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プロローグ

気分によって色々変わります。よろしくお願いします。

「宮坂 奈々。僕と、楽しい楽しい遊戯(ゲーム)をしないかい?ルールは簡単。君に、ある少女を助けてほしいんだ。僕が負けたら、君の望みをなんでも叶えるよ」

 へらへらとした男は、軽い調子でそう笑った。



…………………………
















 気がつけば、宮坂(みやさか) 奈々(なな)は首を固定された状態で、うつ伏せに寝かされていた。


 どうでも良いが、奈々は自分の勘にある程度の信頼を置いている。いわゆるブラック企業で勤めていた奈々を幾度となく助け、20年少々を共に過ごしてきた自身の宝物。


 そんな勘が、奈々へ危険信号を送っていた。


 地面に固定された首をなんとか動かし、奈々は周りへ視線を巡らせてみる。


 人、人、人。辺り一面、人だらけ。人々は思い思いに叫んでいるようだが、奈々にはどの声も感じ取ることができない。


 そこまで考え、奈々は目を背けていた事実と直面した。


(皆、私に憎悪を向けている?)


 周りが自分に向ける視線には、見覚えがあった。あれは、理不尽なパワハラ上司に向けられる、殺意の篭った目だ。


 会社では隠す必要のあるそれが、どの者を見てもありありと映し出されている。


 思わず目を背けた奈々は、更に見たくないものを見てしまった。


 木造の、柱。それはずっと上まで続き、ロープを繋げている。この形には、見覚えがあった。


(これは、断頭台だ)

 断頭台であるならば、首の拘束も納得ができる。

 しかし、気づいた後ではもう遅い。


 奈々が声を出す前に、奈々の首と頭は永遠の別れを告げていた。





……………





「……さん、起きてください」


 奈々は、誰かが優しく自分を揺り起こす声で目が覚めた。


「う、ん……?」

 目の前に、人間とは思えないほど顔が整った女性が、いた。


「よかった。間に合いましたね」


 緩やかにウェーブを描く黄金の髪を揺らし、美女は微笑んで見せる。奈々は尻込みながらも会釈を返した。


「どうも。えっと……」

 ハッとしてから、ゴールデン・美女(命名・奈々)は目を伏せた。


「名乗り遅れました。わたくしは、あなたにとって異世界創造を司る女神、リュエストと申します」

 マリシャさんで間違いありませんね?と尋ねられ、奈々は反射的に違います、と返した。


 ゴールデン・美女ことリュエストは、困惑した表情を浮かべている。


「いえ……。今日、悪役令嬢として斬首刑に処されたマリシャ・エイヴァスさん、のはずですが……?」


 奈々は、思わず自分の姿を見下ろした。燃えるような赤い髪、豊満に揺れる胸、たおやかさを失わない程度に引き締まった四肢……。それらは、ブラック企業に勤め、枯れ花の20代を送る予定だった奈々の持ち得ない品々であったはず。


 つまり、パソコンの見過ぎで低下した視力を人並みに戻すための眼鏡とも、仕事に追われ碌に手入れを行わず荒れ切った肌とも、絶壁という言葉がまさに相応しい胸部とも、全てとおさらばしていた。


 喜んでいいのか悪いのかがわからない。複雑な思いを抱えたまま、奈々はリュエストと向き直る。


「すみません。その、マリシャ・エイヴァスさんとは全く無縁の人物ですね。私は、宮坂奈々って言います」

 かくかくしかじかございまして、地球の創造神さんに転生させてもらいました。


 その言葉を聞いた途端、リュエストから表情が抜け落ちた。


 正直に言おう。美人の真顔、超怖い。


「あんの、クソ野郎(クレイ)……」

 吐き捨てるように、リュエストがそう言った。美女女神様の、見てはならぬ一面を見てしまったのかもしれない。思わず、奈々は遠い目になった。


 奈々の存在を思い出したのか、リュエストは小さく咳払いをする。

「クレイ——地球の創造神です——が、失礼いたしました。なんとお詫びしたら良いのか……」


「気にしないでください」


 奈々はそう言って笑って見せる。実際、全く気にしていなかったからだ。言うなれば、感謝さえもしている。


 丁寧な女神は、また正式に対処するとのことを約束してくれた。

(お互いにメリットがあって乗った話だから、別にいいんだけど)


 とはいえ、相手のメリットはなかなか不純なものであったので、あえて言わないことにしておく。


「話の腰を折るようですが、時間がないので失礼します。奈々さん。あなたには、転生していただきたく思います」


 本番は、ここからだ。

 奈々は小さく顎を引く。


「転生の特典……と言えばわかりやすいでしょうか。それは三つの選択肢があります。女神の慈愛、男神の祝福、そして、愛子」

 基本的に、女神の慈愛を女性が、男神の祝福を男性が選ぶ仕様となっているらしい。愛子に聞くと、あからさまに目を逸らされた。どうやら、聞いて欲しくない情報らしい。


 それを見て、奈々の心は決まった。


「では——」

「こちらへどうぞ。このゲートを潜れば、選択肢が現れるはずです」


 どうにもリュエストの笑顔が胡散臭い。奈々は笑顔を浮かべながらゲートまでにじり寄ると、一気に駆け出した。



「御武運、お祈りしております!」


 遥か後方からリュエストの声が聞こえるが、知ったこっちゃない。


 しばらく走ると、向かった先に三つの幻想的な風景が浮かび上がってきた。


 『女神の慈愛』の滝と、『男神の祝福』の焔と、『愛子』の光源。


 奈々は一直線に、『女神の慈愛』と文字が浮かぶ滝に飛び込もうとする。しかし、それは果たせなかった。


 滝に飛び込む瞬間、光源と滝の位置が入れ替わったのだ。


「いとしご……」


 助走の勢いを殺しきれぬまま、奈々は光源へと飛び込んでゆく。


 してやられた。犯人は、ほぼ確実にリュエストだろう。


 光が身体を包み込み、意識が白んでいくのを感じた奈々は、諦めて身を任せることにした。

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