プロローグ
新規連載です。よろしくおねがいします。
男が一人断崖の岩場に手をかけ、ゆっくり。ゆっくりと登っている。
雲海を突き抜ける高き剣のように鋭い峰。
男の周囲には濃い霧が立ち込めては突風に流され、また下方から男を覆い隠す。
果てることのない登頂への歩みだったが、男は頂へたどり着いた。
身長に体重を移動させ、登り上げる。
立ち込めた霧で何も見通せない。
何度も霧を刹那に晴らせた突風を待つ。荒い息を整え固唾を飲んで見守る男の横髪を突風が巻き上げていった。
――また橋だ。
霧を晴らせた風がもたらした光景は。頂から伸びる一条の橋であった。先を見通せぬ長い糸のように前方に伸びる橋。
前方に広がる光景なのに、周囲の霧のせいか自分の真下に広がる光景にも錯覚し、男は首を左右に振り気を確かにさせる素振りを見せた。
荒い縄と今にも朽ちて落ちそうな粗末な板で組まれていた。一体誰が何のために作ったというのだろうか。――そして最後に使ったのはいつであろうか。
男の人生で何度も節目となった『橋』という存在。
息が整うと長い登頂の疲れを癒やす間もなく男は橋に手をかけた。
風が止み、再び濃い霧が一人の男を覆い隠していった。