立った時に持っていたスマホの部品の一部は美晴の小さな墓標のごとく鎮座していた。


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