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ソーマジック・サーガ ~異世界と地球を紡ぐ物語~  作者: 渡邊渡
第三章:エヌという星
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第51話 ウエス大陸


「西のウエス大陸に動きがある…。しかも国家が主導する規模の反イスタ王国的なもの」


 惑星エヌにおける黒き魔物デュベリスに関する情報収集のため、世界中に放っている召喚獣の報告を聞いたスカーレット王女ことハルは、その報告に耳を疑った。


 この惑星エヌは大きく分けて二つの大陸と一つの島で構成されている。現在スカーレット王女がいるイスタ王国が存在する東イスタン大陸、そして海を挟んだ西方に位置する西ウエス大陸。この距離はエヌの一般的な船でおよそ7日ほど。無論、転移魔法を使えるスカーレット王女たちにとっては目と鼻の先だが。


 西ウエス大陸は六つの国家で構成されているが、エヌを襲撃した黒き魔物デュベリスによって甚大な被害を被った。賢者の血を引く王族はすべて殺されたか、召喚の儀によって命を落としている。今は六つの国家それぞれが、新たに選出した代表者を中心に以前の活気を取り戻しつつある。とはいえ、いまだ復興の道は半ばであり、ここ数年は目立った動きもなく注意するほどでもなかった。東イスタン大陸とも友好的に交流しているが、その西大陸で不穏な動きがあるという。具体的には何か、スカーレットは自身の召喚獣に尋ねた。



「クホ王国のソンマ女王が、自らを賢者の血を引く王族だと宣伝し、人や資金を集めております。明らかに何かを企んでいるようです。具体的な計画は確認できていませんが、他の5つの国に対し、クホ王国に従うよう圧力をかけているようです。いずれイタ王国あたりから、スカーレット様に仲介の依頼が届くかもしれません」



 その報告を聞いてスカーレットは思案する。


(クホ王国のソンマ女王?もう王族はいないはずだけど…。それにあの大陸の現状から、今の状況を変えられる力もないと思うんだけど、どういうことかしら。ただ今はまだ情報が少ないわね。変に探りを入れて、こちらの動きを感づかれてもやっかいだし、今後の地球でのことも考えると、今は揉め事は得策ではないわね。マサノリさんにはもう少し情報を集めてから報告しましょう)



 今スカーレットにとって大事なのは西ウエス大陸ではなく、東イスタン大陸との間にある黒き島である。大木とマサノリから聞いた最近増えつつある強いデュベリスの存在もそうだが、何やら嵐の前の静けさにも似た不穏な空気を感じているからだ。



(地球での決戦に向けて、エヌの安全を考えるとこの島は放置できない。あの作戦からも、引きこもり(シーナのこと)の結界も恐らく頼れない。召喚獣をすべて引き上げるしかないか…)



 マサノリからエヌを任されてる以上、中途半端なことはできない。スカーレットはどう対処するかまだ決めかねている部分があるが、いずれにしろ今はウエス大陸を刺激するのは得策ではないと考え、情報収集に徹するのであった。







 場面は変わって地球から転移してきた4チーム16人の状況をチェックしよう。すべてのダンジョンをクリアし、黒き島で本当の戦いに身を投じているのは現在2チーム。僧侶アサコをリーダーとする九州沖縄チームと、最強の戦士ケンが率いる関西四国チームだ。九州沖縄チームは黒き島の北側から内部に入り、関西四国チームは南側から上陸している。最初の一週間はお目付け役として花村夫妻がサポートしていたが、今はレベル800の実力を持つスカーレットの召喚獣が彼らに帯同している。


 彼ら8人は自らの意思で地球での決戦に参加することを望み、そして今も懸命に戦い続けている。その成長は著しく、もはや先に黒き島でレベル上げを行っていたレンジャーチームを上回るほど。


