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キミがユメみたいばしょ  作者: ユメハ シンシヤ
8/10

夜の下校

 お見事に七分の一の確率の休部を引き当て、留未以外の三人とも息ピッタリに『おお~』と驚かせ、留未が用紙を見て、当たり付きのお菓子を当てた子どものように目を輝かせ、どや顔で用紙をヒラヒラ揺らす。


「ふっふん!ドヤ!」


 留未のどや顔は不思議とちっとも憎めない。

 

「これで決まりか」


 当選したから仕方ない事だが、ボードに記した ボランティア活動 休部 を見れば、部活が単に休部になったようにしか見えない…

 補足で活動は正常に行っております、とか付け加えた方がいいんじゃないのかコレ。



 戸締りを確認し、明かりを消してカギを閉め、五人で部室から校門まで一緒に歩いて行き、その間、留未は戸坂さんと別れるまで歓談していた。


「それではみんな、また明日ね~」


 留未が手を上げ詩利華は軽くお辞儀をして校門の外へ。大誠は自宅に向かわずスーパーに寄って買い物して帰ると言い、自転車をこぎ安全速度で歩道を走っていく。


 三人とも学園を離れ、校門の前に残った俺と戸坂さん。

 放課後から今に至り、よりみんなと馴染んで微塵も緊張が無くなり、俺自身も自然に会話をできるくらいに慣れていた。


「戸坂さん、あの」

「重川くんにお願いあるんだけど」


 帰り道を聞こうと声をかけたタイミングが悪く重なり、俺は一旦口を止める。


「あたしも苗字じゃなくて、昔みたいに名前で呼んでほしいな」


 戸坂さんが突然照れくさそうにお願いしてきて、上半身を左右に揺らしながら顔を少し見上げ、俺は言われてふと考える。


 初対面でもないし、下の名前で呼んだ方が親しくて良いか。

 "くん"は、付けないで、"ちゃん"を付けるべきか。それとも呼び捨てで呼ぶべきか。


「りおん。呼び捨てでいいか」


 ここはストレートに呼び捨てで呼んでみたが、女の子にいきなりこれは少々恥ずかしさが出てしまい、照れくさくてつい視線を背けてしまった。

 留未や詩利華はもう慣れてるけど、戸坂さんは小学生以来だからな。


 背けた視線をそっと彼女に戻すと、


「はい、弘充」


 返事と共に俺の名前も呼び捨てで呼び返し、笑顔というよりほんのりの笑みで彼女は一歩前に進み、俺の横から目の前に立ち、振り向いてこちらの反応を覗う。


 なんだこの男心を揺さぶる、まるで付き合ったばかりのカップルの初々しいドキドキシチュエーションは。キュンとしない男は多分いないと思う。

 学園で人気の高い詩利華と並ぶくらい戸坂さん。いや、璃音はルックスも良いし、放課後でさえあんなにもドキドキしたんだ。

 うむ… 会って間もないのに、これは一目惚れと言うのであろうか。

 他の女の子には簡単に惚れたことないのに、実は仕草と見た目ですぐ惚れる男だったのか。


「俺も呼び捨てされるとうれしーな、わーい」


 ドキドキしていることを隠すために、わけわからないジェスチャーで誤魔化しながら気を紛らわせ、自分の心を落ち着かせる。

 とにかく今は一目惚れとか考えてる場合じゃなく、普通に接した方がいい。正直言うと、詩利華や留未にもこんなドキドキした場面が何回かあったしな。


「小学生の頃は呼び捨てじゃなかったしね」

「それについてだが。あの頃璃音の事を男の子だとずっと勘違いしてて、君付けで呼んでいたことも今ここで謝る、すまん!」


 璃音の事を男の子と勘違いして、ヒーローの話をしたり、運動系ばかりの遊びに付き合わせたり、女の子に合わない事ばかりさせてきた俺の過去を手のひら合わせて、慌てて謝罪する。

 

