9.冒険者ギルドで冒険者登録
次の日。
自覚はあまりしていなかったけど、初めてのことだらけで疲れていたのか、ベッドに寝転がったらすぐに寝てしまい、朝までぐっすりと眠っていた。それもあって、体に疲れが残っていることはなかった。
簡単に服装を整えて、1階で朝食を食べてから冒険者ギルドへと向かった。冒険者ギルドの場所は宿屋の女将でアイラさんのお母さんであるエミリさんに教えてもらった。エミリさんもとても明るくてハキハキとしていて、さっぱりとした奥さんだった。
朝の街を歩いて冒険者ギルドへと向かう。冒険者ギルドは宿屋から近いみたいだ。宿屋から十数分歩いた所で無事に着くことができた。
冒険者ギルドは3階建てのとても大きい建物だ。利用する人も多いのか、入口もすごく大きかった。
なんか緊張するけど、ここでウロウロしてたら不審者にしか見えないだろうからドキドキする胸を抑えて中へと入った。
中は想像通りといえば想像通りだった。受付や買い取り場所があったり、掲示板やたくさんの依頼書が貼られている壁、冒険者ギルドに併設されている食堂にそこで話し合いをしている冒険者達……。
冒険者は人間だけではなく、エルフや獣人などの種族もいる。多種族がこんなにいるのはきっとここの国だからなんだろうな。
漫画やアニメでしか見たことのなかった光景が目前に広がっていた。
思わず感動して、入口付近で少しぼーっと立ったままでいたが、後ろから別の冒険者が入ってきたことでハッとして冒険者登録をするのに受付の方へと向かった。
朝という時間帯だからか、受付には結構な人が並んでいた。きっとこれから依頼を受けて行く人たちだろう。
その中でもあまり……というかほとんど人が並んでおらず、空いている受付の方に並ぶことにした。
どうやら、エルフの男の人みたいだ。銀髪に翠色の瞳をしていて、とても整った顔をしているが、他の受付の人たちと違って一切笑わないからか冷たい印象を受ける。
前に並んでいた人がいなくなり自分の番になったので、少し緊張しながらもエルフの男性に声をかけた。
「あの、冒険者の登録をしたいのですが……」
声をかけると、男性は視線を俺に向けてじっと見つめてくる。
…………?
「あの………?」
「ああ、失礼しました。冒険者登録ですね。ですが、本当にこちらでよろしいのですか?」
「え?」
何?ここでは冒険者登録できないとか…?いや、そんなことないよな?
意味が分からず首を傾げる。
「他の受付でなく私の所でよろしいのですか?」
「えっと……あなたの所では登録できないんですか?」
「いえ、できますよ。ただ、ほとんどの方は私を避けて他の受付に行くことが多いので、あなたは私で良いのかお伺いしました。どうやら、私は少々厳しい所があるみたいで、冒険者の方には好ましくないようなのです。それに、他の受付の方は綺麗な方や可愛らしい方ばかりですから、私のような男よりもあちらの方が良いという冒険者が多いのですよ」
なるほど……?この人が厳しいのかどうかは分からないけど、確かに他の受付の人たちを見ると綺麗な人や可愛らしい人が多い。女性ということもあって対応も優しそうではある。
でも、別にあちらに並ぼうがこちらに並ぼうがあまり変わりないと思うけどな。
それに、こっちの方が人が少なくて早く対応してくれそうだし。
「うーん……俺はどっちでも良いですかね。貴方がどう厳しいのかは分かりませんが、きちんとした対応してくれるならば誰でも良いですし。それに、他の受付の方達は確かに整っている方が多いですが、俺はどちらかというとお兄さんが1番綺麗だと思いますけどね」
思ったことをそのまま伝えると、エルフの男性は翠色の瞳を見開いて驚いた表情をした。
そんなに驚くこと言ったかな?
