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キミがユメみたいばしょ  作者: ユメハ シンシヤ
6/10

折り紙

主人公とヒロインと対面です。

 本日の締めの授業は体育、種目はサッカー。

 運動自体嫌いではないが投げたり打ったり蹴ったり、スポーツ全般不得意でようするに運動音痴。運動系の中で自信があるのは足の速さと無駄にある体力。百メートル走やリレー、シャトルランは得意分野。

 去年体育の時間、一度陸上部の部員から誘われたことあるけどきっぱり断る。得意ではあるが特別好きでもやりたいわけでもないうえ俺にはやるべき目標があった。


「弘充パス!」

「任せな!」

「いいぞー攻めろ攻めろー!」


 点数一対一の同点、残り時間はあと三分。ボールは俺たちのチームが持つ。

 ここでゴールを決めれば一点獲得、そのまま時間切れで俺たちの勝利。決まらなくても同点で試合終了ではあるがどうせなら勝ちたい。

 サッカーゴールまで距離を縮め一気に攻め込む、ここまでの流れは順調、あとはシュートを決めるだけ。


「来たか弘充。まさか再びぶつかり合う日が来ようとは」


 ゴールで待ち構えていたのは相手キーパーの大誠。

 前半戦はディフェンスにまわっていた大誠が後半戦でゴールキーパーとしていくつもの仲間のシュートを軽々食い止めるブロッカー。バカでかい図体と手足の長いリーチで守備範囲が広くサッカー部員ですら苦戦するそんなやつに俺は今立ち向かおうとしていた。


 腕を大きく広げボールの動きに集中し守備態勢にはいる大誠を警戒してシュートを決める直前まで思考を巡らせ勝機を覗う。

 少し時間を稼ぐも相手はゴールを阻止するべく複数人で俺からボールを奪いに来る。

 時間に有余はない、与えられた選択肢は一つ。


「俺のメンバーでも今は敵同士、恨みっこなしだからな!」

「手は抜かん、全力でかかってこい!」


 情け無用恨み無し前進全力。

 ここでボールを蹴らなければ確実に奪われる。

 だったらやるかない。


『必殺 Greatグレイト Miracleミラクル Shooterシューター!!!』


 口に出すのは遠慮して心の中で適当に考えた必殺技を叫び足を大きく振りかぶり、周りから土煙が上がったことでなかなかいい演出になった。

 上がった足を勢いよくボールを狙い蹴り上げた。


 ぱん。


 ボールの中心に足の内側が当たるはずが軌道がずれたことにより外側に当たってしまいサッカーゴールの端へボールが空高く飛んで行く。

 仲間のサッカー部員がすかさずボールを追いかけ着弾地点を予想して落ちてきたところをヘディングシュート。大誠が手を伸ばすもかすめただけでボールは止まらずゴールに入る。


 ピピーーーーーーー。

 タイムアウトのホイッスルが鳴り結果二対一、俺たちの勝利で体育の時間は終わった。


「ギリギリ勝てて良かったな、ナイスプレイ」

「お疲れ。見事なパスだったよ」

「ども」


 仲間はあれをパスだと思い込んでいるけど俺にとって本気のシュートを決めたつもりだった。

 でも勝てたし終わりよければすべてよし。


 その後大誠と話しながら靴箱に戻り自分の靴箱を開ける。


「(何か入ってる……、折り紙?)」


 上靴の上に、三角形に折られた赤い折り紙が一枚、俺の靴箱に入っていた。

 表に何も書かれていない。

 授業始まる前はこんなの無かったのにいつの間に入れた? 授業中? そもそも誰が入れたんだ。

 画鋲はない。臭くない。触ってもビリッと電気がくるわけもない。イタズラにしては悪意がない。


 中身が気になり今ここで折りたたまれた折り紙を丁寧に開けていき文字が見えてくる。




 ”放課後 三階の空き教室に来て”





 一行だけ書かれた文章を読んで理解した。恐らくラブレターか挑戦状のどちらかだ。


 もしラブレターとすれば告白、誰かが俺の事が好きで置手紙を残し放課後待ち合わせる。男として喜ばしいけどそんな昔からあるシチュエーションが今現在も行われているだろうか。

