38.手合わせの申し込み
長らく間が空いてしまいすみません…。
今回は少し長めになっています。
「ノアさんとルーさんはかわいいですね」
「ノワールとルーチェですか?」
ジェイドさんが何に対してかわいいと言ったのか分からず、頭にハテナを浮かべる。
いや、ノワールとルーチェがかわいいことはすごくよく理解できる。ノワールとルーチェはかわいいから。
でも、ジェイドさんがそんなことを言うなんて珍しい。
「はい。私を怖がらないので」
「…………?」
「私、子どもって苦手なんです。昔から私が近づくと子どもは皆怖いと泣いて、子どもの方からも私に近づこうとはしません。それに、子どもって本能で動くことが多いじゃないですか。それが私にはなかなか理解できなくて……どう接したらいいのか分からないんですよね。子どもなので仕方ないというのは分かるのですが、それでも苦手です……」
「ジェイドさんがですか……?」
ノワールと話している姿を見て、全然子どもが苦手そうには見えなかったから驚いた。
ジェイドさんが子どもに怖がられるのは表情の変化があまりないからだろうか?
美人の無表情は怖いと聞いたことがある。それが理由かもしれない。
俺としてはジェイドさんは無表情でも怖いと思ったことはないけど、屈強な冒険者達にも恐れられているから、小さな子どもに怖いと思われてしまうのは仕方がないことなのかもしれない。少し寂しいなと思ってしまうけど。
「私でも苦手なものの1つや2つくらいありますよ…。ユヅルさんは私を何だと思っているのですか?」
「とても綺麗で優しくて信頼できる最強で最高のジェイドさん」
「……そういった意味で言った訳ではないのですが…………」
俺が真面目な顔で思っていたことを言うとジェイドさんは俺から目を逸らし、ゴホンと咳払いをした。
誤魔化したようだけど、きっと俺の言葉に照れたのだろう。薄らと頬が染まっている。
あまり見ることのできないジェイドさんの表情を見ることができて少し嬉しい。
「ジェロおにいちゃんはしゃいきょーしゃいこー!」
「ん。…きれい」
ノワールとルーチェまでジェイドさんを褒める言葉を言った。多分、俺の真似をして言ったのだろうけど、まさかの追撃にジェイドさんは更に頬を染めた。といってもそこまで目立つほどではないが…。それでも照れているジェイドさんはレアだ。
じっと3人で見つめていると、ジェイドさんの表情が照れたものから少し困ったようなものに変わった。
「3人とも見すぎです。私を見ていても何もいいことはありませんよ…」
「そんなことはありません。ジェイドさんは綺麗なので見ているだけでも目の保養になりますよ」
俺がそう言うとジェイドさんは黙りこんでしまった。
俺、変なこと言ったかな?
「ほよー……?」
「ゆづる、めのほようってなに?」
ジェイドさんが黙り込んでしまったので自分が変なことを言ったか考えていたら、ノワールとルーチェが意味が分からなかったのか「目の保養」の意味について尋ねてきた。
「目の保養っていうのは、綺麗なものを見て楽しいと感じて、胸が暖かくなって癒されることだよ」
「へー!」
「そうなんだ。……それならゆづるもめのほようになる」
「…!そうだね!ゆづにいみてるとぽかぽかしゅるもん!」
「ふふ、ありがとう」
嬉しくて思わず笑顔になってしまう。
「俺にとってノワールとルーチェも目の保養になるよ。いつも2人を見ているだけでも楽しいからね」
「えへへ」
ノワールが照れたように笑い、ルーチェも俺に擦り寄って来た。俺は2人とも抱き上げたままで両手が塞がっていたので、撫でられない代わりに2人の頭に自分の顔をぐりぐりと押し付けた。
「ふふっ、ゆづにいくしゅぐったいよ~」
ノワールは嬉しそうに笑い、ルーチェはもぞもぞと擦り寄ってきた。2人のそんな姿を見て胸が暖かくなった。
すると、後ろから聞き慣れた声で話しかけられた。
「なに職員を口説きながらイチャついてるんだよ?」
2人を抱いたまま振り向くと、そこにはチャラそうな見た目の男がいた。
「マルス」
「よう」
名前を呼ぶと、マルスは軽く片手をあげながら近づいてきた。
「久しぶりだね」
「そーだな。お前がギルドに来なくなったからな」
確かにマルスの言う通り、ノワールとルーチェと一緒に暮らし始めてから冒険者業を休んでいるのでずっと冒険者ギルドには来ていなかった。
冒険者ギルドに来なくなってからマルスと会うこともなくなっていた。冒険者ギルドに来てはいなかったけど、買い物をしに街中にいることは多かった。でも、冒険者が行くような武器屋や防具屋などがある通りにはほとんど行くことはなかったため、街中で会う機会もなかった。
