23.ネッドさんに相談
次の日。
昨日はいつもよりも早く寝たからか、朝早くに目が覚めた。ノワールやルーチェとは別のベッドで寝ていたはずだが、いつの間にか俺のベッドに潜り込んでいたみたいだ。
静かに寝息をたてながら、あどけない表情で眠っている。その姿を微笑ましく思いながら、2人を起こさないようにそっとベッドから起き上がり、身支度を整えた。
ぼんやりだった外からの光が段々と明るくなってきた。
そろそろ2人を起こそうかな。今日はこれからネッドさんに会わないといけないからね。
「ノワール、ルーチェ。朝だよ」
「うん~……」
「……スゥ……スゥ」
ノワールは身動ぎをしたけど、ルーチェは微動だにせず寝息をたてたままだ。
「ノワール!ルーチェ!おはよ~朝だよ~」
2人の体を揺すりながら声をかけるとやっと目を覚ました。
「うむ~……」
ノワールが目を擦りながら体を起こした。寝起きだからまだ眠そうだ。
「ノワール、おはよう」
「うん~……おあよ…」
ルーチェは枕に顔を埋めて「ん~……」と言っている。猫獣人というのもあって、夜行性だからか朝は苦手みたいだ。でも、ルーチェもしばらくするとのそっと起き上がったので「おはよう」と挨拶した。
2人が起きたので、簡単に身支度を整えてから3人で朝食を食べた。朝食は2人が起きる前に作っておいたものだ。
朝ご飯を食べるとちょうどいい時間帯になったので、そろそろ受付がある1階のスペースへ向かうことにした。
「ノワール、ルーチェ。これからある人に会う用事があるから下に行かなくちゃ行けないんだ。2人も一緒に来て欲しいんだけど、下には大きい人がいっぱいいると思う。怖かったらここで待っててもいいよ。どうする?」
「……ぼくはいく。でも、めはやだ」
「ぼくもいく!」
2人とも一緒に行って良いみたいだ。ただ、ルーチェは目を気持ち悪いと言われたことがあったから人に目を見られるのが嫌みたいだ。
前髪が長いから目はある程度隠れるとは思うけど、昨日買ったローブを着てフードを被れば目元は見えにくくなるかな。2人とも小さいから大人からは2人が上を向いたりしない限りあまり顔は見えないと思うし。
「わかった。それなら昨日買ったローブも着ておこうか。フードも被っておけば顔はあまり見えないと思うよ」
「ん。そうする」
異空間からローブを1着出して、ルーチェに着せた。フードを被せてみると、案の定ルーチェの顔は上からだとあまりよく見えない。
ルーチェがローブを着るとノワールが「ぼくもきたい!」と言ってきたので、またローブを取り出してノワールにも着せた。ただ、ノワールはあまり視線は気にならないのかフードは被らずただローブを着ただけだ。
2人がローブを着たところで、早速部屋を出て階下へと3人で向かった。
階段を使って降りていくと、ギルドの受付には朝というのもあって多くの冒険者達がいた。皆今日の依頼を受けるためだろう。
階段から降りてきたことで注目されるかなと少し心配していたが、皆必死に今日の依頼の争奪をしているからかこちらを見ている人はほぼおらず、心配は杞憂だった。
そろそろ約束してた時間なのでネッドさんがいないかギルド内を見回すと、ギルド内に併設されている食事処のテーブルに座っている姿を見つけた。
階段からは少し離れた場所なので、ノワールとルーチェの手を繋いでネッドさんの元へと向かった。
「ネッドさん!おはようございます。すみません、お待たせしてしまいましたか?」
「おう!おはよう!俺もさっき来たばかりだから問題ねぇよ。それよりも……」
ネッドさんの視線が段々と下へ行き、俺の両脇にいる2人へ向けられた。
「ユヅル、お前子どもいたのか……?」
「えーと…違います。これには少し訳がありまして……詳しいことは別室で話しても良いですか?」
「それは構わねぇけど…」
いきなり子どもを2人連れてきたら戸惑うよな…。
でも、人がたくさんいるここで話す訳にはいかないので、ネッドさんに了承を得てから受付の人に声をかけて、ギルド内にある相談室へと向かった。
「それで?その子どもはどうしたんだ?」
「話が長くなってしまうのですが……」
相談室へ行き、お互いに椅子に座ると早速昨日あったことについて話した。
「……ということでこの子達は俺が育てていくことになりました」
「なるほどな」
ネッドさんは腕を組んで、俺の話を最後まで静かに聞いていた。
「それで、護衛依頼についてなのですが、この子達も一緒に連れて行ってもいいでしょうか?もし難しい場合は、代わりの護衛を頼めるようにギルド長であるアンドリューさんには話してあります。その場合はこちらの都合になるのでこの街までの護衛として報酬はいりません。ただ、了承していただけるならば、子ども達がいるからといって護衛で手を抜くなんてことはしません。これでもSランク冒険者です。子ども達とネッドさんを安全に目的地まで護る力はあります」
真っ直ぐにネッドさんの目を見て、俺の気持ちを伝えた。数秒程沈黙が続いたが、やがてネッドさんが口を開いた。
「………この街までユヅルに護衛をしてもらって、ユヅルが強くて信頼できる冒険者ってのは理解しているつもりだ。それに、俺はこのままユヅルに護衛を頼みたいと思ってる」
「それでは……」
「ああ、その子らが一緒でも構わねぇよ」
「!!……ありがとうございます!」
ネッドさんはニヤリと笑いながら俺の願いを了承してくれた。頭を下げてネッドさんに感謝した。
「帰りは賑やかになりそうだな」
「そうですね…ありがとうございます」
「良いってことよ。で、その帰りについてだが……頼まれたもんは昨日のうちに全部渡して来たから明日か明後日には戻ろうと思ってるんだが、大丈夫か?」
「はい。俺たちはいつでも大丈夫です」
「その子らと会ったのは昨日なんだろ?必要な物とか準備は大丈夫なのか?」
「昨日のうちに必要な物はある程度買い揃えたので大丈夫です」
「わかった。それなら、明日の朝出発でも良いか?」
「はい。問題ありません」
「そうか。なら、頼んだ。……お前らもよろしくな」
突然ネッドさんから声を掛けられてびっくりしたのだろう。俺の両脇に座ってた2人は一瞬びくりと跳ねたが、俺とネッドさんの会話を聞いていて大丈夫そうだと判断したのか、あまり警戒しているような素振りはなく、こくんと頷いた。
その後はノワールとルーチェも一緒にネッドさんと少し話した後、「また明日な」と言ってネッドさんとは別れた。
そんなに長い時間ではなかったけど、ノワールとルーチェは自分で名前をネッドさんに言っていたし、少しだけだけどネッドさんに話しかけられたらきちんと言葉を返していた。ルーチェは元々そこまでたくさん話す性格ではないのもあって言葉数は少なかったけど、ノワールは興味があるのか自分からネッドさんに質問したりしていた。
そんな様子を見て、俺は少し安心した。