 文字から見て女の子の字と思われラブレターだとしておかしくない。でも俺の事が好きだとかのそんな話しを耳にしたことない。バレンタインだって異性は留未と詩利華の義理チョコしかもらったことがないぞ。

 

 だったらこれは俺を油断させるためのラブレターを偽った男の挑戦状。

 かつて俺は反抗期の暴れん坊大誠やいろいろな場所で悪事を働いていたDQNの隼を倒してメンバーに取り入れた俺TUEEEE伝説。その噂が何時いつしか広がり喧嘩上等の野郎が俺に挑戦状を申し出たか。


 前者と後者、願わくば前者であってほしい。告白されたなんて一度も経験したことないし、人生最大の大イベントになりそうな予感。

 だが手紙ならメモ用紙とかで書くのが一般な気がするけど、折り紙で伝えたのはどうしてだ?


 この件はみんなに黙っとこ。


 こっそりポケットに折り紙をしまい、教室に戻り放課後になるのを待ち続けた。


「部活は今日から始まるんだよな。場所は校舎裏のガラクタ置き場のボロ倉庫であってたか?」

「倉庫じゃなくてれっきとした部室だっつーの」

「ガラクタがまだ残ってて雨漏りはするって先生に聞いたぞ」

「わけあり物件だからしょうがない」


 一日の授業は全て終わり、生徒が次々と教室を出ていき残ったのは俺と大誠。

 詩利華は職員室に寄って先生にプリントを渡してから部室に向かうと言われ、留未は詩利華と付き添いで一緒に職員室、隼はバイトですぐ家に帰って行った。


 残るは大誠だけ。

 うまく撒いて折り紙の差出人に会いに行かねば…


「俺達で先に部室の掃除でもしておこう」


 用事の内容聞かれるとまずいが、変にまどろっこしい嘘を言っても疑われそうだし、用事があるとだけ言った方が良さそうだ。


 鞄を持ち上げ、俺と部室へ向かおうとする大誠に断りを入れる。


「あー悪い、俺もこの後少し用事あってさ。先に部室行っててくれないか」

「お、おう。わかった」


 俺の慌てぶりを見て、様子を気にしながらも何も聞かず、先に部室へ向かってくれた。


 気遣いに感謝しながら大誠と教室で別れ、周辺に誰もいなくなったことを確認して空き教室へと向かう。


 なんだかんだで遅くなってしまったが、時間指定は無かったし今から行っても大丈夫だろう。


 青く明るかった空はオレンジ色に染まり夕焼けに変わる時間になろうとしている。

 空き教室の鍵は開いていてドアを開けると中は薄暗く夕日の光がよりいっそ眩しく輝きを見せ、見渡す限り誰もいない静まり返って落ち着いた空間、物音を立てるたび教室内に響き渡る。


 窓側の席に座り腕に顎を乗せて、いつ現れるかわからない正体不明の人物が来るのを気長に待つ。

 ………

 が、しかし、それから二十分以上待っても一向に姿が現れず待ちぼうけを喰らった。

 呆れて席を立つ。


「一人で待たせるためのしょうもないイタズラだったようだな。期待した俺が馬鹿だった」


 イタズラに引っかかり時間を無駄にした自分を哀れみ、折り紙を取り出し、文を一目読み直しから大きな溜め息を吐き出して、深く落ち込みながら席を離れる。

 イタズラにしても、折り紙で書いた意味って何だったんだろう。

 どうしてか折り紙に関して気になってしまう。


 タッタッタッタッタッ


 ドアの取っ手に手をかけようとした時、廊下から誰かが走ってくる足音がこちらの方向に段々近づいてるようで、ドアを開けるのを止め、一歩下がる。

 もしかすると、折り紙の差出人か。


 足音はやはりここの教室に近づいてくる。


 ガラガラッッッ、バンッッッ


「ハア、ハア、ハア……」

「と、とさか…さん?」


 教室のドアをぶち壊す勢いで開け苦しそうに息を切らして現れたのは、今日転校してきたばかりの戸坂さんだった。

 息切れ状態中の彼女が喋ろうとするが息が上がって言葉が途切れ途切れでうまく聞き取れず、『一回深呼吸したほうがいいよと思うよ』と俺がアドバイスして、言われてすぐに深呼吸し落ち着かせた。


