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異世界で子育てはじめます。  作者: 夜涙時雨
17/43

17.一緒に暮らそう

子供たちから返事はなくても諦めずに話しかける。

俺から2人に何かを問いかけることはせず、俺自身のことやここがどこなのか、さっきここにいたローズさんやアンドリューさんのことなど、ここは大丈夫と思って貰えるように話し続けた。

すると、俺に慣れたのか、最初はブルブルと震えてこっちを睨みつけていた2人だったが、徐々に震えが治まり、睨みつけるような鋭い視線が少し警戒しているようではあるが鋭さはなくなった視線に変わっていた。

そんな2人を見て、大丈夫そうだと判断し、2人にお願いをする。


「ごめんね。ちょっとだけ近くに行ってもいいかな?」

「「⋯⋯⋯⋯」」

「2人の首についてるやつを取りたいんだ。ダメかな?」

「「⋯⋯⋯⋯」」


2人は黙ったままだけど、お互いに視線を合わせた後小さく頷いた。

それを見て少し安心した。そっと2人に近づく。


「ありがとう。少しだけ触れてもいいかな?」


また2人は黙ったままだけど、頷いてくれたので「ありがとう」と言って2人の首輪に触れる。

首輪を鑑定すると、やはり逃亡と自死防止の魔法がかけられていた。タチの悪いものは首輪を外す時に契約者以外が無理に壊そうとしたりすると首輪をしている本人が苦しむような魔法や死に至らせる魔法がかけられていることもある。でも、この子達の首輪には子どもだからかそんな魔法はかけられてはいなかった。

まあ、どちらにせよ絶対にこの首輪は外させてもらうけどね。

掌に魔力を込めて、首輪が壊れるようにイメージし、魔法を使う。一度眩く光った後、パキンッという音と共に2人に着いていた首輪は壊れて床に落ちた。

床に落ちた首輪を確認し、2人の首元から手を離す。


「よかった。少しは楽になったかな?」


2人は自分達の首元をペタペタ触りながら驚いた表情をしている。何度も視線をお互いの首元と床に落ちた首輪の間を行ったり来たりさせている。それほど、びっくりしたんだろう。

その反応に少し微笑ましく思いながら、また怖がらせてはいけないと思って2人から少し距離をとるために後ろに下がろうとすると上着の裾を掴まれた。裾を掴まれたことで上着がピンッと伸びている。

予想外のことにびっくりしつつ、俺の上着を掴んだまま離さない全体的に黒い毛並みのおそらく兎獣人である子を見やる。

兎獣人の子は服を掴んだままじっと俺を見ている。


「怖くない?」

「⋯⋯⋯⋯うん」

「そばにいてもいい?」

「⋯⋯⋯いいよ」


初めて声を出して返事をしてくれた。小さな声だったけど、確かに聞こえた。それがとても嬉しくて思わず破顔した。

体の震えもなく、目にも警戒心はない。恐る恐るという感じではあったが本当に嬉しい。


「おにいちゃんなら⋯だいじょうぶ」

「そっか。ありがとう」

「うん」


話してくれたので、少しずつ2人のことについて聞いてみる。


「2人のお名前教えてもらえないかな?」


尋ねると今まで話してくれた兎獣人の子は黙り込んで下を向いてしまった。もう1人のおそらく猫の獣人である子も黙り込んだままだ。


「ごめんね。嫌だったら言わなくても大丈夫だよ」


黙り込んでしまったのが心配でフォローするが、2人は下を向いたままだ。でも、暫くすると下を向いたままではあったが口を開いてくれた。


「⋯⋯⋯⋯⋯ぃ」

「⋯ん?」


あまりにも小さい声で聞き取れなかったので聞き返す。


「⋯⋯⋯なまえ、ない⋯」


兎獣人の子が震えた声で答えた。

名前がない⋯⋯?

その言葉を理解するのに時間がかかってしまった。

いくら奴隷だったとはいえこの子には両親がいて、奴隷になる前に親から付けられた名前があるはずだ。

小さいから自分の名前が分からないとかではないのか⋯⋯?

そう考えて、違う聞き方をしてみる。


「パパやママからはなんて呼ばれてたかな?」

「⋯⋯パパ、ママ、わかんない。⋯⋯おじさんはおまえ、いってた」


話すことはできるけど、まだ小さくて上手く説明できないのかもしれない。

パパとママが分からないと言った。生まれて直ぐに捨てられたか売られたのか⋯?でも、赤ちゃんを奴隷商人が買うなんて話は聞いたことがない。なぜなら、赤ちゃんは一人では何もできないため誰かが育てなくてはならず、お金も時間も手間もかかってしまう。そのため、奴隷商人は赤ちゃんを買うなんてことはほとんどしない。

可能性として考えられるのは奴隷の子どもとして生まれたこと。

稀にいるのだ。妊娠中に奴隷となった女性や契約者の子を身篭ったまままた奴隷として売られた女性の子どもが。

奴隷となった女性から生まれた子どもは母子共に高確率で死に至るためあまり存在しない。でも、奇跡的に生き長らえる子がいる。そんな子は生まれた時から奴隷という身分だ。親がいたとしても親も奴隷であるため親に愛されることは難しい。そうなると名前を付けてもらえることもない。

奴隷商人も商品であっても奴隷のことをわざわざ名前で呼ぶなんてことはしない。

だから、兎獣人の子が言っている意味としては、両親は誰なのか分からない、奴隷商人であるおじさんにはお前と呼ばれていたという所だろう。

本当に酷い話だ。

この子をそんな目に合わせた人達に怒りを覚えるが、静かに深呼吸して怒りの感情抑え外に出すことはしない。

そして、猫獣人の子にも同じく尋ねる。


「君のお名前はなんていうのかな?」


尋ねると首を左右に振り、小さく「⋯⋯ない」と答えた。


「そっか。パパとママは?」

「⋯⋯きもちわるいってうった」

「⋯パパとママが言ったの?」

「⋯ぅん⋯⋯ぼくのめ、きもちわるい」


覚悟はしていたが、この子も辛い思いをしたみたいだ。

話からして、両親に幼いながらも売られたのだろう。でも、目が気持ち悪いっていうのはどういうことだろう?

