ホッと息つく缶コーヒー
「あ゛ぁ~、落ち着くぅ」
バイト先の休憩所――の、裏手にあるスペースで、自分で持ち込んだパイプ椅子にぐたぁっと座りながら、缶コーヒーを一口。
うん、美味し――
「あれ? 先輩?」
突然聞こえた声に、垂れていた身体を瞬時にシャキッとさせて振り向くと、少し前からバイトを始めた後輩が呆然と立っていた。
見られた!
私は普段“頼れる先輩”を演じる事で、割りとだらしない自分の本性を周りに隠し続けて来たが、実際とギャップがありすぎて結構ストレスが溜まる。
だから、仕事の合間は、誰も来ないこの場所に一人で居るのが唯一の癒し時間だったのに!
「そんなにお疲れなんですか?」
「え、いや、その――」
えぇ!
お疲れです!
見栄を張るのも楽じゃないの!
「俺、まだまだカバーして貰ってばっかで、先輩に負担ばっかり――」
いや、こうやって余所行きモードでいる事に疲れてるの!
お願いだから、私を一人にしてぇ!
こころをやすませてぇぇ!
「あ゛ぁぁ、もぉ、ほっといてぇ? 一人で心置き無くぐだぐだしたいのぉ! ずっと気を張ってると疲れるのぉ!」
――はっ!?
私は今何を――
「えっと……先輩?」
「お、お願い……今見た事は内緒にして。 いい事教えてあげるから」
何とか秘密を守りきるためにも、最近知ったばかりの知識を披露する事にした。
「いい事、ですか?」
「コーヒー飲むとリラックスできると思わない? 実はね――安定剤が入ってたのよ」
どおりで落ち着けると――
「先輩、それ本気で言ってます?」
「へ?」
「コーヒーのリラックス効果は、香りとカフェインによるものです」
――安定剤って、“増粘安定剤”ですよ?
「……もぅやだ……いっそ殺して……」
「いや、そんな落ち込まなくても」
「ダメな所ばっか見られて……もぅむり……責任取って……」
「……わかりました」
「あ゛ぁぁぁ~疲れたぁ!」
「先輩……はしたないです」
“いつもの”場所で、くたぁっと腰掛けた私の隣で、声がする。
「別にいいじゃん、私達しか居ないんだし」
「まぁ、先輩外面良いですからね。 ……まさか中身がこんな人だとは、皆夢にも思ってないでしょうね」
「惚れ直した?」
「……普通は『幻滅した?』って聞きませんか?」
結局、あれから付き合う事になった私達。
「だって“コレ”知って告白って来るような変わり者じゃん」
「……否定はしません。 ほら、手の掛かる子の方が可愛いと言うか、しつけ甲斐が――」
「あたしゃ犬か!」
意外と、上手くやっていけそうだ。