男性は見開いた目をパチパチ瞬かせた後、また元の無表情に戻った。
「ありがとうございます。そのようなことを言われたのはギルドで受付として働いていて今日が初めてです」
表情は変わらないけど、何故か少し嬉しそうな雰囲気を感じた。
「まだお名前を伺っていませんでしたね。私はジェイド・フォーサイスと言います。ジェイドとお呼びください。あなたのお名前は?」
「ユヅルです」
「ユヅル様ですね。ユヅル様は今日は冒険者登録をするということでよろしいですか?」
「はい」
「かしこまりました。では、こちらの紙に書いてある質問に答えていただくようお願いします」
そう言って手渡された紙にはいくつかの質問項目があった。内容的に冒険者を登録する上で必要なものなんだろう。
ジェイドさんからペンを受け取り、書いていく。
名前はユヅル、年齢は19歳、種族は人間。出身は…日本なんて書けないよな。とりあえず空白で。職業は……うーん、剣使うから剣士?でも魔法の方が使うようになりそうだし、魔法士でいいか。
質問項目はそのくらいだったので、記入が終わるとペンと紙をジェイドさんに渡す。
「ありがとうございます。拝見しますね」
出身地だけ書けなかったけど大丈夫かな……。さすがに日本なんて知らないだろうし。どこなのか聞かれたら名前もない田舎の村ですって答えるしかないかな。
そんなことを考えながらジェイドさんの反応を伺う。でも、そんな心配も虚しく特に何か聞かれることはなかった。
ジェイドさんは紙の確認が終わると、両掌に乗るサイズの水晶を取り出し、目の前に置いた。
「これは冒険者ランクを決めるためのものになります。水晶を触っていただくことでその人の強さを判定できるようになっています。また、犯罪歴があるかどうかも確認できるので、冒険者登録をする方には必ずこの水晶を使用していただいています。こちらに手を触れていただいてもよろしいですか?」
「はい」
占いとかで使いそうな水晶だななんて思いながら、水晶に触れる。すると、水晶が光り出した。
驚いたけど、痛かったり熱かったりする訳ではなく、ほんのり温かく感じただけなので手はそのままにする。
数秒経つと、光は消えて元の透明な水晶に戻った。
ジェイドさんに「もう手は離して大丈夫ですよ」と言われたので水晶から手を離す。
ジェイドさんは「少しお待ちください」と言って、受付のカウンターを挟んだ場所の後ろにある扉の方へ水晶を持って行ってしまった。
数分後、ジェイドさんは手にカードとネックレスのようなものを持って戻ってきた。
「すみません。お待たせしました。こちらがギルドカードとドッグタグのネックレスです。ユヅル様の冒険者登録が完了した証になります。ギルドカードはユヅル様の冒険者としての身分証明書となっておりまして、他にもどんな依頼を受けてきたのか、倒した魔物の種類や数など冒険者としての経歴なども登録されています。経歴などについては専用の魔道具を通さなければ見ることができませんし、緊急事態でない限りはユヅル様本人の許可がなければ他の人は見れません。そして、ドッグタグの方ですが、こちらはお名前と職業、所属のギルド名が刻まれています。冒険者は危険と隣り合わせの職業ですので、いつどのようにして亡くなるか分かりません。行方不明のままであったり、魔物に殺られて個別の判別がつけられない状態で見つかる方もいます。そのため、こちらは亡くなった際の身元判別のために冒険者の方にはずっと肌身離さずに付けていただいています。特別な素材で作られていますので、壊れたりすることはありませんのでご安心ください」
そう言って、ギルドカードとドッグタグネックレスを手渡された。ドッグタグのネックレスは早速首につける。ギルドカードは失くさないようにカバンにしまった。
「ギルドカードにも記されていましたが、ユヅル様の冒険者ランクはDからのスタートになります。冒険者ランクについてですが、ランクは高い順にSS・S・A・B・C・D・E・Fまであります。それぞれのランクによって受けることができる依頼のレベルも変わります。自分のランクより1つ上までのランクであれば依頼は受けることができますが、無理はしないでください。依頼のランクは依頼書に書いてありますので、確認してから依頼を受けて下さい。あちらの依頼表に貼ってあるものから依頼は受けることができますので、依頼を受けたい時は依頼表から受けたい依頼書を取って受付に提出してください。達成した依頼内容や数などによってギルドランクは上がっていきます。ランクBからは指名依頼もあります。ランクが高くなればなるほど、依頼内容も難しくなっていきますので、自分の力量を理解して依頼を受けるようにしてください」
「分かりました。討伐した魔物の素材とかもギルドで買い取ってくれるんですか?」
「はい。こちらで買い取りも行っております。状態が良いものであれば高く買い取りますので、素材は丁寧に扱うことをおすすめします」
「ありがとうございます!」
「他に質問等はございますか?」
「んー…今の所は大丈夫です」
「かしこまりました。では、冒険者登録は以上になります。ユヅル様の冒険者としての活躍を応援しております」
「ありがとうございます!依頼を受ける時にまたジェイドさんの所に伺いますね!」
ジェイドさんがお辞儀をして言ってくれたので、俺も感謝の気持ちを込めて軽く頭を下げる。
これでやっと俺も冒険者だ!明日から冒険者としての仕事をしながら他の国を見て回ろう!
浮かれる気持ちを抑えつつ、まずは街中を見て回ることにし、冒険者ギルドを出た。
こうして、俺、ユヅルの冒険者としての生活が幕を開けた。
ただし、ユヅルは自分がどんなにすごいかを自覚していなかった。
まさか、世界でも数少ないと言われるランクSの冒険者に2年足らずでなってしまうなんて———