「そんな、全然気にしてないよ」


 謝罪を受け止めながらも怒っている様子もなく、逆に困った表情で顔を振る。


「あの頃からあたしに女の子の要素なんてこれっポッチもなくて… でもこれからは女の子として見てほしいかな、なんて」


 困った表情のまま、声は小さくも少し協調性のある言い方をして、こめかみ近くの前髪をいじり、俺は璃音のささやかなお願いに紳士の心を持って答える。


「どこをどう見ても今の君は健気で可愛らしい女子高生だよ」


 言い慣れない褒めぜリフを言って、無性に口が痒くなってきた。


「そう見える?」

「ああ。恥ずかしながら、璃音の仕草にドキドキしてしまったくらいさ」


 隠すつもりだったが思った事を伝えた方が璃音へ実感がわく気がし正直に答え、ともない、異性への耐性の弱さにやれやれと悔いり、女々しい自分が複雑に考えさせられる。

 男は女の前では如何いかにカッコよく、逞しく、勇ましい自分を偽りであろうとも見栄を張って極める。

 女々しい俺でも男性が備わる本能にそって突き動かされる。今それを証明しす行動は、

 ―――――― スッ。 

 ポケットに手を突っ込む、これが最大の見栄だ。


「はは~ん。照れ屋だね」


 身体を前かがみに動かし、俺の目を見て小悪魔風に微笑む璃音。

 初めてみた表情で意外な印象が強く、悪い感じではないけどS属性を感じる。俺の見栄を見破ったかのような。

 留未よりの性格だと思っていたのだが、まさかの詩利華タイプ。もしくは二人の中間。

 璃音の性格って今どうなってんだ? 


「けれど、弘充らしくていいと思う」

「あまり褒められてる気がしないぞ」

「褒めてる褒めてる」


 話の流れで暴露して璃音に励ましてもらうカタチになってしまった。

 これじゃあ今と昔、あべこべだよな。

 璃音の性格、昔と違うからちょい調子狂っちまう。


「お前達、下校時間はとっくにすぎてるぞ。早く帰れ」


 唐突に図太い声の男性から声をかけられ、ビクリと身体が一瞬浮き上がり、恐る恐る後ろを振り向いてみると、鬼も見れば涙目になるほどの強張った顔をした、ジャージ姿の小山先生が袖を捲り腕組をして、俺を睨み付けていた。

 生徒、先生も帰っている時間に校門の前で話をしていたら怒るのは当たり前である。


「重川ぁ、お前だったのか。と、戸坂か」

「「すみません」」


 璃音が俺のせいで転校初日に担任の小山先生に怒られ、気の毒な思いをさせてしまった。

 小山先生に怒られるのは自身も初めてで経験したことない。

 胸座むなぐらを掴まれ、木刀で痛い目に遭わせたり、ギザギザの尖った石の上で正座を三時間させるなどと暴力的なお仕置きをすると学園の中でのもっぱらの噂… 怖い。


「なんで戸坂とこんな時間まで居るんだ。もしやナンパしてたんじゃないか」

「し、してません! 普通に話してただけです!」

「ハッハッハ、そうだわな。お前がそんな度胸あるはずもないか」

「先生、からかわないでくれますか」


 正座させるなど造作もないくらいのお叱りがくるのかと思っていたけど、いつもの上機嫌な小山先生で、バシバシ俺の肩を叩きからかわれたが叱られるよりマシだ。

 璃音も怒られずに済んだことだし。


「なんでもいいが、もう下校時間は過ぎている。話は明日でもできるだろ」

「そうですね。すみません帰ります」

「ま、道中気を付けて帰れよ。戸坂もな」

「はい、気を付けます先生」


 そう言い小山先生は門のカギを閉めながら、銜えた煙草に火を付けて、仕事疲れを吐き出すかのように煙を空気中に広げる。

 大人の喫煙タイムは最高のひと時。未成年の俺には共感できないが。

 煙草を銜えたまま愛車の黒塗り高級車に乗ってエンジンをかけてゆっくり走りだし、俺たちの前に手の合図ながら通り過ぎて行く。

 ああして見ると小山先生、恐れ知らずの怖いお兄さんに見える。


 最後に出てきた小山先生が帰り、学園に残ったのは俺と璃音だけとなった。


「さてさて、今何時」


 部室で時計を見た後は時間を見ていない。そうねだいたいね~、みたいなノリの勘で八時前くらいか。


「やば。とっくに八時過ぎてる」


 スマホの時刻 二十時二十五分。

 部室から出た時間と校門前の立ち話で約一時間が経っていたことに気づき、今日の時間の流れは一段と早く感じた。


 女の子一人で夜の道を歩かせるのは当たり前に不安になる。ましてや引っ越したばかりの璃音は道に詳しくないはず。もし、人気のない場所で痴漢、誘拐、ストーカーに遭遇したら逃げたり助けを呼ぶのは難しいだろう。

