6.はじめての街
「やっと着いた!」
狼の魔物と戦った後、川に沿って歩き続け日が沈む前には無事に街に辿り着くことができた。
日が沈む前というよりは、もうほぼ沈みかけていたけども。
それでも夜になる前には辿り着けた。
途中狼の魔物以外の魔物とも戦ったりしたけど、魔法や剣を使って怪我することもなかった。
何度か使用したから、魔法や剣の扱いには少し慣れることもできた。
街に入る時は身分証明書みたいなものが必要みたいだったけど、俺はこの世界に来たばかりで身分を証明できるものなんて持っているわけがない。
でも、全員が全員身分証を持っている訳ではないみたいだ。
魔物から逃げてる途中で落としてしまったり、遠い村からやって来る人は村で身分証を発行していないため持っていなかったり……。
そんな人達は門に駐在している兵士、所謂門番にお金を払って、仮の身分証である小さい板の様なものを渡されるので、それを持っていれば街の中に入ることができるようだ。街を出る時もその板を門番に返せば良いらしい。
ただ、失くしてしまった場合は結構な金額を払わないといけないみたいだ。だから、失くさないようにしっかりと保管するようにと兵士には言われた。
仮の身分証を貰う為に青銀貨2枚で2000ゴルドを兵士に支払い、俺は無事に門を通過することができた。
前の人に付いて門を潜る。すると、外からは高い壁に囲われてて中が見えなかったが、中世ヨーロッパ風の街並みが広がっていた。
「すごい…」
歩きながら周りをキョロキョロと見回す。
外国に行ったことはないけど、異世界だというのに外国に旅行に来たような気分だ。
地球にいた頃と違って、人間だけではなく様々な特徴を持った種族がいることで、ここは異世界なんだなと思う。
この街は、人間国の中では他種族に友好的で種族による差別や奴隷制度を禁じているコエシステンツァ帝国という国の中のレガメ街という所らしい。
だから、色んな種族がいる。他の国では人間至上主義なので人間以外の種族がいることはほとんどなく、いたとしても奴隷として扱われていたりするみたいだ。
さっき門を通過するのに並んでいた人達がそう話しているのを聞いた。
しばらく、感動しながら適当に歩いていたが、ふと我に返る。
感動してる場合じゃなかった!もう夜になるし、今日泊まれる宿屋を探さないと…!
街に着いて安心してしまったけど、宿屋を探さなければこのまま街中で野宿になってしまう。せっかく街に来たのにそれは嫌だ!
街並みをゆっくり見て回るのは明日にして、一先ず宿屋を探す。
宿屋らしき建物は何ヶ所か見かけるけど、何処がいいかな。なるべく安心して泊まれる所が良いんだけど…。この世界にインターネットが存在していればスマホですぐに検索できるけど、そんなことできないしなぁ。知り合いもいないし、誰かに聞くしかないか。
気の良さそうなおばちゃんが営んでいる果物屋に近づいていく。
「あの!」
「いらっしゃい!あら!お兄さんかっこいいじゃないの!ここら辺では見ないけど、旅人さんかい?」
「そんな所です。後、かっこよくはないと思うんですが……でも、ありがとうございます。今日この街に着いたばかりなんです」
「そうだったの~。大変だったでしょ。今日は疲れもあるだろうしゆっくり休みなよ!それで、何か欲しいものはあるかい?うちの店はたくさんの果物を扱ってるからね~。どれも美味しいよ!」
「えっと……じゃあ、これ3つ貰っても良いですか?」
名前は分からないけど、目の前にあった見た目はリンゴにそっくりな赤い果物を指して言う。
「毎度あり!レッドアップルが3つだから300ガルになるね!」
レッドアップル……そのままの名前だ。味は分からないけど。
肩にかけていたカバンに手を入れて300ガルを取り出し、おばちゃんへ渡す。
おばちゃんはお金を貰うと紙袋にレッドアップルを詰めている。
待っている間にそれとなく宿屋について聞いてみる。
「あの、俺初めてこの街に来たので良ければ教えて欲しいのですが、おすすめの宿ってありますか?」
「あら!まだ泊まる所決めてなかったのね!そうね~この街なら治安も良いし、何処の宿でも大丈夫だとは思うけど、私の友達がやってるとこは1階が酒場になってて料理もお酒も美味しいし、おすすめよ。ここからも近いしね!」
おばちゃんはニコニコした笑顔でレッドアップルが入った紙袋を手渡しながら教えてくれた。
初めて会ったばかりなのに親切な人だな。とても気さくで話しやすいし。
「酔い潰れた龍の宿っていうんだけどね、あそこは友達夫婦とその娘がやってるのよ。結構評判も良いから行ってみるといいわ」
「そうなんですね!ありがとうございます!あの、教えて貰ったお礼といってはなんですが……」
宿屋を教えて貰った情報量としてお金を渡そうとするが、断られてしまった。
「このくらい良いわよ!旅するにはお金もかかるし大事に取っておきな!それで、良ければまた私の店で果物を買ってちょうだい!」
その言葉に甘えて、手に持ったお金はカバンの中へしまった。
レッドアップルが入った紙袋もカバンの中にしまって、おばちゃんにお礼を言って果物屋を後にし、教えて貰った宿屋へと向かった。
おばちゃんに道も教えて貰ったので、その通りに行くとおばちゃんが言った通り歩いて10分位の所にその宿屋はあった。
お酒と龍の姿が彫られた看板が吊るされていて、「酔い潰れた龍の宿」と書いてあった。
変わった名前だけど、覚えやすい。由来は気になるけどね…。
ドアは閉まっているけど、中からは賑やかな声が聞こえてくる。
外は薄暗いし、時間帯的にちょうど仕事終わりで夕飯を食べる時間なのもあって、酒屋と言っていたし飲みに来たお客さんがいるんだろう。賑やかなのは全然構わないけど、部屋が空いているかが心配だ…。
外で待っていても仕方ないので、ドアに手を掛けた。