 もともとソーマジック・サーガのトッププレイヤーであったが、その中からマサノリが厳選して選んだ猛者たちであり、ここまでは期待通りの成長を見せている。




「残りはサクラとサトルのチームか。予想を超えるスピードでダンジョンを攻略しているようだが、この2人はあの20人の中でも抜けているかもな」


 朝食のサンドイッチとお気に入りのアプリコットティーを飲みながらマサノリがそう呟くと、サクラの北海道東北チームが最後のダンジョンをクリアしたとの報告が届く。



「ごほっ!おいおい、早すぎるだろ…。人のことは言えないが規格外ってやつだな。しょうがない、行くか」



 自分なりに優雅な朝を過ごしていたつもりのマサノリは、その報告に思わずアプリコットティーを吹き出しそうになったが、辛うじて抑え込むことに成功。そしてスカーレット王女のいるイスタ王国に向けて転移した。




 サトルの同級生である魔法使いのサクラは、サトルがきっかけでソーマジック・サーガを始め、瞬く間にトッププレイヤーに上り詰めたセンスの持ち主。転移後はこのエヌでサトルに会うのを楽しみに駆け抜けてきた。再会したときに恥じぬ実力を身に付けていようと。それが結果的にサクラの能力を大幅に向上させたわけだが。



「さすが最後のダンジョンのボス。魔力も空になるなんて、本当にギリギリだったね。ようやくダンジョンがクリアとなると、なんか達成感があるものね。さて、この後はどうなるのかしら」


「もうヘトヘトだよ…」


「疲れたわ…。当分戦いたくないよ…」


「なんでサクラはそんなに元気なんだよ…」



 サクラたちがクリアした猿の島ダンジョンは、これまでと違って知能が高く魔法のような攻撃をしてくる魔物が多く、しかも魔物の大きさにしろ数にしろ力にせよ、これまでとは桁違いに難解な設定だった。しかしそんなダンジョンをも難なく突破できたのは、サクラのセンスが抜群だったからである。


 倒したボスの先に、いかにもという雰囲気の部屋と光の球体を見つけたサクラたちは、警戒しつつもその部屋に足を踏み入れた。その瞬間、場所が移動する。その先に待っていたのはスカーレット王女とマサノリであった。


 そしてマサノリは、彼らに真実を告げていく。








 サトル、エリ、マッキー、ワカナの4人は、他の3チームと違って誰かが突出した戦い方をしない。確かにサトルのリーダーシップも戦略も戦術も他に類を見ないものだが、何よりもサトルがチームワークを優先しており、場合によっては戦いに参加しないこともある。そしてそれが、チーム全体のバランスと個々の能力を底上げさせているといえるだろう。


 今4人は4つ目の目的地である虫の沼ダンジョン最下層である50階層にいる。そしてダンジョンのボスとの決戦を控えているところだ。



「サトル、作戦はどうする」


 マッキーはいつもと同じようにサトルに方針を聞く。これまで難なくダンジョンを踏破できたのは、サトルが立てた作戦によるところが大きい。ゆえに誰もがサトルを信頼しているのだ。サトルはニヤリと笑い、こう告げた。



「前からやろうと考えていたが、ここは作戦無しでいこう。何も作戦を立てず、状況に応じて対応していく」


「えっ、それって無謀じゃない?いつも通りプランを立てた方が確実でしょ?」


 エリはサトルの意外な方針に驚きつつも反論する。



「もちろんそれが正しい。正しいけど、常に作戦を立てられる余裕があるとは思わない方がいい。俺たちが死にかけたあの時は、いきなりの状況で作戦も何もなかった。今後も同じようなトラブルがあるかもしれない。その時に、冷静に対応して最適な行動が取れるようにするには、やはり強敵との経験が必要だ。他の階層の雑魚ではなく、ボスクラスの強敵が望ましい。ここはいい機会だと思う。まぁ大丈夫だろう。今の4人なら、あの時出てきた魔物が相手でも、5分で倒せると思うよ」


 サトルの自信は過信ではない。多くの実戦を重ねた経験の上に成り立つもので、今回の方針も問題ないと判断したうえで決定したのである。



「わかったわ。サトルを信じる」



 3人は頷き、決意を固めた。


 そして4人は最後の部屋に足を踏み入れる。



「4人の実力」へつづく


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