第71話 つかの間の休日はどう過ごす?
地球への侵略を目指すデュベリスに対し、召喚者、転移者、各国の政府、それぞれの思いが交錯している。今一度この状況を整理しておこう。
地球から遠く離れた惑星エヌ。かつてそこに侵略し、多くの民を殺して甚大な被害をもたらした異形の生物デュベリス。
デュベリスにとって他の生物は「餌」あるいは「資源」のようなものであり、会話もできず意思を疎通させることは不可能であった。
デュベリスはエヌからさらに遠く離れた星に住み、ある方法を用いて様々な星に侵略してきた。そして惑星エヌに続き標的となったのが、我らの地球である。
かつて惑星エヌの王族たちは、自らの力に限界を感じたため、デュベリスに対抗するため特殊な力を持つ人間の召喚を決意した。
王族たちは自らの命を媒介にして、エヌ以外の星からデュベリスに対抗できる者を召喚。それがマサノリたち地球人である。
召喚されたマサノリたち25名は多くの犠牲を出しつつも、デュベリスを撃退。しかしながら敵も強力な力を持ち、完全に駆逐することはできずエヌは膠着状態が続いていた。
だがエヌと同時に多角的に侵略先を探していたデュベリスは、新たな侵略先に地球を発見し、侵略に向けて準備を進めてきた。
マサノリもまた、捕らえたデュベリスからイメージを抜き出し、その情報によって地球侵略を察知、何年もかけて様々な対策を行ってきた。
その一つが、デュベリスに対抗できる人材を地球からエヌに転移させて鍛えること。そしてもう一つは、地球上の各国を巻き込んだ地球防衛軍による迎撃だ。
マサノリたちの戦力は、エヌの王族に召喚された25名のうちの残り6名。すなわちマサノリ、ハル、ナツ、大木、花井夫妻。彼らは召喚主であるエヌの王族から様々な力を引き継いでおり、魔法、精霊術、召喚術、剣術、付与術、格闘術など戦闘に特化した力を持っている。
そして新たに地球からエヌに転移したのは20名。そのうち16名は、エヌの世界をゲーム化した「ソーマジックサーガ」のトッププレイヤーであり、最難関イベントをクリアした16名である。彼らはそれぞれ思惑をもってデュベリスとの戦いを決意し、現在は実戦を通じてレベルアップを行っている。
さらに自衛隊のエリート部隊でもある「第1空挺団」から選ばれた4名もまた、デュベリスとの戦いだけでなく、国の密命を受けてこの戦いに参加している。
この20名は4人づつ5つのチームに分かれ、デュベリスの転移先であり、デュベリスがエヌ侵攻の拠点としている「黒き島」にてレベルアップを行っていた。
この黒き島の大きさは、地球でいえばちょうどオーストラリア大陸と同じくらい。その5カ所に5つのチームが分かれ、日々生死をかけたブートキャンプを行っている状況である。
この5つのチームはマサノリたち召喚者には及ばないものの、中堅以上のデュベリスは難なく倒せるほどの力をつけており、マサノリたちにとって決戦を左右させるキーパーソン的な位置付けにあった。
チームは「自衛隊特殊部隊チーム」「北海道・東北チーム」「関東チーム」「中部・関西チーム」「四国・九州・沖縄チーム」の5つで、それぞれの地域出身のメンバーが集結。地域ごとに個性がバラバラだが、地元意識も相まってチームワークは確かである。
一方でアメリカやEU、ロシア、中国、インドなど国連加盟国とほぼ同数の国家が加盟する地球防衛軍は、形として存在するものの、様々な思惑が絡み合って決して一枚岩ではない。
マサノリは世界中を駆け回って各国を説得しており、ここまで2年以上の時間を要していながら、である。
まず現在の宇宙工学で場所を特定できないエヌという星の存在、さらに生物学の理から外れるデュベリスという異形の魔物、アニメや映画の世界でしかない魔法などに対して、いくら説明しても否定的な見方があるからだ。
その結果、デュベリスが地球へ転移して侵略するというマサノリの話など、すべてにおいて科学的な根拠がなく現実性を疑問視されているのは、当然のことといえよう。
