ハリネズミ(日本語版)
고슴도치(https://ncode.syosetu.com/n7111ig/)の私訳。
最近、室蘭市街には高い建物が建てられた。上島立作は、自分が子供だった頃よりも見事になった街を眺めながら楽しんだ。
まだ貧しい生活は必ず改善され、いつか途方もない大きな都市になるだろう。
だが、いろいろな人や物が発展するのではない。時には消えていくものもある。そのうちの一つが脱檀者保護所だろう。「私たちの国に来てください」「皆さんを歓迎します」など記した言葉が壁や看板に使われていた。檀都の支配から逃げた人々はここで安心して高天原の国民として暮らす準備を整えていたのだ。
だが、政府の政策のために脱檀者を保護する活動に危機が近づいている。
高天原共和国は建国から檀都支配を避けてきた人――いわゆる脱檀者――が集まっていた。
脱檀とは、檀都による支配を脱して高天原に去ることを指す。
南北韓時代、共和国から民国に逃げることを意味した言葉に由来する。
脱檀者の中にも特に優れた才能を持っていたのは浦沢雄一だろう。熱心な愛国心を鼓属まで持つ何度も檀都での逃亡をしようと失敗して閉じ込められたが、102年のある日10万人以上の同胞と共に海を渡り北海道に去った。雄一とその仲間のおかげで、高天原科学技術は徐々に早く進歩した。
こうして脱檀者は高天原の発展をかなり支えてくれた。
しかし時代は移り、高天原政府は脱檀者支援の縮小を発表したのだ。
当然反対意見にさらされたが、大統領をはじめ上層部の意は変わらなかった。
高天原は日本州にいる日本人を引き込む意志を捨てた。
彼らはすっかり檀都の国民となり、外国である高天原に対し不信感を抱くに至った。高天原人も日本州の日本人を同胞とはみなさなくなった。世代の交代を経て、かつての歴史を知らない人間が増えたからだ。
穏やかな路地へ歩いて行ったところ、里作は退役軍人たちが集まるカフェ『ヒンナ』を訪れた。核戦争前の日本音楽が演奏され、どこにでも楽しい感じでいっぱいだった。長い嵩下で部屋まで歩くと、窓越しに若い軍服姿の男たちが五純度順お互いに話していた。
彼は誰が主に話しているのかをすぐに調べた。
澤島義厚だった。この士官は同僚の前で大胆に並んだ。
部屋に入ると立作はコーヒーを一杯注文した。それがこのクラブでの習慣だった。
普通の日であれば、コーヒーを飲みながら静かに過ごすのが望みだが、沢島が許さなかった。立作を知るとすぐに沢島は立作を大声で呼んで歓迎したからだ。
「おや、私たちの英雄ではありませんか」
「英雄?それほど贅沢な名前で私を呼んでくれるな」
「違う。あなたは噴火湾の沿岸開発を導いて高天原を豊かにした英雄ですから」
沢島の過剰な賞賛に苦笑をするしかなかった。
それでも立作は初めて話を聞いたところ、何か危険な空気を感じた。
これまで室蘭の発展、高天原の今後についてあれこれ議論したが、参者物語街が檀都との今後の戦いについて回ったが沢島は声で酒を飲んだ。
「私たちは檀都という巨人のせいで壁に囲まれたままだ。私たちは彼らのせいにいつも消えなければならない。だから私たちが先に檀都を攻撃すればいい!」
「その通りよ! そもそも攻撃したのは檀都なのよ!」
「そうだ、世界を檀都から解放しなきゃいけない!」
聞く人を過激な論調に引き寄せる沢島。
「列島で朝鮮人を一匹も残さず駆逐する。これが来た日本人の願いだ」
ついに立作は我慢できず叫んだ。
「よせ」
沢島はびっくりして一言も言えなかった。
「お前の言葉は正しい。だが気に食わない」小さな声で沢島。
「なぜ?私は、政府が檀都の日本支配を認めた理由を知らないのですか?私たちは日本を取り戻すために戦ってきたのではありませんか?」
