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異世界で子育てはじめます。  作者: 夜涙時雨
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40.魔法のお勉強

マルスと手合わせをした後、軽く休憩をしてから本来の目的である魔法についての勉強をすることにした。

今訓練所には、俺とノワールとルーチェの3人だけがいる。ジェイドさんはギルドの仕事があるため受付へ戻り、マルスは残っていたかったみたいだけどこの後用事があるらしく、名残惜しそうにしながら帰っていった。

訓練所はこの後使う予定の人がいないみたいだったから、ジェイドさんにお願いしてこのまま使わせてもらうことにした。といっても、あまり詰め込みすぎるのは良くないからお昼頃には終わろうと思っている。2人とも前より元気になってきたとはいえ、まだ体力はそこまでないはずだから。

魔法はノワールとルーチェの前で何度か使用している。特に生活に関係する魔法を見せることが多いかな。

シャワーとか、髪を乾かす時とか、毎日使っているけれど、その度にルーチェは興味津々といった目で見てくる。普段あまり感情を表に出さないルーチェが、魔法には強い関心があるみたいだから教えるのが楽しみだ。ノワールも攻撃魔法に興味があるみたいだったから、きっと文字の勉強と同じくらい熱心に学んでくれるだろう。

ただ、魔法を使うためにまずは基礎的な所から学んでいかなければならない。魔法を使うのに必要な魔力を理解してもらわなければ魔法は使えない。

だから、まずは魔力を感じる所からだ。


「2人は魔力を感じたことはある?」

「ん~……ない!」


ノワールは元気よく返事し、ルーチェは首を横に振った。

2人とも魔力を感じたことがないみたいだ。まあ、魔法を使ったことがないのならそれが普通だろう。


「魔法を使うには魔力が必要になるんだ」

「まりょく?」

「……?」


首を傾げる2人に魔力について説明する。


「魔力っていうのは目には見えない。でも、どこにでもある。空気中、食べ物、動物、植物……もちろんノワールやルーチェの中にもある。この世界にあるもの全てに魔力はある」

「みえないの?」

「そうだね。魔力として目で見ることはできないかな」

「ふーん…」

「まりょくがなかったらどうなるの?」


ルーチェがしてきた質問に答える。


「魔力がないと俺たちは生きていけない。死んでしまうんだ」

「しんじゃうの……?」


死ぬと聞いてノワールが悲しそうな顔をした。


「そうだね。だから、魔力を使いすぎないように気をつけなくちゃいけない。魔力がなくなることを魔力枯渇っていうんだけどね、そうなると苦しくなって元に戻ることは難しいんだ。だから、きちんと自分の中にある魔力量をわかっていなきゃいけない。じゃないと、魔力を使いすぎて大変なことになってしまうからね」

「まりょくこかつ…」


ノワールは首を傾げているのでまだあまり理解できてなさそうだけど、ルーチェはなんとなく理解できていそうな雰囲気だ。


「簡単に言うと、ノワールとルーチェの中にある魔力がどのくらいあるのか知って、全部使ってしまわないようにしようってことだよ」

「わかった!」

「ん」


簡単に説明したらノワールも分かりやすかったのか元気に返事してくれた。ルーチェも賛同するように頷いている。


「まりょくはどうやったらわかるの?」


ルーチェは魔法に興味津々なのかどんどん質問してくる。教える方としてもとても教えがいがあって嬉しいな。


「そうだね…まず、魔力の量は魔力測定器を使えば大体どのくらいの量があるのか分かる。でも、魔力測定器はあくまでその人が持つ魔力の量と質を知ることができるだけ。自分の中にある魔力を感じるようになるには訓練をしなければならないんだ」


魔力は一般的に心臓や腹部辺りから感じとることができると言われている。ただ、一概に魔力を感じるといっても簡単なことではない。魔法を使用することに向いていない者や魔力が少ない者はそもそも魔力があっても感じとれなかったり、魔力を感じても魔法が使えなかったりする。これはいくら努力しても結果は変わらない。向き不向きがあるということだ。