「ごめんなさい!! 遅れました!!」


 落ち着いたと思っていたらド迫力すぎる謝罪され、初見の印象とは変わってギャップと勢いが凄くて、目が点になり素の真顔になる。


 少し状況が掴めない俺はまず戸坂さんに確認するべく、折り紙を彼女に見せてみる。


「俺の靴箱に折り紙を入れたのって、戸坂さんであってる?」

「はい。あたしが入れたの」

「そうなんだ(よかった)」


 イタズラじゃなかったからひとまず安心したけど、こうしてマンツーマンで話すのは今が初めてで俺がここに呼ばれた理由がわからず考えてみても心当たりがまったくない。


「で、書いてた通り来たんだけど。俺と君、初対面だよね?」

「初対面……… あはは。やっぱりわからないか」


 顔は笑っているが笑う声は僅かにかすんで心なしか悲しそうに見え、初対面の言葉は失言だったと罪悪感が生まれ、大切な何かに気づいてあげなければならないと焦り自問。


 中学でも出会った覚えがハッキリないとすると、まだ昔の小学、幼稚園あたりまでの記憶にさかのぼり思い当たる節があるとすれば一つ、朝に浮かんだ曖昧な記憶のこれなのか。


「髪が前より伸びてるからかな。それとも以前の頃と雰囲気が違うから?」


 恥ずかしそうに横髪を触りながら、確認させる感じにアピールをして目を見つめてきた。


「もしかして小学生の時か」


 当てずっぽうで答えてみる。


 質問の答えに小さく頷く。


 思い出せてはいないが、曖昧な記憶が戸坂さんと出会った過去で正解らしい。


「 ―――――― りおんくん 。この呼び名聞いて何か思い出せない?」


 呼び名を口にした瞬間、朝と同じの感じた懐かしさが脳を刺激し”りおんくん”と出会った曖昧な記憶が脳内に映像化されよみがえり、何時、何処で、何を、関わったの全てを精細に思い出した。


 最初にピンとこなかったのは過去と少し喰い、違い俺の知ってるその子は苗字と性別が違ったから。彼女が言った君付けの呼び名を聞いてようやく一致する。


「本当に君は小学生の時の”りおんくん”なのか」

「思い出してくれたんだね。改めて久しぶり重川君」


 昔の姿と照らし合わせると身長はもちろん伸びて髪形もミディアムボブヘア。たいの一部分も成長すべきところはしっかり成長していて、動くたびにほのかに香る香水の匂いが女の子らしさを表す。


 こうしてまた出会うのは小学生ぶりで幼少期から急に飛んで青年期まで急成長したかに思える。

 雰囲気が変わるとこうも別人に見えるのか。


「大きくなったな、大人に成長したって言うか。あの頃はこんなに小さかったのに」

「なにその親戚のおばさんが久しぶりに会った時に言うリアクションみたいなの」


 クスクス笑い、今度は戸坂さんが俺の全身を見て自分の身長を比べて、つま先を立てても届かないことに気づいて感心する。

 昔も俺の方が高く戸坂さんは小さくて高校生になってなお差をつけた。


「ふーん、重川くんも大きくなったね。背伸びしても届かないや」

「欲を言えば、まだ身長欲しかったけどな」

「伸ばしすぎると天井に頭ぶつけて私生活に支障がでるよ」

「そこまで長さ求めてないわ」


 明るく振る舞って笑いながら冗談を言う戸坂さん。


 言われてみれば今と違い、あの時はいつもうつ向きで口数が少なくて髪も今より短く大人しい子だった。

 服装もどちらかというと男の子よりの服を着て声で性別が判断できなくて、俺は男の子だと失礼な勘違いをしていたようだ。それで『りおんくん』と”くん”付けで呼んだ。


 昔のままでもよかったけど今の戸坂さんも明るく楽しそうにして良かった。


「あ、それで、俺をここに呼んだ理由はなんだ?」


 お互いの成長を比べてつい忘れかけた肝心の手紙の事を思い出し話を戻す。


「それはね」


 くるりと背を向け腕を前に縮こまらせて体を細め、モジモジと落ち着きをなくし口を閉ざし、視線を下に向ける。答えてくれるかと思いきや要件の返答はなかった。


「なんだ? 黙り込ん―――」


 ハッッッッ! こ、こ、こ、こここれは、まままま、まさか! こ、ここここく、こく、こく、は、こくはっっっ。


 今の状況を踏まえて戸坂さんと会う前まで考えた仮説が頭を過ぎり、手のひらから手汗が噴き出始め緊張のあまり体が硬直して顔が熱く火照る。更に頭の中がパニック状態で落ち着かせようとしても暴走が止まらずヒートアップしてきた。