 なら、勇敢な俺が責任をもって璃音を無事に家まで送ろう。


「遅い時間になっちまったな。夜の道は危険だし、璃音の家まで送るぜ」

「あたしが引き止めたせいで帰りが遅くなったのに。弘充に悪いよ」

「なんの。友人として助けるのは当然だ」

「…ありがとう」


 俺の爽やかな笑顔を見て、一人で帰るのを不安がっていた璃音は安心した表情をして微笑んだ。


「どの辺に住んでるんだ?」

「この先にある駅の近くのアパートに住んでるの」


 学園から徒歩十五分ほどの距離にある駅はそれ程大きくはないが、この町の中心位置にあることで、場所的に利用者も多く、学園の生徒も通学などで利用していて、朝と夕方は客のほとんどが生徒達で埋まっている。

 俺が登下校にその駅前は通らないが、方角としては途中まで同じで、駅に向かうなら寄り道的なかたちになる。


「♪♪♪」


 そうして歩き始め、俺の横で鼻歌を歌いながら歩く璃音に軽い感じに聞いてみる。


「なあ璃音。聞いておきたい事があるんだが」

「なに?」

「ぶっちゃけ部活どうだった? 楽しかったか?」


 やはり気になる部活の雰囲気とメンバーのユルユル感が璃音に合っていたか。

 即決で新入部員とし誘って楽しそうにしていたし、みんなとすぐ仲良くなって悪い気はしてないと思うが、まず見学して見定めてから決めてもらった方が良かったような気もする。

 入って後悔させるのも気が引けるし、何せ璃音が決めること。


「すごく可笑しくて、すごく楽しかった」


 璃音の感想はとても分かりやすく再確認するまでもなく、百点満点付けれる笑顔で答えた。

 良い本音が聴けて、これで明日も璃音を入れて部活が行える。

 今日はグダグダだったが、明日からは本格的にボランティア活動への取り組みと計画を立てて、人々の貢献なるよう話し合おう。


「そういえば部活のメンバーは女二人男三人て言ってたけど、もう一人の男の人は来てなかったよね」

「もう一人はバイトが忙しくて来れなかったそうだ。なので明日、お昼の時間に紹介するよ」


 ここ最近バイトが忙しい凖は落ち着くまで部活に来れなさそうなので、お昼のランチタイムに顔を合わせてた方がいいかもだな。

 隼の個人先に『明日新入部員紹介するから、スマンがお昼空けておいてくれ』と、うちこみ送信。ついでに特撮ヒーローの動くスタンプもおまけで送る。


 あ。連絡先で気づいたことがある。


「俺達まだ連絡先交換してなかったな」


 まずするべきの連絡先の交換と、活動メンバーのグループに招待していなかった。そんな重大な手続きをすっかり忘れていた。部長として何たる失態。


「教えてくれるか」

「ちょっとまってて。…あれ、ない、どこ」


 足を止め、璃音はケータイを鞄から取ろうとするものの、何処にしまい忘れたのかガサゴソと慌てるような探り方で探し、ようやく教科書の間に挟まったスマホを見つけて、なぜか曇った表情をして真っ暗い画面のスマホの電源を入れる。


「よかった、点いた」


 電源が入り、画面の光が瞳に映ると同時に曇った顔が晴れ、明るい表情をする。


「普段ケータイ使わないのか」

「電話か時々の返信くらいの時しかケータイ触らないから。何処にしまったのか忘れてて」

「珍しいな。定番のSNSはよくしてるのかと」


 TmitterやRIME等々、スマホを持っている人なら馴染みのあるSNSアプリ。

 チャットアプリのRIMEであれば使っていない人など、ごく少数の人だけの定番中の定番。若者なら九十九パーセントの確率で使用している。

 璃音も年頃の女子高生ならSNSは絶対しまくってると思っていたのだがこれまた意外だ。

 こういうインターネットを利用したコミュニケーションアプリは楽しくて楽々使える分、いろいろ危ない分もある。必要最低限の使用しかしない人もいるだろうし、璃音はそっち派なのだろう。


「どうやるのかな」


 ぎこちない操作でスマホを扱い始める璃音。気になり横から覗いてみると、どうやら登録の設定が分からないらしくオドオド戸惑っていた。

 時々しかケータイを扱わないのなら無理もない。


「ちょっとケータイ借りていいか」


 璃音のスマホを借りて電話番号とRIMEのアカウントを登録し、その際に璃音は熱心に俺の手際を見ていた。

 