「事情があって今は冒険者業をやってないんだ」
「それは、今お前が抱いてる子達が理由か?最近冒険者の間で噂になってるぞ。Sランクの冒険者が子持ちになったってな。冒険者ギルドに現れないし、街中で子どもと一緒に歩いているのを見てSランクは所帯持ちになったから冒険者を辞めるって言ってる奴らもいるくらいだ。まさかとは思ったが、その姿を見るとただの噂って訳ではないみたいだな」
「あー……うん…。半分正解ってとこかな…」
まさかそんな噂がたっているとは思わなかった。
確かにノワールとルーチェに出会ってからはずっと2人と一緒にいるし、何処に行くにも一緒。冒険者業も今は緊急事態ではない限り、冒険者としての活動は指名依頼が来たとしてもやるつもりはない。2人がもう少し成長したら少しずつ再開していく予定ではいるけど、いつになるかは未定だ。ただ、冒険者を辞めるつもりはない。
今まで頻繁に冒険者ギルドに顔を出していたのにそれがなくなったこと、ノワールとルーチェと一緒に買い物に出かけていた所を見られていたことでそんな噂がたったのだろう。
「冒険者辞める訳ではないだろ?」
「うん。辞めるつもりはないよ。ただ、今は少し休業しているだけで」
「それならいい」
そう言ってマルスは小さく笑った。
「抱いてるのは兎と…猫の獣人か?」
マルスが近づきながら尋ねてきた。
ノワールとルーチェはマルスに会うのが初めてだから警戒しているのだろう。マルスが俺に近づく程2人は俺に強く抱き着いた。そんな2人を安心させるために、俺も2人を抱き上げている腕の力を少し強くした。
マルスは2人の様子に気づいてか、俺に少し近づいた所で足を止めた。
「うん。黒兎のノワールと白猫のルーチェ。2人とも獣人で、縁があって俺が引き取ったんだ」
「ふーん?それはアイツが嫉妬しそうだな…」
マルスは苦笑いを浮かべた。
今日はいつも一緒にいるグレンが見当たらない。
別行動してるのか?でも、大体いつも2人は一緒にいるし、1人でいるのは珍しい。
「そういえば、今日はグレンと一緒じゃないの?」
いつも2人でいる訳ではないだろうけど、マルスとグレンはパーティを組んでいるためほとんど2人で一緒にいることの方が多い。1人でいることが珍しいので気になり尋ねた。
「あー……まあ、大したことじゃないんだが、この前の依頼で怪我しちまってよ。今は宿で療養中なんだ」
「え!怪我って……グレンは大丈夫なの?」
「ああ。治療はしてもらったから大丈夫だ。ただ、まだ本調子じゃないだけで普通に元気だぞ。むしろうるさいくらいだ」
「それならよかった…」
マルスがそう言うなら大きな怪我とかではないのだろう。
でも、やっぱり親しい人が怪我をしたとなれば心配になる。グレンはいつも会うとすぐ近くに来て、俺にくっついてニコニコと笑顔を浮かべながら嬉しそうに話をしてくれる。
そんなグレンが怪我をしたとなれば心配にもなる。
宿で療養中なら、後でお見舞いに行こうかな。ずっと宿にいるのも退屈だろうし、何かお土産でも持って行こう。それに、グレンにもノワールとルーチェを紹介したい。
「宿は酔いつぶれた龍の宿?」
「あぁ」
「マルスとグレンがよければ明日辺りにでも行っていいかな?」
「いいぞ。というか、来てくれた方がありがたい。グレンのやつ、ずっとユヅルに会いたいってうるさかったからな。お前が来てくれたら喜ぶ」
「ありがとう。俺も久しぶりにグレンに会いたいから、明日のお昼頃に伺わせてもらうよ」
マルスと明日の約束をしていると、ノワールが俺の服の胸元を引っ張ってきた。
どうしたのかと思い、ノワールへ視線を向ける。
「ノワール?」
「ゆづにい、だれ?」
ノワールにそう言われて気づいた。そういえば、マルスには2人のことを紹介したけど、ノワールとルーチェにはまだマルスのことを言ってなかった。
「ごめんね。この人はマルス。俺と同じ冒険者だよ」
「ゆづにいといっしょ……なら、つよい!?」
ノワールが目を輝かせた。さっきまでマルスを警戒している様子だったけど、俺と同じ冒険者と聞いて、警戒心が緩んだのかもしれない。
「気になる?」
「うん!」
「ふふ…そうだね。マルスは強いよ」
「わぁー!」
ノワールがキラキラした目で見てくるので、思わず笑みが零れる。
ノワールを見ていて、あることが頭に浮かんだ。
もしかしたら、アレを見せたらもっと喜んでくれるかな?ルーチェもまだ警戒心はあるようだけど、アレを見せたらマルスに対しての警戒心を緩めてくれるかもしれない。