 先走るな冷静によく考えてみろ! 確かにこのシチュエーションは期待してもいい、けどもさ、あの子と関わったのは小学校以来でただ遊んでいただけで恋に発展するきっかけなんてなかったんだぞ? 今日だって久しぶりに会って話したのにいきなり告白ってないよな!? 違ったらその分ショックが大きい、返答がくるまで待て。


 などと言っても鼓動が高鳴りドキドキが止まらない。脳みそが沸騰して蒸発しそう。


「あたしと……」


 ゴクリ。


 ついに戸坂さんの口からアンサーがくる。




「……も う 一 度 、 と も だ ち に な っ て く れ ま せ ん か 」




「…………へ?」


 仮説は大きく外れ斜め上の予想外な答えに思わず声が裏返り、鼓動の高鳴りは一気に治まって脳内思考停止。緊張が解けたものの体は硬直状態のままで固まる。


 おや。電柱に止まったカラスが鳴いている。


 過度な期待しなくてよかった。

 もしこれが告白だったらYESと答えたのかNOと答えたのか。どちらも選べなかっただろう。内心ホッとするも心の隅でガッカリした自分がいる。


「ごめんね、回りくどいことしちゃって。クラスのみんなに話しかけられて、声かけれなくて。それにこのやり方は重川君があたしを誘ってくれた時にしたのと同じなんだよ」

「えーと…… ああ、あれか」


 折り紙作戦は子供の頃、戸坂さんを誘う為にした、俺の立案だった。

 あの時も折り紙に”となりの空き教室に来て”と、書いて誘ったんだ。


「『君を仲間に誘うためだから』 だっけか。よくもまあ覚えてたな」

「覚えてる、当たり前じゃん」

「当たり前か。まあ確かに印象深い誘い方したもんよ」


 思い返すと面白おかしく、実に小さい子どもの仕方だ。


 しかしなぜ昔したやり方を真似して接触したんだろう。

 戸坂さんにとって良い思い出になってたのかな。だとしたらそれはそれで嬉しくはある。


「そして今度はあたしが折り紙で誘ってみました」


 両手を腰に当てにこやかな笑顔で俺の前に立ち、お茶目な仕草にちょっとドキッとした。


「オーケー。こうして会えたのも何かの縁だ。俺からも仲良く頼むよ」


 こうして、戸坂さんに偶然もしくは奇跡的に会えたのだった。

 誘い方は俺と同じ折り紙にメッセージを書いて入れる。短い付き合いだったけど、戸坂さんと遊んだ記憶はバッチリ残っていた。


「うん。また会えてよかった… 夢みたいだけど夢じゃなかった…」

「な、泣いてるの、戸坂さん」


 急に声の張りが無くなり目元をよく見ると涙が溜まり、頬を通って雫が床にポツンと落ちる。


「ごめん… 初めての友達と再会できて… 嬉しくて涙でちゃった…」


 再開に嬉し涙を流すとは思わなくてどうすればいいのか戸惑う俺は、自分のハンカチを貸すことしかできなかった。

 言っちゃあなんだけど、戸坂さんと遊んだのは一ヶ月ほどで俺より他の友達の方が共同時期が長くて、よっぽど嬉しいんじゃないのかな。

 だが、今、初めての友達って言ってたから、戸坂さんは親友ということで俺に会いたかった?

 実際に聞くわけじゃないけど、友がそう思ってくれているなら嬉しくある。


 それから泣き止むほんの少しの間だけ、俺は彼女の心情を深く考えていた。

 





まだ始まったばかりなので、この作品のどこが面白いのかわからないと思いますが……

読んで下さるとうれしいです!!

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