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ソーマジック・サーガ ~異世界と地球を紡ぐ物語~  作者: 渡邊渡
第三章:エヌという星
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第54話 黒き島


 黒き島――――



 惑星エヌにおいて東のイスタン大陸と西のウエス大陸の中間にある島で、その大きさは地球に当てはめれば台湾くらいのサイズである。島にあるのは岩石だけで、おそらく島の中央にそびえる山は休火山であり、資源もなければ生物も存在しない無の世界でもある。


 今は異星から侵略してきた魔物デュベリスが拠点として占拠している。デュベリスはこの島に転移のためのゲートを設置し、何らかの方法で魔物を送り込んでいることはわかっている。しかしその詳細を調査するにはマサノリ達も戦力が足りず、島から周囲に被害を及ばせないよう、方位と監視、そして各個撃破に徹するしかなかった。


 またデュベリスも侵略当初ほどの勢いはなく、それは何か別の目的のために戦力を温存しているかのようにも思えた。それが地球戦略を意味することはマサノリ達も察していたが、それを裏付ける証拠はなく憶測の域を出ていなかった。


 かつてこの星に侵略してきたデュベリスは、瞬く間に東西の大陸に侵攻し多くの民が犠牲になった。当初は星を渡る賢者ノダムールの血を引く王族が中心となり応戦、その後劣勢となると王族が自らの命を犠牲に強者を召喚する秘術を使用。地球などから召喚者が集結し、デュベリスを撃退、この黒き島に追いやっている状態にある。


 しかしながらその拠点の防御陣は強く、いまだ制圧するには至っていない。過去にマサノリ達召喚者チームがこの島に攻めた時、12名中5名が死亡するという甚大な被害を受けたこともあり、ここを攻撃するよりも封鎖する手法に切り替え、空間術師シーナによる結界魔法で閉じ込めることになった。さらに召喚術師でもあるスカーレット王女の召喚獣と大木やマサノリ達が定期的に結界を潜り抜ける魔物を撃退することで、被害を防いでいたのである。


 とはいえ、包囲し監視するにはあまりにも島は大きく、完全に防ぐことはできていない。ごくまれに島を抜け出した魔物が他の島を襲うこともあった。以前にサトルたちがレベル40のクラスの魔物に襲われ瀕死の状態に陥ったのも、偶然その状況に出くわしてしまったものだ。


 今その黒き島はサトルたち転移者によるレベルアップの場となっている。これは近い将来起こりうる地球での決戦を見据えた訓練でもあり、実際にデュベリスと戦うことに大きな意義があった。


 元々マサノリ達の計画では、日本からの転移者がいきなりデュベリスと戦っても、まったく歯が立たないことは容易に想像できた。そのため、まずは自分たちが作った安全なダンジョンでレベルアップをさせ、技術と経験を積むことでデュベリスと戦える人材に育てるという目論見があった。そして日本から転移してきた20人のうち16人は、すでにダンジョンをクリアし黒き島でデュベリスと実戦を経験中。残りはサトル達のチームのみとなった。




 そんなサトルたちは4つ目のダンジョンをクリアし、イスタ王国の街に戻って体を休めている。かつてはデュベリスの襲撃で壊滅的な被害を受けたこの国も、今は復興が進みにぎやかな喧騒に包まれている。それは地球から召喚されたマサノリ達の影響も大きく、かつては存在しなかった「交番」や「診療所」、そして「格安のフードコート」や「大人も子供も遊べる遊技場」といった日本の影響を受けた施設が存在している。これらは国民の安全を守り、生活を支え、心を豊かにしてくれた。そしてあの惨劇の傷を少しずつ癒していたのである。





「それにしてもこんなフードコートがあったなんて知らなかったわ」


 日本のショッピングモールにあるようなフードコートを目の前にし、エリは興奮を隠せないでいる。


「見ろよあの店、まるであの牛丼屋じゃないか。横にあるハンバーガー屋もそのまんまじゃないか。あっちにはとんこつラーメンって書いてある。クレープみたいな店もあるし、どうなってんだ…」


 マッキーもそこに並ぶ店舗に驚きを隠せない。そこの雰囲気はまるで日本の日常だからだ。


「水が出るサーバーみたいなのも置いてある。どう考えても日本の影響だよな。誰がどういった形で協力しているのか、気になる。店の人に聞いたら教えてくれるかな」


「そうね、さりげなく聞いてみましょうか」


 サトルは疑問をそのままにしておけない性格らしく、エリもまたその提案に同意した。




「すいません。初めて来たのですが、この施設は誰が作ったんですか?」


『おぉ~!あんた達、ニホンジンだね!久しぶりに会ったよ!どうぞどうぞ、あんた達からはお金を取らないから、遠慮なく飲み食いしていって!みんなニホンジンの皆さんだよ!』


『よく来てくれた!』


『いつもありがとう!』


『これ食べな!』


 店員たちのテンションが高くサトルたちは圧倒される。以前にビースさんと会った時もそうだが、この国の人たちは自分たちをニホンジンだと知っている。そして異常なまでに協力的で親切だ。サトルたちがその理由を知るのは先のことだが…



『そういえば、ここを誰が作ったかだっけ。マサノリさんや花井さん夫婦、それとシーナさんとスカーレット王女だよ。本当に感謝しているよ。あの事件のあとは食べ物も食べる場所もなく、みんな飢えていたからね…。誰でも格安でいろんな料理を食べられるこの場所のおかげで、多くの人や子供が助かったのさ。栄養のある料理や今までにない味付けも教えてくれたし、食べた食器やごみを客が片づけて、まとめて洗うって発想は効率的だよね。あれ、これって言って良かったっけ?ま、いいか』


「そうなんですか。色々食べてみますね、ありがとうございました」



 サトルは店員の話に驚いた。シーナとスカーレット王女の繋がりはなんとなくわかっていたが、そこにマサノリと花井という見知らぬ名前があったからだ。このエヌには、自分たちが知らない日本人がまだまだいるらしく、彼らは大きくエヌに影響している。そして「あの事件」とは何か。店員の雰囲気から聞き出すことはできなかったが、自分たちの存在が何か大きな流れに組み込まれているような気がしてならなかった。



「選定された転移者」へつづく


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