新メンバー加入
時が経つに連れ太陽が沈みかけ月の光が空を薄く照らし、グラウンド周辺の電灯のスイッチが入り、電気をつけていない二人きりの教室は外の光だけで室内を明るくする。
「ハンカチありがとう。洗って明日返すね」
泣き止んだ戸坂さんは俺のハンカチを丁寧に畳んで、汚さないよう綺麗な入れ物に入れる。
「あたしのせいですっかり暗くなったね」
「気にするなよ。友として付き合ってたんだからさ」
「そういう優しいところも変わってないんだ」
ブーーー
胸ポケットに入れたスマホが一回振動したのに気づき、スマホを取り出し画面を開くと新着メッセージの通知が一件入り、確認すると送ってきたのは詩利華からだ。
> 用事まだ済まないんですか? もし道草しているのなら早くこっちに来なさい。みんなが待ってるわよ。
大誠と教室で別れて一時間が経ち、部室で俺が来るのを待ち焦がれているであろう。
話を折るようで悪いが三人を待たせるわけにもいかない。戸坂さんを見送って素早く部室に向かわないと詩利華にコテンパンに怒られてしまう。
「ごめん戸坂さん。ぼちぼち部活行かないと部員に怒られちまう」
「はえ~、部活やってるんだ」
部活と言うと窓の外の方を向いて陸上部が一生懸命走る光景を羨ましそうにじっと眺めた。
「何部に入ってるの? 運動系?」
気になるのか、部活の情報を尋ねる。
人の役に立ち隊! なんて言えない。高校生が考えた割に何のひねりもないネーミングセンスの低い名前を自信満々に言えるか。
分類でいえば運動系ではない文化系になる。名前は伏せてそれっぽい感じに言っておこう。
「体は動かすが運動ではなく人の役立つために動く、ボランティア活動部だ」
意味合ってる、嘘言ってない、名前も非公認で正式に決まってないからしょうがなく仮名で言うしかない。
ついでに名前は今日みんなで話し合って考えよう、人の役に立ち隊よりはマシな案がでてくるはずだろう。
「まあ今日から部活として活動することとなったわけだが」
「新しくできた部活ってことなんだね」
「活動自体は随分前からしてたけどな」
「部活か~、学生らしい。あたしもやってみたいかな」
部活の話題になると、戸坂さんはまた窓の外を見ては部活している生徒達を見て興味を示し憧れていた。
帰宅部も楽でいいけど、充実な学園ライフを送りたければ共に活動して汗をかき運動するのも青春の醍醐味の一つではなかろうか。今しかできないことをして思い出作りする意味でもいいもんだ。
この学園の部活は強制じゃない。あくまで自由参加でするかしないかは個人で決める。
戸坂さんは部活をやりたい気持ちを持っていた。
「いろんな種類あるから放課後の空いた時間に一つずつ見学してみたらいいんじゃないか。運動が嫌なら文系もあるし、戸坂さんが気に入る部活きっと見つかる」
晴れやかな気分でグッドサインを見せると戸坂さんもしなやかな笑顔で返してくれた。
「ちなみに戸坂さん、以前は何を?」
「なにもやってないよ。帰宅部だった」
「なるほど。だが以外だな」
「重川君は昔のあたしを知ってるからわかると思うけど、こう見えて今でもすっごく人見知りで人と話す時は緊張しちゃうんだよね。集団行動はホント苦手」
「そうは見えないけど。でもなんで部活に入りたいと思ってたんだ?」
部活で集団行動は当たり前。それを苦手とする戸坂さんが興味を持った理由が分かれば俺にも何かアドバイスでもできると思い、直球に疑問を呈した。