そう考え、マルスに提案する。
「マルス。この後って何か予定あったりする?」
「いや、特に何もないぞ」
「よかった。それなら、マルスさえ良ければ俺と手合わせしない?」
「………は?」
マルスが固まった。
「てあわしぇ?」
「うん。俺とマルスが戦うってこと。ノワールは見てみたくない?」
「みたい!」
ノワールの目がいっそうキラキラとし、ルーチェも表情は変わらないけど耳がピクリと動いたからきっと気になってはいるのだろう。
「そういうことなんだけど、どうかな?………マルス?」
マルスは固まったまま動かない。
そんなに驚くようなこと言ったかなぁ…。どうしたものか。
思案していると、ジェイドさんが声をかけてきた。
「ユヅルさん。お話中すみません。手合わせということは訓練所をお使いになるということでしょうか?」
「あ、ジェイドさん。俺の方こそジェイドさんと話している最中だったのにマルスと話し始めてしまってすみません。…そうですね。できればお借りしたいです。そもそも、今日は元々ノワールとルーチェに魔法を教えるために訓練所を借りたくて来たんです」
「そうだったのですね」
「はい。……あ、もしかして訓練所使えませんか?」
「いえ。使用している方はいないのでお貸しできますよ」
「そうですか!それならよかったです」
「使用するのであれば申請書の方をご用意しますね」
「お願いします」
ジェイドさんから申請書を受け取り、訓練所を借りる有無を書いてサインをする。必要事項を書いたら、申請書をジェイドさんへ渡した。
無事に訓練所が借りられてよかった。タイミングによっては、他の冒険者が訓練のために使っていたり、冒険者初心者が戦闘の講習のために使っていたりして使用できないこともある。
でも、今回はタイミングがよかったみたいだ。
これからノワールとルーチェに教えていくために訓練所を使う機会が増えていくはず。そうなると、冒険者ギルドにくることも増える。
マルスがさっき話していた噂もなくなるだろう。まあ、子ども2人と一緒にいることは変わらないから所帯持ちとかいう噂はなくならないかもだけど…。
「ユヅル、手合わせっていうのは本気か?」
どうやら、マルスはやっと固まった状態から戻ったらしい。
元に戻ったようで安心したよ。
「うん。本気だよ」
マルスは少し考える素振りを見せた後、手合わせをすることへの返事をくれた。
「わかった。やろう」
「マルスならそう言ってくれると思ってたよ。ありがとう」
「ハッ、そうかよ。でも、やるからには本気でいくからな?」
「ふっ…当然」
マルスが挑発的な笑みを見せたので、俺も同じく笑みを浮かべて返した。
いくら親しい仲とはいえ、手を抜いたりはしない。やる時はやる。
マルスとは何回か剣を交えたことはあるけど、今まで負けたことはない。でも、油断はしない。マルスは剣が得意だからね。いくら俺が神様からチートと呼べるような力を貰っていたとしても、油断なんてしたら負けてしまう可能性だってある。それくらいマルスの剣さばきはすごい。冒険者の中でもトップレベルだろう。
ノワールやルーチェのためとはいえ、マルスと手合わせするのは久しぶりなので楽しみだ。
訓練所は借りたし、マルスからの了承も得た。早速移動しよう……とその前に。
「ジェイドさん。申し訳ないのですが、手合わせの審判を頼めませんか?」
「私でよろしいのですか?」
「ジェイドさんがいいんです」
「……わかりました。ユヅルさんの頼みならば喜んでやらせていただきます」
「ありがとうございます!」
ジェイドさんがやってくれるなら安心だ。
手合わせの勝敗の判断をして欲しいのは勿論だけどそれだけではなく、俺とマルスが手合わせをしている間ノワールとルーチェを2人きりにさせてしまうことになる。その間、2人の傍に居てくれる人が欲しかった。
ジェイドさんは俺が信頼している人の中の1人だ。傍にジェイドさんが居てくれれば安心できるし、マルスとの手合わせにも集中できる。
まだ会って日は浅くとも、2人のジェイドさんに対する態度や雰囲気を見ていて、ジェイドさんとなら大丈夫だと思う。2人がジェイドさんを信頼しているとまでは言えないけど、警戒はそこまでしていなさそうだから。きっと大丈夫。
なんか後ろでマルスが「また口説いてやがる…」とか何とか言ってたけど、気にせずに5人で訓練所へと向かった。
読んでいただきありがとうございます。
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