11.お久しぶりです。
冒険者ギルドのドアを開けて中に入る。あたりまえかもしれないけど、1年前と比べて冒険者ギルド内はほとんど変わっていなかった。
懐かしいなぁ…なんて思いながら、1年前と同じく冒険者の列がスカスカな受付の所へ進む。
相変わらず、冒険者には遠巻きにされているらしい。
でも、あの美貌は前と変わってないな。
口角が上がるのを自覚しながら、その人の元へ行き、目の前で足を止めた。
その人は、書類を見るのに下を向いていた顔を上げる。きっとここに並ぶなんて変わった人だとでも思ってるんだろう。
「本日はどうされまし……た……?」
「久しぶりですね。ジェイドさん」
ジェイドさんが俺を見たと同時に笑顔を浮かべながら声をかけた。
ジェイドさんは動揺しているのか、瞳を揺らしながら大きく見開いている。こんなジェイドさんを見られるなんて…レアだ。
ニコニコと笑顔を浮かべながらジェイドさんが正気に戻るのを待つ。
驚かせちゃったかな?まあ、1年ぶりだし当然か。
「ユヅルさん……?」
「はい」
名前を呼ばれたので返事をすると、ジェイドさんはハッとした後元のポーカーフェイスに戻った。
ありゃりゃ……残念。もう少し動揺してる所を見ていたかったな~なんて少し意地悪なことを思う。
「ユヅルさん……お久しぶりですね…。冒険者として活躍しているお噂は伺っておりましたが、帰ってこられたのですね」
「はい。どんな噂かは分かりませんが、帰ってきました。しばらくは、またここを拠点に活動しようかと思っています」
「それは……嬉しいというかありがたいといいますか……。Sランクであるユヅルさんがいらっしゃるとなれば百人力です。それにしても驚きました。1年前も素敵でしたが更に磨きがかかりましたね」
「あはは、そうですかね?ありがとうございます。ジェイドさんも相変わらずお綺麗ですよ」
なぜかお互いに褒めあっていると、後ろから勢いよく何かが突進してきた。その勢いに少し前のめりになりながらもなんとか堪えて後ろを振り向く。
「ュ、ユジュリュしゃんじゃないですかぁああああ!!」
そう言って泣きじゃくりながら俺の腰に引っ付いている人物を見やる。
そこには大きな灰色の瞳を涙で潤わせ、同じく灰色の髪で、耳は大きく灰色だが白い縁どりがあり、白とグレーの縞模様が入った尻尾が長くもふもふしているアライグマの獣人がいた。耳が後ろにぺしゃんと倒れている。
「グレン」
見知った人物だったので名前を呼ぶとグレンは素早く俺の前に回り込んで、腰の辺りに手を回しギュッと強く抱き着いてきた。
グレンが叫びながら突進したせいか、ギルド内にいた人達がこっちに注目しているのが視線で分かった。
でも、視線は気にせずに胸あたりにあるグレンの頭をポンポンと撫でながら話しかける。
「グレン、元気にしてた?」
「ゔぅ……ユジュルさんんんんんん!!会いだがっだよぉ~」
これは泣き止むまで時間がかかりそうだ。仕方ないなと思いながら引き続きグレンの頭を撫でていると、また近くから見知った声に話しかけられた。
「よ!ユヅル。久しぶりだな。息災か?」
「マルス!久しぶりだね」
話しかけてきたのはグレンと冒険者パーティーを組んでいる茶色の目と髪でヤンチャそうな見た目をしている人間族のマルスだ。
この2人はグレンがランクB、マルスがランクAのここら辺では強い部類に入る冒険者パーティーだ。この街を拠点に活動している時に出会って、一緒に依頼を受けたこともあった。
それがあって、2人とは仲良くさせて貰っていた。グレンは小さくて懐いてくれているし、13歳という若さもあって弟という感覚だし、グレンは同い年で話しやすく信頼できる友人って感じだ。
2人ともちょうど冒険者ギルドに居たみたいだ。
「グレン、そろそろ離れろよ。ユヅルに会えたのが嬉しいのは分かるがユヅルだってやらなきゃいけないことがあるんだからよ」
「いや!!!」
「ったく……そんなんだからいつまでも子どもなんだよ」
