12.またお世話になります。
カラン、と音を立ててドアを開き中へと入る。
「いらっしゃいませー!…え!?ユヅルさん!?本物!!?」
本物ってどういうことだ……俺の偽物でもいたの?
「失礼だな!本物のユヅルに決まってるだろうが!」
苦笑を浮かべるだけの俺に変わってマルスが突っ込みを入れてくれた。
「ごめんなさい!つい……だって、久しぶりだったから……。それにしても、ユヅルさん、またかっこよくなったね!」
笑顔を浮かべながら親しげに話しかけてきたのはここの酔い潰れた龍の宿の女将であるエミリさんの次女レイラさんだ。22歳で俺と年齢が近いのもあるけど、1年前まではほとんどここの宿にお世話になっていて、当時から親しく接してくれている。
「また今日からこの街で活動するの?」
「はい。しばらくはここを拠点に活動しようと思ってます」
「そうなんだ!ユヅルさんがいるなら安心だね!そうだ!宿はもうとった?まだだったらまたうちを利用してよ!部屋も空いてるから!」
「実はまだなんです。またここでお世話になりたいなと思っていたので…」
「それならよかった!アイラに伝えとくね。今日の宿泊担当はアイラだから上に行ったらアイラに声かけてくれれば鍵渡すから!」
「ありがとうございます。代金は上に行った時お支払いしますね。またお世話になります」
「うん、お願いね。今日は3人で食事もしてく?」
「はい。席空いてますかね?」
ちょうど夕食時ということもあって店内はすごく混んでいる。空いてなかったら別の店に行くしかないけど、できればここで食べたい。
ここのご飯は本当に美味しいんだよね。他の国でも色々と食べたりしたけど、ここの料理が1番美味しい。
「大丈夫!ちょうど1テーブル空いてるから、案内するね」
レイラさん案内の元、木製の丸テーブルを3人で囲んで座る。これまでずっとグレンと手を繋いでいたけど、席に座ったら手を離したので今は両手ともフリーだ。
「今日は何にする?」
「俺は今日のおすすめと、果実酒をお願いしても良いですか?」
「2人は?」
「あー俺はこのブラックベアの炙りステーキとエールで」
「僕はユヅルさんと同じのがいい!お酒は飲めないから果実水で」
「かしこまりました。すぐ用意するね!」
レイラさんは注文をとると厨房の方に向かっていった。
料理が来るまでの間、この1年間であったことをお互いに話して待つことにした。
「ユヅルかっこよくなったけど、前よりもずっと強くなったよな。まだ戦ってるのは見てないが雰囲気で強くなったのが分かる。いろいろ噂は聞いたけどよ、本当なのか?ドラゴンを倒したって…」
「あー…うん……。そうだね…」
「ドラゴン倒す奴がいるなんてなー……しかも1人でなんて聞いたことないぞ。そもそもいくら強くてもドラゴンと戦うなんて馬鹿でもなけりゃ考えもしな……ぃっ!おま、グレン!俺の足蹴りやがったな!」
「ふん!マルスが悪い」
「何もしてないだろ!」
「ユヅルさんのことバカって言った」
「言ってないだろ!俺が言ったのはそういう意味じゃねーよ!」
どうやらグレンがテーブルの下でマルスの足を蹴ったみたいだ。
いつものことだけど、必ず会う度に何かしらで喧嘩してるよね。理由は大したことないものばかりだけど。
でも、この2人普段は喧嘩したり、お互いに文句を言ってたりするけど戦闘になると本当にすごい。戦闘時の連携がすごくて、お互いに信頼しているっていうのが伝わるんだ。
こういうの喧嘩するほど仲がいいっていうよね。
「本当に2人とも仲がいいよね」
俺がそう言うと2人は揃って「そんなことない「ねぇ」!」と言ってきた。息ぴったりだし、やっぱり仲はいいと思うけどなぁ。
「それにしても、ドラゴン倒して冒険者ランクSか。もう、お前に勝てる奴なんていないんじゃないか?」
「そんなことないよ。ドラゴンのことだって偶然だし…。俺でも多数で来られたらどうなるか分からないよ」
「それはそうかもしれないけどよ……。でも、俺とグレンの2人で戦ってもユヅルに勝つのは難しいと思うぞ」
「うん!マルスなんてこてんぱんにされそう!」
「はぁ?それは俺よりお前だろ。ま、俺も簡単に負けるつもりはないけどな!」
2人…というかほとんどの人は俺がドラゴンを倒したと思ってるみたいだけど、実は違う。ドラゴンと戦ったのは本当。でも、倒してはいない。
ある人物から倒したということにして欲しいとお願いされ、ドラゴンから受け取ったドラゴンの鱗を冒険者ギルドに渡しただけだ。
ギルドはその鱗を見てドラゴンはいなくなったと判断し、ドラゴンを倒したのは俺であり、ドラゴンを1人で倒したのならば冒険者ランクはSにすべきだとの意見が多数あったことから俺の冒険者ランクはSとなった。
ドラゴンは死んでいない。まだ存在している。この事実を知るのは2人のみ。
この事実が明らかになればきっと多くの人が恐怖し、嘘をついたと俺のことを虐げるだろう。でも、きっとそんな未来は訪れない。
なぜなら、それも含めて約束を交わしたから。
その約束の証として受け取ったものもある。いざという時はコレを使えと言われて渡されたもの。
余程のことがない限りは使うつもりはない。そもそも使うことになるような出来事が起こらないことを願うばかりだ。




