18.幸せにします!
一緒に暮らすとは言ったものの、一緒に暮らすためには色々と決めなくてはいけない。まずは、住む場所だ。
今はこの街ではなくレガメ街を拠点に活動している。元々レガメ街にいた時間が長いからそっちの方が知り合いも多いし、街に関してもそれなりに把握している。
ただ、ずっと冒険者活動と旅をしてあらゆる街や国を転々としていたから自分の家が存在しない。いつも宿屋に泊まっていた。でも、この子達と暮らすならば周りを気にせず自由に過ごせる自分達の家が必要だろう。まあ、家については相談できそうな人がいるからその人に聞いてみて、最初のうちは宿屋暮らしになってしまうのは仕方ないかな。
宿に暫く滞在するとなれば、女将さん達にも相談しないといけない。
そして、今一番やらなければいけないことは、2人と一緒に暮らすことをアンドリューさんとローズさんに話すことだ。
一応今は冒険者ギルド預かりになっているだろうし、色々な手続きとこの2人の背景等の説明も含めて話し合わなくてはならない。
となると、アンドリューさんとローズさんに会わなくてはいけないんだけど⋯⋯この子達が2人に会っても大丈夫かどうか⋯⋯。
「2人とも、ちょっといいかな?⋯あのね、これから一緒に暮らすためにはいろいろなお話をさっきこの部屋に来た人達と話さなくちゃいけないんだ。あの2人と会っても大丈夫かな?」
そう問いかけると2人は少しビクリとして、迷っているようだった。多分、まだ他の人が怖いんだろう。これまで与えられてきたことを考えると、そんなすぐに恐怖心を拭うことはできないだろう。
もし2人が無理そうなら、俺だけで一旦部屋から出てアンドリューさんとローズさんに会ってくるけど⋯⋯。
「おにいちゃんがそばにいるなら⋯いいよ」
兎獣人の子が弱々しい声で言い、同意するように猫獣人の子もコクンと頷いた。
「うん。わかった。2人のそばにいるね。でも、無理そうだったら言うんだよ?」
「うん」
「じゃあ、2人を呼んできてもいいかな?ここで少しだけ待っていられる?」
2人は首を横に振る。
離れるのが嫌なのかな。それじゃあ⋯⋯
「じゃあ、一緒に行こうか?」
「「⋯⋯うん」」
そばを離れるのが嫌みたいなので、2人と手を繋いで一緒にアンドリューさんとローズさんの所へ行くことにした。右手で兎獣人の子の左手を、左手で猫獣人の子の右手を握って部屋を出た。
どこにいるとは聞いてなかったので、とりあえず、この部屋に来る前にいたギルドマスターの執務室へと向かう。
執務室前に来ると、アンドリューさんが壊したであろうドアが既に綺麗に修復されていた。きっとローズさんが魔法で直したんだろうな。
そんなことを思いながら、一度兎獣人の子に「ごめんね」と声をかけて手を離し、ドアをノックした後に「すみません、ユヅルです」と声をかけた。
すると、数秒もしないうちにドアが開いた。
俺と手を繋いでいた2人はドアが開くガチャリという音がした瞬間に手を話して俺の体の後ろに隠れた。
ドアが開くとローズさんが立っていた。
「ユヅルくん!あの子達はどうだっ⋯⋯⋯た⋯⋯え!?」
ローズさんはドアを開けた瞬間俺に声をかけてきたが、多分視界に俺の後ろに隠れた2人が目に入ったんだろう。とても驚いた表情をして固まった。
驚いた表情で固まったまま動かないローズさん。このままでは暫く動かなさそうな雰囲気なので声をかけて気を取り直して貰う。
「ローズさん。大丈夫ですか?」
「⋯⋯ぇ⋯あ、ご、ごめんない!あまりにもびっくりしちゃって固まってたわ⋯。色々聞きたいことはあるけど、とりあえず中に入って座ってちょうだい」
ローズさんに促されて執務室の中へと入り、前座った時と同じソファに腰掛けた。その間、獣人の子2人は俺の足に引っ付きながら歩き、ソファには俺の両隣に座って顔を半分俺の腕に埋めている状態だ。アンドリューさんとローズさんに対して警戒してるんだろう。