マサノリも実在のデュベリスを見せたり、様々な魔法を披露しているが、一部の国からは異教徒と罵られる始末であった。
そういった状況から各国家から大きな信頼を得るのは難しく、また運悪く中東やヨーロッパ地方での戦争も重なって、他国は武力を出し渋り連携どころではなかった。
それでも一部の国はマサノリ達へのスパイ活動を行っており、エヌという星にある資源に興味を持つ国もあった。
ただマサノリはもともとデュベリスへの対抗策として、地球の武器や兵器に過剰な期待を寄せていなかった。これまでの実験で、地球の武器に対する強い耐性を見せていたことや、破壊力のある兵器は市民に対して大きな被害をもたらすため使用が憚れるからだ。
そこでマサノリは、地球での戦火が世界中に広まるのを防ぐため、一計を講じて日本の富士周辺にある自衛隊の演習場で行うことを計画している。
デュベリスのある特性を利用して、地球上に転移したデュベリスを日本に呼び寄せて撃退するという手法だ。
果たしてこの戦いはどんな結末を迎えるのか。作戦は成功するのだろうか…
そんな決戦の日が近づく前に、別チームでありながら、偶然同じ大学に通う転移者のサトルとサクラは、束の間の学校生活を楽しんでいた。
2人はもともと都内にある某美術大学の現役学生である。対デュベリスに向けてレベルアップ中であるため休学中だが、事務的な手続きをするため、久々に登校することになったのだ。
誰も2人の本当の立場を知らない。講師の人たちも同級生も、彼らが地球を守るために学校を休んで特訓しているなど想像もできないことだろう。
当然のことながらこの日の学校は久々に顔を見せた2人の話題でいっぱいだった。
「桜と悟君って、2人で国に選ばれて留学していたのよね。どういう内容でどこに行ってたの?」
「ごめんね。なんか国の結構重要なプロジェクトらしくて、詳しいことは言えないのよ」
「そうなんだ。でも悟君とずっと同じ場所にいたんでしょ?2人で恋人関係にならなかったの!」
「ははは、いろいろ忙しかったからね~」
サクラは懸命に作り笑いで場をごまかしていたが、その時見知らぬ男性がサクラに歩み寄ってきた。
「君が桜っていう子かな?ちょっと話したいんだけど、いいかい?」
口調というよりその雰囲気に違和感を感じた。すると、たまたま同席していた友人が、声を潜めて…
(この人は別の学部の有名人で二階堂さん。確か凄い大きな会社の御曹司らしいよ。女癖が悪いって聞くから気を付けてね)
「えぇっと、私が桜ですけど、他の桜さんと間違えていないですか?」
サクラはすでに警戒し、作り笑いをしながら緊急時に使用が許可されている魔法は何だったか、懸命に思い出していた。
実はマサノリから転移者には、以前からある警告が告げられている。
『お前たちの能力を知る誰かが、お前たちを自分たちのものにするため、何らかの行動を起こすかもしれない。まぁ、後れを取るとは思えないが、頭の片隅に置いておいてくれればいい。変な人物には付いていくなよ』
つまり転移者を狙った第三者による取り込みがあり、それに巻き込まれる可能性があるというのだ。
「聞いていた容姿と一致するし、この学校で桜の名前は君だけだ。だから間違いないよ」
「そうなんですか。話って何ですか、ここで言えないようなことなんですか?」
男性は桜の警戒を感じたものの、あまり気にした様子はない。むしろ関心を深めたようで、全身を嘗め回すように視線を向けている。
「へぇ~、まさかこんな子がね」
その一言でサクラは警戒心がマックスになり、すでに魔法による念話を使ってサトルにも連絡している。これはマサノリから聞いていた、あの件だと。
しかし、まさか久々の登校を狙って来るとは思いもよらず、サクラとしては一手遅かったように感じた。
そして先ほどの話し方からも、自分に対して好意的な雰囲気とはいえない状況に、少し焦りを感じていた。
その男、二階堂はニヤリと笑いながらサクラに告げた。
「僕のところに来ない?」
「意外な展開」へつづく




