10.転生してもう2年が経つのか
「よっ……と!」
身体能力強化の魔法を使い、道脇の側溝に落ちてしまった荷馬車の車輪を持ち上げて元の位置に戻す。
「御者さん!多分大丈夫だと思うので、少し動かしてもらっても良いですか?」
「おう!ちょっと待ってろ!」
そう言って御者のおじさんは、手網を引いて馬を操り、荷馬車を数メートル前に進ませた。
「どうですか?」
「問題ねぇみたいだ!ありがとよ!兄ちゃん!」
「いえいえ、ちょうど通りかかって良かったです」
「兄ちゃんはこれからどこに行くんだ?」
御者のおじさんが御者台から身を乗り出しながら聞いてきた。
「レガメ街に向かっている所ですよ」
「お!それならちょうどいい、乗っていけよ!俺もレガメに向かってたとこなんだ。そしたら馬車の車輪が側溝に落ちちまってよ……まだ荷物が何個かあるからさすがに荷台だけ置いていくのはできねぇなと思ってたら、ちょうど兄ちゃんが通りかかってくれて助かったよ!お礼と言ってはなんだが良かったら乗っていってくれ!」
「良いんですか?」
「おうよ!遠慮すんな!」
「それでは、お言葉に甘えさせてもらいます」
ここから歩いていくとまだ街まで時間がかかる。歩きながら周りの景色を楽しむのも好きなんだけど、今回は甘えさせてもらおう。
護衛として雇われた訳ではないけど、一応俺も冒険者なので街に着くまでは護衛として乗せてもらおう。
荷台の方に乗り込むと、荷馬車はすぐに出発した。
「兄ちゃんは冒険者か?」
「そうです。御者さんは荷馬車に乗っているということは商人ですか?」
「そうだ!」
商人なら護衛を雇ってるはずだけど、何で1人なんだろう…。
その疑問が雰囲気に出てたのか、それとも予測してたのか御者さんがニヤリと笑った。
「何で商人なのに護衛の1人もいないんだ…って?それはな、逃げちまったからだよ」
「逃げた?」
「ああ。隣町から来たんだけどよ、その町を出発する時はちゃんと護衛として冒険者2人雇ってたんだ。だが、途中で魔物と遭遇してな。それがそこそこの強さと数でよ。しかもこの辺ではあまり見ない奴ときた。そしたらその冒険者の奴ら、ビビって護衛関係なしに逃げちまったんだよ」
「え!?護衛なのに逃げたんですか!御者さんを守りもせずに?」
「そうなんだよ。まあ、俺もそこそこ強いんでな。魔物は俺が倒しちまったけど、あんなクソみたいな冒険者が護衛になるなんて久々だったぜ!」
御者さんはガハハハ!と、見た目とは真逆の悪人みたいな笑い方をしながらなんてことなさそうに話しているが、笑い事じゃないだろ。
その逃げた冒険者は護衛の依頼を受けて、御者さんを護るために雇われたはずなのにまさかの護衛主を放り出して逃げ出すなんて……。冒険者としてしてはならないことだ。
きっと御者さんはレガメ街に着いたら冒険者ギルドに依頼放棄されたと報告をする。逃げた冒険者達をそのまま放置していたら冒険者ギルドの信頼にも関わる。だから、冒険者ギルドはその逃げた冒険者に何かしらの罰を下すだろう。
冷たいと思われるかもしれないが、これがこの世界のギルド内のルールだ。
「それは……何かすみません」
思わず、謝ってしまった。
「兄ちゃんが謝る必要はないだろう。悪いのは逃げた奴らだ。もうあいつらに依頼することはねぇよ。ま、今度会ったらタダではおかないけどな?」
そう言って、また御者さんは悪人みたいに豪快に笑った。
見た目は確かにガタイは良いけど優しそうな雰囲気なのに話し方ですごく印象が変わるな。
でも、なぜだかそんなところに好印象を受ける。
「もし御者さんが良ければですが、またどこかの街に行く時は俺に護衛依頼を出してください。今まで冒険者として活動しながら色んな国を旅してきましたが、しばらくはレガメ街を拠点に活動する予定ですし。ソロで活動していますが、冒険者ランクはそれなりに高いので、護衛として役に立つと思いますよ」
「お!本当か!じゃあ、その時は兄ちゃんにお願いしようか!そういや、さっきから御者さんなんて呼んでくれてるが、俺はネッドって言うんだ。気軽にネッドって呼んでくれて構わないよ」
「ネッドさんですね。俺はユヅルって言います。もし護衛として雇って下さる時はお願いしますね」
名乗り合って、お互い色々な国に行ったことがあるという共通点があったことから色々な国の話で盛り上がり、レガメ街まではあっという間に到着することができた。
ネッドさんは知り合いに荷馬車を預けてから冒険者ギルドに行くと言っていたので、レガメ街の門近くで降ろしてもらい、俺は冒険者ギルドへと向かった。
レガメ街に来たのは約1年ぶり位になる。異世界に転生して最初の街がレガメ街だった。ここではいろんな人に出会って、たくさんのことを学んで経験したからか、なんとなく実家に帰ってきたような感覚がある。
それに、なるべく早くこの世界に馴染むために1番長く滞在していた。
もう異世界にきて2年が経つのか……あっという間だったなぁ…。
最初の頃は初めてのことだらけで大変だったけどこっちの世界に馴染むのは結構早かった。多分、知りあった人たちが良い人ばかりだったからだろう。
それに、神様から貰った能力と万能書もあったし。
時々、地球のことを思い出して恋しくなることはあったけど、それでも楽しいことがたくさんあったから今ではあまり寂しいと思うことはなくなった。
まあ、確実に想定外だったことというか未だに自分でも信じられないことが1つあるけども……。
それでも、この変化はきっと良いことだろう。
これからも楽しい日々が続くといいな。
そんなことを考えながら、この街に来るまでに倒した魔物の素材を売る為に冒険者ギルドへ足を進めた。