猫獣人の子は会った時から前髪が長いせいで目元が隠れていて目が見えなかった。奴隷だったから髪の毛を切って貰えないことで長いのだと思っていたけど、違うのだろうか?


「目が気持ち悪いって言われたの?」

「⋯⋯うん」

「怖いかもしれないけど、俺に目を見せてもらえないかな?」


猫獣人の子はビクリとしたが、暫くして小さく「うん」と頷いた。

そっと手を近づけて、「触るね」と声をかけてから目を隠している前髪をかき上げた。

前髪の下から覗いたのは、右は金色、左は青色のとても綺麗な色をしたオッドアイの瞳だった。

思わず見とれてしまい、じっと目を見つめていると目を伏せられてしまった。残念に思いつつ前髪をかきあげていた手を離す。


「ありがとう。あまりにも綺麗で、見つめちゃってごめんね」

「⋯⋯きもちわるくないの?」

「ん?そうだね。金色の目は暗い夜を明るく照らしてくれる月みたいで、青色の目は皆を元気にしてくれる澄んだ青い空と同じでとても綺麗だよ。気持ち悪いなんて思わないよ」

「⋯⋯⋯ぉに⋯?」

「ん?」

「ほんとうに⋯?うそじゃ、ない?」

「本当に。君達に嘘はつかないよ」


そう答えると猫獣人の子はぽろぽろと涙を流して泣いてしまった。

それを見た兎獣人の子もつられるようにして泣き出してしまった。


「辛かったね。怖かったね。⋯もう、大丈夫だよ」


俺は静かに2人の頭に手を伸ばして優しく頭を撫でた。



暫く2人の頭を撫でていると、段々と落ち着いてきたのか涙は止まったみたいだ。ただ、泣いた名残りで瞳は潤んで目元が赤くなっているけど。

2人が落ち着いたところで、2人の気持ちを聞いてみることにした。


「2人はこれからどうしたい?」

「「⋯⋯⋯?」」

「えーとね、もう2人に辛い思いをさせるようなことはしない。それは約束する。でもね、2人はまだ小さいから2人だけでは生きていくのは難しい。だから、大きくなるまでは誰か大人の人と一緒にいなきゃいけない。新しいパパとママを探して一緒に暮らしたり、後は2人と同じ子ども達がたくさんいる所で皆と一緒に暮らしていくか。⋯⋯2人はどうしたいかな?」


今は事情があってここにいるんだろうけど、ここは冒険者ギルドだ。アンドリューさんとローズさんは仕事があるからずっとこの子達のそばにいることはできない。そうなると、冒険者ギルドにはいられない。

大体の身寄りのない子ども達は孤児院に預けられるのが一般的だ。孤児院で生活して、成人したら孤児院を出て一人で生きていく。それがこの世界での一般的なルール。

他の国での孤児院の扱いは酷いものだが、この国であれば国がきちんと補助金を出して身元がしっかりとした人が管理してくれているから問題はない。

それに、孤児院で暮らしていて、途中で養子となり出ていく子もいる。

孤児院に行くのが一番良いと思うが、そこは俺の我儘だ。もし2人が孤児院は嫌だというのならば、アンドリューさんやローズさんに協力してもらって里親を探すのもありだ。そこは、2人の気持ちを優先したい。

そのため、2人の答えを静かに待つ。

すると、兎獣人の子がゆっくりと恐る恐る口を開いた。


「おにいちゃんは?」

「うん?俺?」

「うん。ぼく、おにいちゃんといっしょがいい⋯」

「⋯⋯ぇ?」


予想外の答えだった。

驚いて思考が一瞬停止してしまった。兎獣人の子がうるうると潤んだ目で「だめ?」と聞いてきたことですぐに思考を取り戻す。


「俺と一緒に暮らしたいの?」

「うん⋯」


猫獣人の子も兎獣人の子に賛成という様子で頷いている。

俺と一緒に暮らしたい、か。

正直、とても嬉しい。地球にいた頃も甥っ子を育てた経験があるが、確かに大変だったけどそれよりも楽しかった記憶がある。

その記憶を思い出すとこの子達と一緒に暮らすのも良いなと思ってしまう。でも、地球にいた頃は子育てする親や子どもに対して色々な制度や補助があったから安心してやってこれたというのもある。

こっちの世界にはそんな優しい制度や補助はないし、何よりこの子達は人間ではなく獣人の子。

獣人の子は育てた経験がないし、知識もあまりない。何かあった時を考えると正直不安だ。それに、俺は今一人で冒険者として活動している。

この子達を育てるとなったら今までのように簡単に依頼を受けたり、旅に出たりすることはできないだろう。

何より、一緒にそばにいてあげたいと思う。小さいのに親から与えられるはずの愛情を知らずに生きてきた子達だ。たくさん愛してあげたい。

考えれば考えるほど、不安なことはある。でも、俺は2人の気持ちを優先したい。

そう思ったら、答えは1つしかなかった。


「わかった。2人とも俺と一緒に暮らそう」


俺がそう答えると2人は初めて嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

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