すると、戸坂さんから笑顔が消え言葉を詰まらせた、に、見えたがそうではなく胸に手を当て真剣な顔で悩み自分なりの答えを導き出そうとしていた。
ただの気まぐれで部活を始めるわけではないことだけはその様子を見てわかる。
俺は彼女なりの考えた答えが来るのを待つ。
「あたしは」
答えが決まり笑顔は無く真面目な表情で俺に答える。
「あたし自身をここで変えてために人見知りで臆病で弱虫だった自分を克服して、過去にできなかった友達との思い出作りをいっぱいして後悔が無い学園生活を送りたい。部活をしたい理由はそのひとつ、それ以外でもみんなと沢山触れ合って思い出を作りたいと思ってる」
熱い情熱と固い意志が彼女の語りに強く表れ、これほどの感情のこもった答えが返ってくるとは正直思ってなくて逆に俺が言葉を詰まらせるが、戸坂さんの言いたい事は想定であるが解釈できる。
人見知りで臆病で弱虫だった戸坂さん。
今日の一日を見ては想像もつかないが現在の戸坂さんの事だけをさしているのではなく過去の自分を含めた意味合いでもあると思う。
そして過去にできなかった友達と思い出作り。
転校が点々と続いて人見知りな性格でうまく友達と接しできず十分な思い出が作れなかったのか、それとも、あまり考えたくないけど不登校だったか、いじめられていたのか。
また違う小学校に転校してからの過去の事は知らない、だから憶測に過ぎない。
でも知ったところで全く関係ない。だって、
「今を大事にしたいなら全力で頑張ればいい。かと言って、いつまでも難しく考えても息詰まるだけだから気楽で楽しくをモットーとしてやるべきだよな」
人生はいつもハードモード、世の中良い事ばかりじゃない。楽しい時があれば悲しい時もある、誰だってみんなそう。
ではどうしたら人生うまくいくのか。俺の生き方は今どうすべきか判断して行動する。過去に囚われても仕方ない、今を生きるべき。
「部活入るんなら是非俺達のところに来ないか」
「ボランティア活動部に?」
戸坂さんの意志を尊重してでの勧誘。
人見知りを克服したいなら人と関わりが多い部活、まさに”人の役に立ち隊(仮名)”にふさわしい条件じゃないか。今後メンバーを増やすつもりだし生徒と関わりだけでなく地域の人々も関わる活動だってある。これ以上の人間関係が多い部活は多分ない。
どちらにしろ戸坂さんを誘う気だったんだけど。
「なんなら即入部でもかまわない」
「急に入って大丈夫なの。みんなに相談した方がよくない?」
「そんな堅苦しい部活じゃないって。それに俺が部長だから俺が決めればそれで決まり。入部希望の紙は書いてもらうが」
俺達の部活に興味は持っていたが今日から入部になる予想をしてなかった戸坂さんは笑みがこぼれ嬉しそうにして、『なら入部しようかな』と勧誘を受け入れる流れになり空教室を後にした。
> 今からそっちに向かう。
部室へ行く前にメッセージを開き、詩利華の返信に一語書き送信。
「人数は俺を含め男三人、女は二人の計五名の少人数だ」
「その人達はみんな重川君の知り合い?」
「知り合いで皆同級。内二人は同じクラスだよ」
簡単な説明をしながら二人肩を並べ部室にて向かう。
角を曲がると明かりが灯る少し錆びついた倉庫が見え、入口の前にゴミ袋とほうきが外に置かれ、小さなガラクタが一箇所に集まり、ある程度部屋を片付けていてくれた。
