2.異世界転生
………眩しい。
顔に光が当たっているのを感じ、ゆっくりと目を開ける。
目を開けた先には木々が生い茂った森が広がっていた。
「…………?」
横たわっていた体を起こしながら、訳が分からず辺りを見回す。
辺り一面に広がるのは木と草のみ。
どうやら森の中の少し開けた場所に寝転がっていたらしい。
頭や服に着いた土や草を手で払いながら立ち上がる。
鳥や獣の泣き声が遠くから聞こえてくるが、それ以外には木や草があるだけで特別なものは何もない。
ここは一体何処なんだ?
俺は何でこんな所に……?
今に至るまでの記憶を辿ってみる。
確か仕事終わりに家に向かって歩いてる途中で、前を歩いている妊婦さんがいて、妊婦さんが歩道橋から落ちそうになっていたから咄嗟に腕を掴んで引き上げて気づいたら自分の体が宙に浮いてて、それで……。
そこまで思い出して、なんとなく察した。
そうか、俺死んだのか…。
意識がなくなる前に感じていた全身の痛みと寒気を思い出し、思わず身震いする。
あんな体験はもう二度としたくないな。
あの女性は無事だったかな…お腹の中の赤ちゃんも無事であって欲しいな。
まあ、もう死んでしまったのなら確認しようもないし、ただ無事であることを祈るのみだ。
一度目を瞑り、気持ちを切り替える。
改めて、辺りを見渡してみるがやはり何もない。
死んだってことならばここはあの世というやつなのか?
死んだあとのことなんて死んだことないから分からないしな……なんてことを考えていると急に声が聞こえてきた。
『弓弦』
「…え………?」
名前を呼ばれた様な気がして、辺りを見渡すが誰も居ない。
気のせいか?と思ったが、また声が聞こえた。
『弓弦』
「え!……だ、誰!?」
『私は神だ。お前の頭に直接話しているから実体はない』
「か…神様………?」
姿が見えない声の主は自分の頭の中に直接呼びかけているから、傍に誰かがいて体がある訳ではないらしい。
しかも、神様だと言った。
ということは、俺はやっぱり死んだのか……?
『そうだ。弓弦。お前は死んだ』
「そうなんですね……て、俺声に出してました?」
『いや、我には声を出さずともお前が考えたことが全て分かるようになっている。お前が声に出さずとも考えたことが我に伝わるのだ』
「な、なるほど……」
考えたことが全て伝わるっていうのは何かあまり居心地のいいものではないが、神様なら仕方ないのか……。
神様相手にどうにかできる術もないしな。
「あの…死んだってことはココは死後の世界……というやつでしょうか?」
『それは違う。ここはお前が生きていた地球とは別の世界。地球の言葉で表すならば異世界である』
「異世界……?死んだ人は皆異世界?に来るのですか?」
『違う。人は死後魂だけの存在となり、神の下で浄化され、その後輪廻の輪に加わり順にまた生まれ変わっていく。神の掟でそう定められている』
「それならばなぜ俺はここに…異世界にいるのですか?」
『それは、お前はまだ死ぬ運命ではなかったからだ』
「…………?」
どういうことだ?
俺はまだ死ぬ運命ではなかった?でも、俺はもう死んでいて……うん?何か混乱してきた……。
そんな俺を見かねてか、神様は色々と説明をしてくれた。
『お前は妊婦である女性を助け、本来であれば大怪我を負うが死ぬ運命ではなかったのだ。死ぬ筈であった者は別の者であったが、地球の神の弱体化により本来死ぬ筈であった者ではなくお前が死んでしまったのだ。お前が死んでいなければ今頃はお前が助けた妊婦と幸せに暮らしていたであろう』
「………うん?待ってください。つまり、本当は俺ではなく別の人が死ぬ予定だったけれど、地球の神様?が弱っていたことで間違って俺が死んでしまったと?しかも、死なずに生きていれば俺は俺が助けた女性と結ばれていたということですか?」
『そうだ』
「でも、助けた女性は妊婦さんでしたよね?ということは旦那さんがいるのでは……?」
『あの妊婦に配偶者はいない。元々は居たが、子ができたことを知るや否や別の者と逃げだし、妊婦は1人になってしまったのだ。そのせいで妊婦は病んでしまっていたのだが、お前に助けられ、怪我をさせてしまったことで更に病んでしまった。しかし、お前はその女性と生まれてくる子どもを支え、やがて家族となり幸せな人生を歩んでいくことが本当の運命であったのだ』
「そう……だったんだ…」
自分が歩むはずだった人生を聞かされ、とても驚いた。
まさか、自分があの女性と家族になるだなんて……。
まあ、死んでしまった今ではもう存在しない未来だ。悔やんでも仕方がない。
「俺が本来死ぬ運命ではなかったことは理解しました。でも、俺は死んでしまった。普通ならば死んだ者は浄化され輪廻転生するのですよね?それなのに、俺は異世界にいる。なぜですか?」
『ああ、それは神からのお詫びだ』
「お詫び…?」
『死ぬはずではなかったお前を死なせてしまったのは地球の神の落ち度だ。いくら弱体化していたとはいえ許されることではない。そこで、地球の神は死なせてしまったお詫びとしてお前が異世界で新しい人生を歩めるように我に頼んできたのだ。死んだ人間を生き返らせることは神の中でも禁忌に値するからな。だから、地球ではなくこちらの世界に転生させた。我がお前を受け入れる義理はないのだがな。詳しいことは神の領域だから話せないが、神の取り引きをしたのだ』
「そうなんですね」
なんとなく、これ以上詳しいことは聞くなという雰囲気があったため、気になることはあったが深く聞くことはしなかった。