貴族は魔法を使える者がほとんどだが、平民では使えない、または使わない者も多数いる。そもそも魔法を使う機会なんて戦いに身を置く者や仕事柄必要でない限りほとんどない。だから、平民の間では魔法は必ずしも必要なものであるとは言えない。あってもなくても生活には困らないからね。あった方が便利ではあるけど、でもそれだけだ。魔道具という物が存在していることも1つの理由だろう。

これが貴族だったらまた変わってくるのだけれどね。貴族にとって魔法が使えるというのは権力を翳す一種のステータスであり、必要不可欠なものだから。

まあ、それは置いておいて。今はまず魔力を感じることだね。


「魔力測定はここの冒険者ギルドでできるから、まずは魔力を感じるところからやろうか」

「ん」

「はーい!」

「魔力は心臓やお腹の辺りにあると言われているんだ。そこに集中してみて、何か感じたら教えてね」


俺がそう言うとルーチェは胸にノワールはお腹に手をあてながら目を瞑った。2人の様子を見守るが、魔力を感じられた様子はない。これまで魔力を意識したことがないのだから仕方ない。そもそも言われてすぐにできるとは思っていない。魔法が身近にある場所で生きてきたのであれば別だが、2人はそうじゃなかったから。

ルーチェは胸に手を当てたままじっとしているけど、ノワールは段々と両手をお腹に当てたまま少し前屈みになり、「う~」と唸りながら顔を曇らせてきているからまるでお腹が痛くて耐えているように見えてきた。本人はそんなつもりはなく、頑張って魔力を感じようとしているのだろうけれど、どうしてもそうにしか見えなくなってきて、可愛らしいなと思ってしまう。本当にお腹が痛かったら一大事だけどね。

2人ともなかなか魔力を感じることができなさそうだったので、一旦声をかけて目を開けてもらう。


「ゆづにい…まりょくわかんないよぉ……」


ノワールがしょぼんとした表情で見てくる。そんな表情も可愛いなと思いつつもノワールの頭に手を乗せながら「大丈夫」と声をかける。


「最初は皆そうだよ。最初から全部上手にできる人はなかなかいない。時間はたくさんあるからゆっくりで大丈夫。でも、2人とも早く魔法を使えるようになりたいよね」


1人で魔力を感じるのは時間がかかる。これまで使ったことがないのだから当然だ。

でも、1つだけ魔力を感じるためのコツがある。それは、自分のではない誰かに魔力を流してもらうこと。他人の魔力を自身の体に流してもらい、魔力というものがどういうものなのかを体を通して感じることで、自身の中にある魔力を感じやすくなる。そうすることで、魔力の感覚を掴むための時間を短縮することができる。

ただし、これにはデメリットもある。

魔力というものには相性がある。相性が悪い魔力を体の中に取り入れてしまうと拒否反応が起こり、ショックを起こしてしまう可能性があるのだ。アレルギー反応を起こしたような状態というと分かりやすいかもしれない。アレルギー反応とはいってもアレルギーを起こした時のように死ぬ可能性はないが、酷い場合はそれに近い状態にはなる。

家族であれば近い性質の魔力を持っているため拒否反応を起こすことはないが、血の繋がりのない他人同士だと可能性は高い。事前に調べることもできないため、もし他人同士で行う時には慎重に少しずつ魔力を流し、拒否反応を起こしていないか見極めながら行わなければならない。

俺がノワールやルーチェに行う場合、俺達は血が繋がっていないため本来であれば拒否反応を起こす危険性がある。だから、やるのであれば慎重に行わなければならない。しかし、俺は少し特殊だ。

俺は異世界の人間であったこと、神によって身体を作りかえられたこと、魔力を貯めておくことができない性質であることから誰であっても俺が流した魔力で拒否反応を起こすことはないらしい。意識すれば相手にとって相性の悪い魔力を流すことは可能らしいけどね。余程のことがない限りそんなことはしない。