ゴミ袋、錆びついた鉄鋼、長く生えた雑草。明かりに集まる昆虫が飛び交い、見た目ゴミ屋敷みたいではあるけど、ついに手に入れた部室にワクワクし鼻歌を歌いながらドアノブに手をかけ扉を開く。
「随分来るのが遅かったですわね。一時間以上もどんな用事をしてたんですか」
扉の先には飲み会の朝帰りの夫を出待ちした妻を連想させる、大層不機嫌の詩利華が俺を快くせず疑いの言葉を述べて出迎えられ、危険を感知し恐れおののき一歩後ずさりしてしまう。
「ちょまッ、そんな怒るなって。遅くなったのには訳がある」
「ふぅん。ああ、そう」
弁解しようも全然信じてくれそうになくて、冷たい視線を送り続ける詩利華に遅れた理由を説明する前に、まずは俺の後ろにいる戸坂さんの姿を見せる。
戸坂さんは緊張気味に詩利華と面と向かって対面する。
「こんにちは。初めまして」
「貴女は今日転校してきた戸坂璃音さんでしたわよね」
詩利華の表情がやっと和らぎ戸坂さんをマジマジと見て、なぜこの場所にいるのか疑問を抱き、事情を求めるように俺へと視線を向けてきた。
「どのような件でこちらにいらっしゃったの」
「彼女は新入部員。どうやら部活がしたかったらしくその話を聞いて俺が誘い連れてきた」
「初対面の人をいきなり誘うなんて、それって迷惑すぎるんじゃなくて」
詩利華は俺達が実は初対面ではない事をまだ知らないから、はたから見ればそう捉えてしまう。
そのことに関しても言っておくべきか。
「いえ、重川君は小学生の時一度会ったことがあって。久しぶりに話したくてあたしから声をかけて部活をやってみたいって相談したら誘ってくれたの」
戸坂さんが詩利華に勧誘の経緯を教え、訂正しなくて済んだ俺からは言うことが無くなりそのまま会話を繋げる。
「そんで二人で放課後、長くいろいろ話し込んでしまったわけ」
「そう言うことでしたか。弘充はなぜそれまで彼女に気づいていなかったのです?」
「それには複雑な事情がありまして…」
「まあいいわ。新入部員を外で立たせるのはいけませんね。中に入って。片付けの途中だから少し散らかってるけれど」
「お、お邪魔します」
「私の名前は花蓮詩利華よ。同じクラスで委員長をしてるわ。困ったことがあれば気軽に聞いてちょうだい」
「あ、はい」
詩利華に続いて部室に入ると中に残ったガラクタが後ろ隅に集められ、俺達がくつろいで居られる分くらいのスペースは十分に掃除が行き渡って片付き、その空いたスペースにもともと倉庫に置かれたテーブルとパイプ椅子が設置され、大誠と留未が既に座ってお菓子を食べながらグウタラのんびりダラけて居た。
「海苔煎餅すごうま」
「美味しいですよね、この煎餅」
な…なんだこの平和なだらけっぷり…
いかにも俺達っぽさはあるが、今日くらいはしっかりしてほしかった。
こんな部活風景を見せたら戸坂さん、失望するんじゃないのかよ。
「相変わらず菓子食ってんな」
「弘充君も食べますか?」
「後でいただくとするよ。その前に新入部員…いや、新メンバーを紹介したい」
「新しいメンバー、ですか?」
そう言い、入口から戸坂さんが緊張気味に入ってくる。
留未は最後の一口を呑みこみ、彼女を見て『お?』と一瞬動きが止まり、一秒と言わずすぐに立ち上がり『うわはー! 噂の転校生さんだー!』と、大きな声で大喜びしてピョンピョン兎みたいに飛び跳ね、一言も発していない戸坂さんに歩き近づいて優しく手を取り握手する。