「俺の電話番号とアカウント登録完了だ。あと、部活メンバーのグループにも入れさせてもらった」

「ありがと」

「グループに一言メッセージ送ってくれ。そこから留未達も璃音を友達追加してくれる」


 ケータイを返し、受け取った璃音は人差し指でゆっくり文字を打ち込み、送信ボタンをタップする。


< 戸坂璃音です。宜しくお願いします。


「こんな感じで良い?」

「バッチリだ。すぐに留未から返信が来ると思うぞ」


 すると思った通り既読が早く、留未から返信が届く。

 

< やっほ~☆ これからよろしく璃音ちゃん☆


 個人でもグループでもいち早く返信してくる留未はSNS大好き女子高校生であり、撮った写真をSNSに投稿し、友達の投稿に”いいね”やコメントしたりとふんだんにSNSを活用している。

 家ではご飯とお風呂以外はケータイを手離さず、SNSや動画を見ていると本人から聞いた。やや依存症な気もするが若い子は大体そんな感じだろう、今の時代。


「ホントだ。返信速い」

「アイツいろんなSNS使ってるから、届いたコメントをすぐ返す癖があるから早いんだよ」

「あたし的にはSNS使いにくい」

「俺もSNSはこのアプリ以外はあまり使わんな」


 クラスのみんなもSNSを使い情報共有して、一度興味を持ってしてみたが二、三回投稿しただけで俺のSNSデビューは終わり、暇なときにフォローしている人の投稿を見てるだけだ。

 留未は手作りお菓子や友達と撮った写真をSNSに載せてたり、投稿するたびフォロワーからのコメントがたくさん着ていた。扱う人のセンスによって人気が出たりするのもSNSの面白いところって感じか。

 俺が投稿した時、着たコメントがいつも留未と詩利華だけだった…


「この小さい写真大きくするのってどうするの」


 璃音が画面に顔を近づけ留未のプロフィール画像に指をさす。


「それはな。そのアイコンをタップすれば大きくなる」


 横から手を伸ばし、留未のアイコンをタップしてプロフィールを開く。

 プロフィール画像に載せているのは俺達とは別の友達同士の喫茶店で撮った、仲睦なかむつまじく賑やかに楽しんでいる写真。そこにいる留未はパフェで使うスプーンをくわえたまま、旨すぎてほっぺがとろけちゃうポーズして満足顔で映ってある。


「お前小学生かよ、てな顔してんだろ」

「プフッ。あ…」


 留未の写真にツッコミを入れると璃音は小さく笑いが零れ、笑ってはいけなかったと口を塞いで申し訳なさそうに目を瞑った。

 見て見ぬふりをしようと思ったのだけど意地悪の心が突き動かした。


「璃音もそう思ったか」

「ち、ちがうの!! そんなつもりじゃないの!!」

「ではあの笑いはなんだったんだ?」

「えと、えと… いじわる」


 璃音は細い眉毛をハの字にして風船のように頬を膨らましながら上目遣いで、俺にひどいと目で訴えてきた。

 今日一日で璃音の喜怒哀楽を見れた気がする。

 また昔の話に戻るが昔の璃音は喜怒哀楽が無いに等しいくらい、どんな時も固まった無表情で感情が伝わらなかった。そうだった彼女がこうやって俺の前に、人が持つ四つの感情を見せた。

 短い時間一緒に遊んだだけの関係であるけれど、明るく元気な璃音の姿が見れてなんというか嬉しかった。


「あそこだよ、あたしのアパート」


 璃音が向いた目の先によく見かけるタイプの一戸建てアパートがそこにあった。

 アパートの前に来て俺はその場で止まり、璃音が一歩前に進んで後ろを振り向いて俺を見る。


「今日はいろいろありがと。部活楽しみにしてるよ」

「充実した楽しい学園ライフにしような璃音」

「うん。じゃあね弘充! また明日」


 璃音はそのまま自分の部屋へと向かい階段を上ってゆくうしろ姿まで見送り、別れる最後まで璃音は喜色満面だった。

 急遽転校が決まったと朝のホームルームの時に彼女は言った。事情は個人のプライバシーに触れる為、聞かず触れず。だけども、璃音が転校してきた今日という日は良い思い出として俺の記憶に残る。それと、再会に涙した璃音を思い出し、自分で言うのは引いてしまうが大した存在でもない俺に会えたことで良い思い出になってくれたなら良いかな。



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