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CAR LOVE LETTER 「DANCING QUEEN」

作者: YAS
掲載日:2009/08/16

車と人が織り成すストーリー。車は工業製品だけれども、ただの機械ではない。

貴方も、そんな感覚を持ったことはありませんか?

そんな感覚を「CAR LOVE LETTER」と呼び、短編で綴りたいと思います。

<Theme:NISSAN SILVIA(S14)>


この世の中には女と男しかいない。あたしは女。ただそれだけ。

車趣味は男のものだなんて誰が決めたの。女が車を趣味にして何が悪いの。あたしは車が好き。それでいいじゃない。


元々は、車になんて興味なかった。知ってる車も家族のくらいで、車の名前を言われてもピンと来なかった。


前に付き合っていた男が車好きで、彼の影響もあったかも知れないけれど、基本的には車なんてどうでもよかった。

でもある日、彼との温泉旅行での夜に、あたしの考え方は180度ガラリと変わった。


あたし達の泊まった温泉宿は、日本有数の走り屋の集まるところだった。もちろん彼の趣味でこの温泉に決まったのだけど。


お風呂に入り、夕食をすませ、後は夜のお楽しみだったのだけど、彼はその前に、もう一つのお楽しみだと、浴衣からジーンズに着替え始めた。


温泉宿から10分も歩いただろうか。真っ暗な山道に、ちらほらと人だかりが現れる。

よく目をこらすと、かなりたくさんの人が路肩で今か今かと何かの登場をソワソワ待ちこがれていた。

まるでコンサート開始直前の雰囲気の様だ。


何が始まるのか検討も付かず、暗闇でソワソワする彼をいぶかしく思っていると、突然その時が訪れた。


轟音とヘッドライトの光と共に、カーブの向こうから現れる二台のスポーツカー。

あたしの知っている動きじゃない。常識では考えられない方向向いて、常識では考えられない音をたてて、そして常識では考えられない車間距離で、滑る様に暗闇の峠道を疾走する。


そう、彼らは滑っていたのだ。生まれて初めて見るドリフト。

あたしはそれに釘付けとなった。


色とりどりの派手なスポーツカー達が、次々に派手な走りを披露する。

もちろん非合法である事は一目瞭然だ。


その公に認められない一種の背徳感が、彼らのパフォーマンスに更に華と輝きを添えているように感じた。


その華やかで危うげな姿に、あたしは完璧にドリフトに魅せられた。


その日は早い段階から警察の手入れがあり、走り屋達はクモの子を散らす様な手際であたしの前から去って行った。

ものすごい不完全燃焼。あたしはそれを彼との夜に全てぶつけた。


その日からと言うもの、彼の部屋の車の雑誌やドリフトのビデオをみるのがあたしの日課になった。

新しいのが発売されると、自分から買うことも少なくなかった。


彼もあたしが車に興味を持ったのが嬉しかったようで、俺の車で練習しろよと、ちょくちょく彼の180SXで埠頭に走りに行ったりもした。


最初は全然できなかったドリフトが次第に上手くなるのが楽しくて、あたしはついに自分の車を買う事にした。それがこのシルビア。


毎晩の様に走りに行って、彼や彼の走り屋仲間にも教えてもらって、あたしはどんどんドリフトにのめり込んで行った。


しかし、あたしが上手くなるに連れて、彼や彼の仲間の態度がおかしくなって行った。

あんなに一緒に車遊びをするのを喜んでいた彼からは「車は女が趣味にするもんじゃねぇ。」などと冷たい言葉も浴びせかけられた。


あいつ、あたしが上手くなって、自分よりもチームや峠で目立っているのが気にくわなかったみたい。そんな事をチームの仲間に触れまわってると、仲良くしてる後輩が話してくれた。


小さいやつ。

別にあたしはあんたやチームなんてどうでもいいの。

あたしは自分が楽しく走れれば、チームもコースも関係ない。

だったらあたしから、あんたの前からいなくなってやるわ。


あたしは、仲間とだべっているあいつに詰め寄り、みんなの見てる前であいつの横っ面をひっぱたいて、悔しければドリフトで勝負しな!と一喝してやった。


お前が乗ってタイヤがなくなったから走れない、とか言って、あいつは勝負から逃げた。

ホント最後まで小さいやつ。こんな男と一緒に居たかと思うと、自分にも腹が立った。


あたしがチームから抜ける時、あたしに話してくれた後輩と、仲良くしてた仲間数人も、あたしについて来てくれた。

たんかを切ったはいいけれど、本当は不安でいっぱいだった。

そんなあたしを支えてくれたあいつらは、あたしにとって本当に大切な仲間。あいつらが居るからこそ、今日もまた走りに行くんだ。


あたしは峠に行く時は、友達の子達がクラブとかに行く時の様に、バッチリメイクして、お気に入りの服からその日の気分に一番あったやつを着ていくの。


みんなはクラブで音楽に乗って踊るけど、あたしは峠でシルビアに乗って踊る。

みんなにとってのステージはクラブ。あたしにとってのステージは峠なの。


そんな感じだから、勘違いした男に峠でよく声をかけられる。


バーカ。あたしはあんたの股間に興味は無いの。

あたしが欲しいのは、ギラギラしたホントにヤバい走り。あんたそういうの出来るの?

もし、あたしがシビレる様な走りが出来るんなら、その後の事、考えてやってもいいけどね。


今夜も背徳のパフォーマンスのステージの幕が上がる。

ストリートダンサー達の華やかで危うげなショーがスタートする。


あんた達、あたしのシルビアのお尻をしっかりと見てなさい。

最高にヤバいダンスを、見せてあげるから・・・。



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― 新着の感想 ―
[一言] すごい。この書き方、登場人物、素敵です。 思わず、映画にするなら、誰にしようかと考えてしまいました。作品を書いてるとき、いろいろと役者を想像して書くと楽しいものです。 革ジャン着てるんだろう…
[一言] かっこいい! かっこいいですお姉さん。一生付いて行かせてください。 恋人と別れるときのシーンが印象的です。 こんなにも主人公を虜にした車のことを教えてくれたのは恋人であり、恋人も主人公が変わ…
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