「初めまして璃音ちゃん! わたし留未、よろしく~」
その間五秒。早すぎるコミュニケーション。
初対面でとびっきり高いテンションに困惑するも手を取られ握手された時、留未の華やかな笑顔を見て表情が緩んでいた。
「よろしくね、留未さん」
「留未でいいよ」
部活始動早々新メンバー加入が嬉しい出来事で、みんな表現の差は違えど歓迎した。
たった一人増えただけでも賑やかは増し、より楽しい環境に変わって活動も有意義になること間違え無し。
「同じクラスの蔵田大誠である。ゆっくりしてくれ」
「ありがとうございます」
自己紹介しつつ大誠はお茶と余りのパイプ椅子を一つ準備して留未の隣に置き、彼なりの気配りをする。
用意してくれたパイプ椅子に戸坂さんが座り、留未がおしゃべりしながら、テーブルの上のお菓子を取り、封を開け二枚入りのクッキーを一枚口の中に放り込んでモグモグと幸せそうに食べて、もう一枚のクッキーを戸坂さんに渡した。
「ハイどうぞ」
純粋な笑顔で他人に食べ物を分け与えてくれる光り輝き配布天使はすぐそこに。
留未は積極性があって馴染みやすく素質が優れている。気軽に話してくれるおかげで戸坂さんも早く打ち解けてお互い笑い合っていた。
すぐに始める予定だったけどフリートークの時間を作り、俺と詩利華でホワイトボードなどを動かし準備を行う。
「改めて自己紹介は必要なさそうだな」
「そうね。時間も押してますし」
留未と仲よくしている姿を見て、戸坂さんの自己紹介を割合する。
♢
「そろそろ始めましょうか。司会進行は任せるわよ」
左横で同じく二人のやり取りを暖かく見ていた詩利華から司会進行役を言い任され、長い髪を靡かせながら自身の席へ着いた。
任された俺は席の前に立ち、若干緩んだネクタイを引き締める。
「こほん。皆の衆、少し遅れてしまったがこれより第一回目定例会議を始めたいと思う」
三人とも俺の方を見て聞き耳を立てる。
こうしてみんなの前に立って会議とか言うと秘密組織の極秘会議をしてるみたいで良い気分だ、悪くない。
いつも集まった時にやってる戦隊ヒーローノリでいこうかどうしようか迷う。
でも今回戸坂さんが居るし、いつもの中二病やったらドン引きされそうだから普通通りでいこう。
「よし、最初に新メンバーの戸坂さんへ、代表として俺から歓迎の言葉を送ります」
「は、はい」
ピタリ動きを止め、二秒ほど沈黙が続き……。
「ようこそぉ! 俺達ボランティア活動部へぇ! メンバーに入ってくれた君を心から歓迎するぜいぃ!」
息を吸い込み吐き出した声のトーンを下げ、空中を切る感じに右腕を大きく横に伸ばし、左の腕は熱いガッツポーズをきめて情熱溢れる体表現でドカンとぶつける。
「あー…うーん。…頑張る! あたし!」
いきなりの激しい声と動きで戸坂さんの顔が初め若干引きつりリアクションが薄く、なんとか俺に合わせ気持ちを入れ替え勢いに乗り、右手でガッツポーズをして意気込んだアクティブな返しをする。
や…やっちまった。中二病発言は堪えたのに勢いと気分が舞い上がってノリは中二のまんまだ、羞恥心ハンパないって。
「戸坂さん引いてるじゃない。どうするんですの、この冷え切った空気」
ああああ~~~~!! わかってる! わかってるよ! 絶賛後悔中なんですよ!!