「あはは、別に構わないよ。1年ぶりだし、俺も会いたかったからよかったよ」
「お前も相変わらずだな……俺らだから良いけど、今の他の奴には言うなよ?絶対勘違いされるからな」
「言わないよ。そもそも言った所で勘違いなんてそんな訳ないよ」
「いやいやいや、お前自分がかっこいいって自覚しろよ。前も優男みたいな雰囲気で人気だったけどよ、なんか1年ぶりに会って更にイケメンになってるし。てか、なんかちょっと成長したからか?それとも髪結い上げてるからか?知らないけど、よく分からん色気があるんだよ。それに、全体的に整ってるけど目が男らしいって感じじゃなくて少し垂れてるのも相まってなんかすげぇんだよ。そんで性格も良いと来たらモテないわけがない」
「ありがとう?でも、そんなに褒められるほどではないよ。俺よりもマルスとかジェイドさんの方が人気でしょ」
俺がそう言うとマルスは分かってねぇなぁみたいな表情をしていた。
いや、事実、モテるとか言われても告白とかされたことないし。むしろ遠巻きにされたりするし。
確かに見た目は自分でも悪い方ではないとは思う。でも、だからといって人気があるほどイケメンな訳ではないと思うけどな。
1年前から伸ばした髪の毛は長くなって邪魔になるからポニーテールのようにしているし、目元だってキリッとした目がよかったけど小さい頃から少し垂れ目がちだったから男なのに弱々しい見た目だし。外見は普通だと思うけどなぁ。
まあ、子どもや動物には地球にいた頃から好かれやすくはあったな。
「まったく…自覚がないんだからタチが悪い。いや、自覚あった方がタチ悪いか……?」
マルスが何かブツブツ言ってるけど気にしない。
グレンは腰に引っ付いてて離れる気配はないし、マルスも1人でブツブツ言ってるし、この状況どうしようか。
そんな悩んでいる俺を察してか、ジェイドさんが声をかけてきてくれた。
ありがたい。
「ユヅルさん。お話中申し訳ありませんが、こちらに来たということは何か御用があったのでは?」
「あ、そうです。実はここに来るまでに色々と魔物を倒してきたので素材を買い取っていただきたくて」
「買い取りですね。量はどのくらいでしょうか?多い場合は収納袋に入れてお預かりして、全てを確認しましたら明日料金の方をお渡ししますがどうしますか?」
「あー…そうですね。量もあるんですが、多分レア素材とかもあるんで収納袋に入れて渡しても良いですか?」
「さすがですね。では、こちらにお願いします」
ジェイドさんから収納袋を受け取り、カバンに入っている素材を移したらまたジェイドさんへ渡す。
収納袋だと1つずつカバンから出さなくて済むから楽で良い。
「確かにお預かりしました。では、明日のお昼頃には終わっていると思いますので、昼以降に取りに来てください」
「分かりました。お願いします」
冒険者ギルドに来た目的は果たせたので、宿をとりにいかなきゃと思い動こうとしたが、グレンは引っ付いたままだ。離れてくれる気配はない。
うーん……どうしよう。もう夕方だし、さすがに宿とらないと今日の寝床がない。あ、そうだ!
「グレン、よかったら一緒に夜ご飯食べに行かない?」
背中をポンポンと叩きながら問いかけると、グレンは今まで頑なに顔を上げようとしなかったのに勢いよく顔を上げた。目は潤んではいるけど、泣いてはいない。
「いいの!?」
「うん。ただ、俺まだ宿とってないから場所はご飯も食べれる酔い潰れた龍の宿でもいい?」
「うん!いいよ!!!」
「マルスもいい?」
俺の後ろの方に立っていたマルスにも声をかけると「いいぜ」と返事が返ってきた。
マルスも問題ないみたいだ。
「じゃあ、早速行こうか?」
「うん!行こう!!」
グレンは抱き着いていた腕を離して手を繋いできた。繋いだ手を振りながら、「ふふっ、ユヅルさんとごっはん~♪」とさっきまで泣いていたのが嘘のように目をキラキラさせているグレンを微笑ましく思いながら、3人で酔い潰れた龍の宿に向かった。




