7.無事に宿を確保!
宿屋のドアを開けたと同時にドアベルがカランと音を立てる。
その音を聞いた店員さんと思しき人が、両手いっぱいに料理を持ちながらこちらを振り向いたのが目に入った。
「いらっしゃいませ!すみませんが、少しお待ちくださーい!」
店員さんは店内の喧騒に負けない位に声を張って、手に持っていた料理をそれぞれテーブルに運んでいる。
どうやって乗せたんだ?って思うくらいにはたくさんの料理や飲み物を持っていた。
手に持っていた料理や飲み物を運び終えると、店員さんはテーブルの合間を縫って近づいてきた。
「すみません、お待たせしました。1名様でよろしいでしょうか?」
「あ、はい。えっと……近くの果物屋さんからここの宿がおすすめと聞いて来たんですが……」
「ああ!きっとリンダさんですね!宿としてということは宿泊を希望ですか?」
名前聞いてなかったけど、あの果物屋さんはリンダさんというのか。
リンダさんからおすすめされたと話したからか、店員さんは嬉しそうな笑みを浮かべた。
きっと仲が良いんだろうな。
「はい。できればしばらく泊めていただきたいのですが、お願いできますか?」
「大丈夫ですよ!何泊するかは決められてますか?後から宿泊日数を変更することもできますので、大体で良いので教えてください」
「では、とりあえず7日間でお願いします」
「かしこまりました」
無事に宿泊先を決められたことに安心する。
良かった。結構人が居たから部屋が空いているか心配だったけど、大丈夫みたいだ。これで野宿しなくて済む。
「リンダさんからこの宿について色々と聞いてるかもしれませんが、説明させていただきますね!ただ、ここだとたくさん人がいて集中できないと思うので、宿である2階に案内してから話しますね」
確かにここで説明されても他のお客さんの声で店員さんの声が掻き消されてしまいそうだ。大声で説明してもらう訳にもいかないし。
店員さんの後を付いて行くと、入口から左奥の方に階段があった。
ここから2階に行けるみたいだ。
店員さんについて階段を上っていく。2階に着くと1階の喧騒は嘘のように静まり返っていた。
そんなに離れてないはずだけど、防音加工でもしてあるのかな?階段を上っている時は1階の音が普通に聞こえていたけど2階に着いたらピタリと音がしなくなったからもしかしたら魔法とかで防音しているのかもしれない。
「こちらが宿として使用していただける階になっています。宿泊の受付と勘定もこちらで行わせていただきますね」
店員さんは階段を上った正面辺りのカウンターになっている部分を指した。
店員さんはそのカウンターの裏に回ったので、俺はカウンターを挟んだ正面に立つ。
「では、改めて説明させていただきますね。ここは酔い潰れた龍の宿と言いまして、一応宿屋として私の両親と娘である私と妹の4人で経営してます。2階が宿泊できる場所で、1階の方はお昼から飲食店、夕方からは酒場となっています。1階の方はこちらに泊まっている方は勿論それ以外のお客さまも利用できますが、ここに宿泊されている方が1階で食事をされる際はお安くさせていただいております。朝食も前日に言っていただければ料金は頂くことになりますがこちらでご用意致しますので、ぜひご利用下さい。この街ではそれなりに人気ですので、味は保証しますよ!……それで、えーと……お客様は7日間の宿泊ご利用でしたね?」
「あ、はい。そうです」
「お名前を教えていただいてもよろしいですか?」
「ユヅルです」
「ユヅル様ですね。ありがとうございます!では、こちらのカードがお部屋の鍵になります。カードに描かれている絵と同じ絵が描かれているドアがお客様のお部屋になります。カードに描かれている絵とドアに描かれている絵を合わせることで鍵が開くようになっています。こちらに滞在中はご自身で保管していただいて、お帰りになる時に私共にお返し下さい。もしなくされた場合は別途料金を頂くことになってしまいますのでご注意下さい。……申し遅れましたが、私はアイラと言いますので、何かございましたら私か他の者でも良いですのでお声がけ下さい!説明は以上になりますが他に何かお聞きしたいことなどはありますか?」
言葉はすごく丁寧で説明も分かりやすかったけど、説明の話し方を聞いてるとすごく明るい人なんだなと思った。
赤茶色の髪の毛を後ろでひとつに結んでいて清潔そうな見た目だけど、ずっと笑顔を浮かべていて雰囲気も明るい感じだ。
「ありがとうございます。えっと、少し気になったんですがここって防音とかされてるんですか?」
さっき気になったことを聞いてみる。
「階段と2階の間に魔道具で防音膜が張ってあるので、1階の音は聞こえないようになってます。夜は酒場としてお酒も提供しているので、どうしてもうるさくなってしまいますからね。ただお部屋ごとには防音はないので隣の部屋人の物音とかは聞こえてしまうと思います」
「そうなんですね。ありがとうございます」
なるほど。魔道具なんてものもあるのか。
普通に店で売ってたりするんだろうか?
この世界に来てまだまともに買い物してないし、明日見てみるか。
「いえ……あ、後先程お伝えするのを忘れてしまったのですが、もし体を綺麗にしたい時は桶1杯分ではありますがお湯をお渡しできますので、お声がけ下さいね!」
「分かりました。必要な時は声をかけますね」
「はい。それと、料金なのですが1泊2000ガルになります。ユヅル様は7泊ですので、1万4000ガルになりますが、前金として事前にご利用の半分をお支払い頂くことになっております。すみませんが、7000ガルお支払いいただけますか?」
「分かりました。ちょっと待って下さい」
カバンから7000ガルちょうど出し、アイラさんに手渡す。
「……はい、ちょうどお預かり致します。では、ユヅル様のお部屋は1番奥の部屋になりますので、ごゆっくりお休み下さい」
「ありがとうございます」
前金を払い鍵を貰って、アイラさんに軽く礼をし、部屋へと向かう。
1番奥まで行くと、ドアには渡された鍵と同じ花の絵が描かれていた。
ここで間違いなさそうだ。
説明された通りにドアの絵と鍵の絵を合わせる。すると、ガチャと鍵が開いた音がした。
すごいな。これも魔法なのかな?まるで地球のカードキーみたいだな。
鍵をカバンにしまい、ドアノブを捻ってドアを開けて中へと入る。
部屋の中には1人でも余裕で寝られるサイズのベッドと窓の近くに木製のテーブルと椅子が1つずつ置いてあった。全体的に狭くも広くもなくって感じだ。
日本のホテルのようにシャワーや浴槽はなかったが、入り口近くのドアを開けるとトイレはあった。すごく綺麗という訳ではないが、毎日きちんと清掃はしてるんだろうなっていう雰囲気はあった。部屋の中も埃が溜まっているような感じもないし。
お風呂がないのは元日本人としては悲しいけど、きっと魔法でどうにかできるだろうし、大丈夫だろう。
ある程度部屋の中を見た後、せっかくなので1階に行って夕食を食べようと思い、一旦部屋を後にした。