ちきしょぅ、やってしまったことは仕方ない。ここは冷静で保ち乗り越える。
「おかしいぞ弘充。活動名てそんな名前だったのか? 俺の覚えだと確か”人の役に立ち―――」
「おーっと! いつの話をしてるんだね。そんな名は大分前に破棄しただろう?」
「おお、そうであったか」
留未と詩利華は触れず言わずにスルーしたというのに、普段は鈍感の大誠は変に突っかかって襲い掛かる。たった今羞恥心を持った俺に更なる追攻撃を。
天然ボケ殺し流、悪意無き追い打ち痛撃刃。
「今度みんなで話し合って決めるって約束したよな?」
あたかも"俺、この前ちゃんと言いましたよ"的の意味合いな、偽りをゴリ押しで主張して三人に訴えた。
「(自分で自信満々につけておいて、急に恥ずかしくなって取り消したんでしょう。自分勝手な人よね)」
「(わたしは好きでしたよ)」
大誠はフムフムと頷きながら疑いもなく納得してくれ、あとの二人は言いたげそうな顔はしてるが空気を読み二人の中でボソボソ言うだけにとどめた。
「なので今日の課題は、部活の名前を決めようと思う。名前は大事だからな」
「はいはーい」
「では留未から」
早くもスパッと颯爽に元気いっばい挙手したのは留未だった。
そのまま留未を指さし、当てる。
「Sweets☆STAR」
「却下」
「おやつタイム」
「ボツ」
「カラフルキャンディー」
「ダメ」
「Drops Drop」
「無理」
「ハゥワッ。四連続即答ダメ出しなんてひどいです、たいちょー」
「なんで全部お菓子みたいなんばっかりなんだ」
「超可愛いじゃないですか。ブゥブゥ」
滅多に機嫌を悪くしないポジティブシンキングの留未が唇を尖らせブーイングで不満を訴えながら幼い子どものように拗ねる。
人には優しく、時に心を鬼にして厳しく。こういうメリハリはしっかりしないと。悪く思わないでほしい。だが、軽いイタズラ心で全部断り、ちょっとやりすぎた感はある。
「俺からも案がある」
「ほほう。ご高説願おう」
次は遠慮しがちでありながら、勇気を出し自ら手を挙げる大誠。
「人民協力連合組合部。て、のは如何だろう」
そこそこ期待してたのに語呂が固い! 固すぎ!
考え方が真面目な反面、やたらリアルで生々しい。そうすると、留未と大誠の意見を足して割ったくらいが丁度いい感じがする。
「だめか?」
「候補に入れておくよ」
真っ白のボードに人民協力連合組合部と実際書いて見るとホントに会社設立しようとしているようで余計社会的リアリティーが増した。
ここは学生の部活。フワフワした留未の意見の方が合っててまだマシだった気がする。
「私からも案を一つ」
「うむ、いいぞ」
これはまた珍しい。詩利華がこの此の手の話し合いに案を呈するとは。
流石に真面目な案が出てきそうな感じだ。
「ザックリ考えて”適当部”」
「ザックリしすぎる! 思いつかないなら無理に言わんでいい!」
またも連続で期待を裏切りやかったな!
なんだって今日に限ってお前もノリ気なんでしょうか!? 案の中でトップで適当すぎるぞ!
真面目に考えて、結果、適当な案にツッコミを入れるが、ネーミンググダグダ会議になり果てた活動に全く嫌気はなく、いつも通りの雰囲気で本当は楽しい。これこそ俺達のやり方である。
ちらちら戸坂さんの様子を見ていて、本人も楽しそうにしているしこのノリで続けよう。
「はい! わたしリベンジしたいです! 次は絶対に認めてもらえる自信があります!」
拗ねてからほんの五分で立ち直り、所有アビリティ 自己再生、ポジティブ効果を大いに発揮させ更なる自信を付けて俺にチャレンジを申し込み、挑みかける。
お前の燃え滾る熱いマックスハート。しかと心に伝わってきたぜ。
「だったら聞こう」
俺は考えてわかったんだ。何も否定することだけが意見の出し合いではないってことを。共に考え、共に言い合い、そして共に一つ一つ工夫していく。誰が一番良いとか重要じゃない。例えどんな答えだろうと皆の意見をまとめ最後に合わせ持った答えが正しい結果なのだと。
「ズバリッ 休部 です!」
ズコーーーーーーーーーーッッッ!
