そして女神は時計をしまう
勇者ソロは、ぼんやりとした意識から覚醒すると冒険の街に立っている事に気付いた。
「そうか……俺はハイオークに殺されたのか……」
そのソロは呟くと周りを見渡した。空しいソロの心とは正反対に街は賑やかな様子を見せる。
「今回はパーティを組む前に戻ったのか」
ソロは神からの死に戻りの祝福を受けていた。勇者である限り、死んだら記憶だけを残して、一定の時間が巻き戻る。他の勇者のように人の何倍もの力を手にするようなものではなく、単に時間が巻き戻るだけの祝福だが……
「前のパーティでは力不足だった。別のパーティを探すしかない」
ソロは前に向かおうとしていた冒険者ギルドではなく、冒険者酒場に足を向けようとする。すると、後ろから声を掛けられた……
◇
ソロはハイオークが出現した洞窟で喜々として剣を振るっていた!
(賢者メルキオールは最高だ! これならハイオークにも絶対に勝てる!)
ソロの名声を聞きつけてパーティを組んだメルキオールは、ソロにとって相性の良い賢者であった。メルキオールは今までソロが薬草に頼っていた回復や薬に頼っていた身体強化を魔法によりサポートし、攻撃魔法でソロを援護射撃する。
「あと少しでハイオークが居る場所だ!」
ソロが戦いながら前に進もうとすると、後ろでドサリという音が聞こえる。
ソロが振り返って見た先には、大量のゴブリンに斧を立てられたメルキオールの姿があった。奇襲であったのか悲鳴を上げる事を許さないように口を手で塞がれていた。
「メルキオール!」
ソロは急いでメルキオールの傍にいるゴブリンたちを切り殺し、メルキオールを確認したが既に彼は絶命していた。ものを言わぬ遺体が地面に転がる。
「うわぁぁぁぁ!!」
ソロは次々にゴブリンに刃を入れながら考える。
(メルキオールが死んだ……どうする? メルキオールに頼ってた身体強化も回復もなくなった……俺はどうやって、これから戦えばい良いのだ? そ、そうだ! 今死ねばメルキオールに出会える前に戻れる。それがいい!)
そして、ソロは自分の首に剣を当て……
◇
神の国の塔のテラスで、けだるそうに人間界を見下ろしている女神は、手に持っている時計を自身の傍にある箱の中にそっと置いた。その様子を見ていた天使が女神に話しかけた。
「時間を巻き戻さないのですか?」
「一人でも立ち向かうのが勇者よ? 最初から他人をアテにして自死を選んだら勇者じゃないわ」
そう言うと女神は時計を箱の中にしまった……
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