アンドリューさんは執務机の椅子に座っており、ローズさんは俺達の前のソファへ座った。
「さて、何から話すべきかしらね⋯。私達もユヅルくんに聞きたいことはあるけど、ユヅルくんもこの子達のことについて知りたいわよね?」
「そうですね。もし可能ならこの子達の身元とかが分かるようなものがあれば見させていただきたいです。それと、もう1つお願いがあるのですが⋯⋯」
「何かしら?」
一度両隣にいる2人に視線を落としてからまたローズさんを見やる。
「俺にこの子達を育てさせてください」
俺がそう言うとアンドリューさんとローズさんは驚いた表情をして固まった。
「⋯⋯え⋯⋯それは⋯」
「この子達と少しだけだけど、色々と話したんです。この子達の状況や将来を考えれば孤児院に預けるのが一番良い方法なのは知っています。ですが、この子達が俺と一緒にいたいと言ってくれたんです。正直、大変だとは思います。でも、軽視している訳ではありません。それに、お2人には以前お話したことがあると思いますが、俺には子育ての経験もあります。経験があるからと言って、1人でこの子達と一緒に暮らすのは簡単だとは思いません。それでも、この子達が俺といることを望んでくれた。それならばその選択を、気持ちを尊重したい。何より俺もこの子達と一緒にいたい。難しいことなのは承知の上です。どうか、お願いします」
俺はアンドリューさんとローズさんに頭を下げた。
子ども達は俺にくっついたまま動かないが、俺の腕を握る手にぎゅっと力が込められたのが伝わってきた。
執務室内には暫く沈黙が続いた。
俺も頭を下げたまま動かずにいた。すると、今までずっと静かに見ていたアンドリューさんが口を開いた。
「いいんじゃないか」
その声に下げていた頭を上げて、アンドリューさんを見る。
「俺達、冒険者ギルドでできるのは保護をして新しく暮らす場所を与えてやることだけだ。どれだけ可哀想だと思っても本当の家族にはなれない。それに、酷な話だがその子達のような子はこの世界にたくさんいる。1人、2人助けた所でまた別の子達がいる。だが、全員助けることはできない。俺達は神様でもなんでもないただの人だからな。できることは限られる。それでも、君達が⋯ユヅルとその子達が一緒にいたいと望むというのなら、俺は良いと思う。ユヅルは信頼できる奴だ。冒険者として活動してきたのを見てたから知っている。それに、ここに保護してからその子達がそんな風に誰かと離れたくないとしているのは始めて見た。安心してもらおうと何人かに2人のことを頼んだが、誰に対しても警戒心が強くて近づくだけで逃げてしまった。それなのに、今、2人はどうだ?ユヅルといたいと、離れようとする素振りがない。寧ろ、今ユヅルと離そうとしたら誰のことも信用してくれなくなりそうだ。君達が一緒にいたいというのなら、こちらでもできる限りのことはしよう」
「⋯⋯⋯そうね。突然すぎてびっくりしてしまったけれど、私もギルマスと同じ意見よ。3人が一緒にいたいっていうなら反対なんてしないわ。ただし、ユヅルのことは信頼しているけれど、それでもその子達に何かしたら私が許さないわよ?」
2人はそう言って、微笑んでくれた。ローズさんは脅すようなことを言いつつ、茶化すようにニヤリと笑っていたけど。
でも、よかった。
安心して緊張して少し強ばっていた体から力が抜けた。
「お2人ともありがとうございます。一生をかけてこの子達のことは俺が必ず幸せにします!」
「ふふっ、なんだかお嫁さんを貰うのに親に挨拶しに来た時みたいな言い方ね」
ローズさんの言葉に、確かにその通りだと思って、思わず笑みが零れる。正確には嫁ではなく子どもになるけど。
アンドリューさんも一緒に笑い、執務室には穏やかな雰囲気が流れた。
そんな中、子ども達は不思議そうな顔はしていたけど、もう2人に対して最初の時のような警戒をしている様子はなかった。