まあ、そういうことで俺がノワールやルーチェに魔力を流しても問題ないという訳だ。


「2人とも手を出してもらえるかな?」


ノワールとルーチェと手を繋ぐ。目を閉じて自身の中にある魔力に意識を向ける。


「俺の魔力を2人に流してみるから何か感じたら教えてね」


繋いだ手を通して2人に向かってゆっくりと魔力を流していく。あまり多くの量を流しても2人の中にある魔力を貯めておく器がキャパオーバーとなってしまうため、量を調整しながら流していく。


「どうかな?何か感じる?」

「ん~なんかぽかぽかしゅる!あったかい!」

「やさしくてきもちいい」


どうやら無事に俺の魔力を感じることができたみたいだ。感じ方は個人差があるが、2人とも不快には感じていないみたいでよかった。俺の魔力が拒否反応を起こさないとはいえ、快か不快かというのはあるらしいから。

2人が俺の魔力を感じた所で少しだけ流している魔力量を増やす。


「それじゃあ、今感じているものが1番強く感じる場所はあるかな?」

「ん~、おなか!」

「ノワールはお腹だね。ルーチェはどう?」

「……むね」

「胸ってことは心臓だね。今1番強く感じるって教えてくれた所がノワールとルーチェの魔力がある所だよ。きっと俺が魔力を流したことで自分の魔力が分かりやすくなったはずだから、もう一度自分の中にある魔力を感じてみて」


さっきと同じようにノワールはお腹、ルーチェは胸に手を当てて目を瞑った。魔力を流す前と後で同じ場所に手を当てるのは、魔力がどういうものなのか分からなくても本能的にどこにあるのか分かるのだろう。

特別何かする訳でもなく、俺はじっと2人を見守る。

暫くすると、ノワールが目を開けてむっとした表情をみせた。


「まりょくわかんない…ぽかぽかしてたのなくなっちゃった」

「練習していけばきっと分かるようになるよ」

「ぼくまほうつかえるようになる?」

「大丈夫。ノワールが諦めないで練習すれば使えるようになるよ」


不安そうな表情のノワールの頭を優しく撫でる。

ぽかぽかしていたのがなくなったというのはノワールの中に流した俺の魔力がなくなったという証だ。

どうにかしてあげたいとは思うけど、自身の魔力を感じるのはノワール自身で頑張ってもらわなければならない。魔力を感じることは、他人にはどうにもできないのだ。できることといえば、さっき行った俺の魔力を流して魔力を感じやすくすることくらいだ。

頑張れという応援の意味も込めてノワールの頭を撫でていると、ノワールは「もういっかいやってみる」と言ってまたお腹に手を当て目を瞑った状態になった。

できないからすぐに諦めるとならないのはすごいなと思う。ノワールと同じくらいの子ならばできない=つまらないと投げ出してしまってもおかしくはないのに。

ノワールの頭から手を離し、ルーチェへと視線を向ける。ルーチェはずっと集中しているのか俺とノワールが話していてもずっと同じ体勢のまま動いていない。すごい集中力だ。

もしかしたらルーチェは早く魔力を感じとれるかもしれない。まだ幼いながらに理解度も高そうだから、魔力を感じとれたら器用に魔力操作ができるようになりそうだ。





時々俺の魔力を流して魔力を感じとれる手助けをしたり、魔力が感じとれないという2人を励ましていたらあっという間にお昼の時間になった。

やりすぎても良くないので、今日はここまでにしてお昼ご飯を食べに行こうと2人に声をかけ、訓練所を出た。

訓練所を出た後は、受付に寄ってジェイドさんに訓練が終わったことと訓練所を貸してもらったお礼を伝え、ノワールとルーチェの魔力測定の予約をお願いした。

魔力測定は余程のことがない限り、その日に行ってその場で測定することができない。魔力測定をするには専用の魔道具である魔力測定器が必要になる。魔力測定器は特殊な魔力石を動力源として使用しているため、1日に測定できる人数が決まっている。そのため、事前に予約しておく必要があるのだ。

測定できるのは早くて7日後と言われたので、7日後に2人の予約を入れて冒険者ギルドを後にした。

次話は久しぶりにグレン登場です。

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