「違う」立作は冷ややかに答えた。誰もが驚いた。
「とんでもない。私たちは長い帝国を…」
ついにこらえきれなくなり、立作は声を張り上げた。
「もう日本という国は存在しない。……ない方がより良い国だ!」
この叫びに皆が静かになった。
沢島はなぜそんなに相関が怒ったのか分からず、ぼんやりと口を開けるだけだった。
立作は実はさらに説明したかったので、義にかかって旧態の懐かしい彼らの前でずっと論じる力がなかった。
だから、
「それがこの国が建てられた理由だからな」とその場で急いで去った。
立作は思い出した。幼い頃、この国の存在理由についてうるさく聞かされた日を。
旭日軍の残忍な支配の記憶は、内地の人だけではなく、北国の民にも深く刻まれた。狂った民族主義や国家主義の下で、誰もが無駄な戦争に邁進した。
何の意味もない主義主張を打ち立て、互いに殺しあい争ったのだ。そして誰も救えず消えていった。
北海道が三国に分かれてしばらく争いは続き、檀都の脅威に備えて、この島の人々はついに一つの国になることを決めた。
それも初代大統領たる斯波輝久が平和のために力の限り戦った結果だ。
かつての敵を集めて輝久は静かに言った。
「『日本』を国名にしないほうが良い。それは間違った政治理念を持ったまま続いたせいで二度も失敗した国だ。私たちが彼らの失敗をつなぐ必要はありません」
「いや、私たちは日本人だ」
まだそれほど意見を変えない人々に輝久は言った。
「日本という概念が私たちを救いましたか?」
輝久の説得が続いた末、政府は新しい国名を決めることにした。全ての国民がその結果を楽しみにした。
国名には日本語の古語、またはアイヌ語に相関する単語も候補となった。
長い議論によって政治家たちは名前を決めた。
そして決まったのは高天原。日本神話に登場する神々の世界。人の味方が汚れる前にあった秩序。
沢島など、まだ長い間考えられている人がいるのも事実だ。
建国初期、すぐ檀都から日本を奪還せよと訴える同士の前で輝久は言った。
『広がるな』
今は北海道という小さな島で生きて行かねばならない。
無論、列島統一を成し遂げられるならばそうしたい。
しかし高天原の国力で日本の統一は不可能である以上、我々は日本の未来を日本州の住民に任せるしかない。いつか、彼らが高天原と共に生きようとするかどうかの決定を……。
しかし、まだその理念を理解している者は少ないようだ。立作は暗澹とした。
実際、日本には狂った思想によって悲劇を生んだ愚かな歴史がある。
その憎しみの歴史を経験した子孫がその愚かさに従う必要など全くない。
立作には日本帝国と旭日軍が起こしたことを遠い昔の歴史とは思えなかった。
もし日本人がすべての過去の過ちをあきらめたら旭日君のような悲劇も生まれなかったはずとさえ思う。
だから、初代大統領の言葉は間違いなく正しいと信じた。
それに、多くの苦難を経たうえではこうも思う――もう私たちは、統一をさほど望んでいないのではないかと。
立作は少し心を落ち着かせようと、埠頭に入った。
灰色のアスファルトの果て、青い海岸にはいくつかの壮大な軍艦が並んでいた。
檀都との海戦に活躍した軍艦は、激戦で傷ついたにもかかわらず、堂々とした姿を守っている。駆逐艦の紗那と柏原が滞在していた。
このあたりを眺めるたびに、立作は誇りに思う。なぜなら、この軍港を噴火湾に作り出す計画は、立作が起草したものだからだ。
何せ会わなければならない人がここにいるのだ。
歩いて行ってきた作業をする捕虜がある。先ほどの戦争で捕まって高天原に捕虜になったのだ。決して命令に逆らないので、制限があるが少しだけ自由に行動している。