「Why!? なぜそうなった!! まだ本格的に始まってすらないのに活動を休止してどうするのだ!!」
あまりの拍子抜けに思わずこけそうになりながら頭を抱え、キレッキレのツッコミを入れる。
「この場所ってわたし達の集まりの場になったんですよね。放課後こんな風に毎日集まってお喋りしてお菓子食べて楽しく居られる安らぎの部屋。休息の空間だから」
「ちっが~~う! 断じて休息の地ではない! 我が秘密基地は闇に潜む悪しき魔獣を倒すため、日々作戦会議を開き、いつ起こるかわからない災害に備え市民を守る。その使命を忘れたのか、ゆるふわイエロー!」
「いいんじゃない、それに賛成」
トンデン返しを喰らい、堪えきれず結局中二病発言炸裂した俺が全否定する留未の意見をあっさり肯定する詩利華。
賛成するなら当然納得のいく理由を聞かせてもらう。
「なぜ賛成するのだ! どう考えても相応しくないではないか!」
詩利華は無条件で留未の味方をする。
これでは納得がいかない。敵が一人増えたところで簡単に引くわけにはいかぬ、なんとしてでも拒否せねば!
「こう毎日話し合うわけじゃないんでしょ。適当にぐうたらして遊んですごすのが目に見えてるわ」
「何を根拠もなしに」
「毎度のことじゃない」
「うグっ」
グサッ!
詩利華の全摘必勝が精神を攻撃、精神ゲージの二割を奪われるがこんなもの擦り傷程度。
精神ダメージの反動でフラついた身体を安定させ、怯まず自分の信念を貫き正面から詩利華に向かい行ってゆく。
「正に事実、否定はしない。だがしかし、今までの行いの反省を生かし今日をもって変えてみせよう」
「それが出来たらもうとっくに変わってるでしょ」
「グほォっ」
グサッッ!!
早くも俺に二度目の言葉の刃が胸に突き刺さり精神ゲージが半分まで削られたあげく、身体がまた不安定にフラつき足がブルブル震えたが、壁に手を付けなんとか体勢を整え、残り半分の精神力を使い再起する。
「まあそれと、一番の理由は貴方が最初に付けた”人の役に立ち隊”より断然いいからよ」
「うヴぉアアアアっっっ」
「止めろ花蓮! 弘充のライフはもうゼロだぞ!」
グサ、グサ、グサ、グサ、グサ、グサっっっ!!!!
現実論を言われてなお二度も耐えたというのに、辱めという名の無数のランスが精神ゲージを容赦なく根こそぎ削り、エナジーゼロになっても俺のメンタルに効果抜群だったせいで、ゼロを超えて死体撃ちオーバーキル。心が折れ呆気なく跪き、脆く崩れる。
「あわわわわ、大丈夫ですかっ」
跪き哀れな姿を見て俺に心配の声をかける留未は本物の天使に見えた。
俺は五回も意見を拒否して酷い事をしたのに、構わず留未が慌てて心配してくれる優しさに精神ゲージが徐々に回復してゆく。
「ゆ…ゆるふわいえろ…」
「弘充君が考えた名前も可愛くてわたしは気に入ってましたよ」
な…なんて天使なのだこの子。
いや違う、天使以上の存在。幸せと優しさを兼ね備えた麗しい女神様だ。
女神様の優しさ精神で全回復、力の抜けた身体が段々楽になってそして立ち直る。
それから案を出し合うも、まあ、いいネーミングは出てこず、時計を見ると時刻は七時を回り外は完全に暗く大半の部活は終了し生徒らは下校している。
開始が遅れたのもあり、これにて提案を切りつける。
出てきた案は俺のを含めた七つ。
多数決をとるつもりだったが、時間の都合上で箱に提案した名前を書いた用紙を一枚入れて、シャッフルして、その中の一枚を引いて当てたのが明日からの部活名に認定することにした。
ジャンケンで誰が引きの担当をするか決め、最後に勝ち残ったのは留未だ。
「はあ~お願いします。休部が出ますように~」
留未が勝利のブイポーズをした後、目を閉じて、念を送りながらグルグル箱の中を探る。
「とおッ」
ぴしっと一枚の用紙を掴み上に掲げ上げ、そこに書いている名前は……
留未が念を送ってまで当てたかった”休部”だった。
ちょいちょい修正してます(汗