藤正習という男だ。定習は最初の高天原兵士にいじめられ殴られたが、立作が強くて叱りつけたおかげで、助かった定習は立作を慕うことになったのだ。それでもゆったりと話せる時間も残っていない。
近く開かれる捕虜交換式の時、船に乗って日本州に帰る予定だからだ。
「こんにちは」 定習が先に挨拶をした。
定習は他人と会話することは珍しいが、立作には積極的に挨拶をしてくれる。
「ごめんなさい、定習さん。道を歩いたせいで遅くなってしまった。別日ありますか?」
この男との会話を通じて、立作は日本が今どんな状況にあるのか尋ねることができた。
「ありませんが、…病気になった父母が心配です」
やがて立作は顔を噴火湾に巡らせた。定習も彼に従った。
二人は静かな海を眺めながら会話を始めた。
「手紙を送ったのか?」気になると立作。
「送りましたが、返信はまだありません」
定習は悲しい顔を浮かべながら答えた。
その時だけ彼らは敵同士なく、一人の人間という立場で互いに会話することができた。
立作は個人的にこの男が好きだった。もちろん敵国の兵士だから明らかにできなかったが、立作はそんな人が増えれば世界はもっと良くなると思っていた。
「君は家族を愛している」
この男と敵ではなく一人で言えるこの時間が快感だった。
「でも、私の仲間によると妹に子供ができましたね」
「幸せ者だな」
定習は明るい目で立作を眺め、
「立作さんは本当に祖国のために働いています。私が故郷に戻ったら、あなたの功績について話しましょう」
「やめてくれ。私はそんな偉大な人じゃない。ただ国のためにできることをしているだ」
定習に外国人の血は流れていない。彼は生粋の日本人だ。それでも社会的な地位を上げるため、あるいは檀都の理念への共感のために檀都に仕える兵士となった。
習慣の父は埼玉、日本人がかつて『サイタマ』と呼んでいた土地で旭日軍に従って抵抗し、最後に檀都に降伏した後はその忠実な臣下として戦ったのだった。朝鮮州でも、渤海州でも、オンドゥルパンでも……。檀都が敵に見なしたものを滅ぼし祖国で立場を固めるため。
名前も朝鮮式に変え、朝鮮人に溶け込んで檀都のために忠誠を尽くした。
息子も檀都政府による教育を受け、檀都に愛国を誓う男に育った。
父も息子も檀都の臣下として仕えた。
立作はその意志を笑いたくなかった。
立作はわざとこうさそった。
拒否するとしても、そう言ってみたくてどうしようもないのだ。
「ここにいれば日本人として生きられる」
「できればそうしたいですが、もう遅いです。私は自分が誰だったのか忘れてしまいましたから」
北海道でも、北海道以外でも、日本は短い間に昔と変わるようだ。
ここに住んでいる人さえあまりにも変わってしまったのだろうか。
「私たちは檀都の人々と戦いたいんじゃない。見知らぬ人間にとらわれずに自由に生きればそれでいいんだ」
「そうです。私たちは体を合わせたまま一緒に暮らせないハリネズミのようです」
明らかに定習は、檀都のために戦ってきたことを誇っていた。立作はその精神を折る気はなかった。
「しばらく平和が来ればいいな」
「そうですね」
例えば日本州が檀都から独立しても高天原と一つになろうとはしないだろう。断島軍の侵略からあまりにも長い時間を経たため、列島は互いに分断されてしまったのだ。
定習と別れた後、立作の意識は全世界に広がった。一人のために心を呼ぶ愛情のある人ではなかった。
この国で、高天原に生まれたのは実に過酷な運命だ。だから彼は将来を考え続ける。子孫が少しでも生きやすくなるために。
檀都が消えても、檀都を継いだ国が再び高天原の敵になるだけだ。この戦いはなかなか終わりそうにない。
いずれにしろ、必ず檀都は侵略しにくると上島立作は確信していた。
立作はすでに次の戦略について考えていた。いつまでも昔を懐かしむ幼い子ではいられないのだ。