第20話 サトルの評価
10年ほど前から構想していた物語をまとめました。ぜひお読みいただければと思います。
今日から11階層に挑戦する。ボンたちの話では、よりパーティーの連携力やリーダーシップが問われるとのこと。
みんなは自分をリーダーと認めてくれているし、ここでキッチリ仕事をしないとな。
サトルは日本で「ソーマジック・サーガ」を徹底的にやりこんできた。プレイ時間は全プレイヤーの中でもダントツの1位。
マップやイベントに裏技、出現するモンスターの種類もパターンも、そしてドロップするアイテムも知り尽くしている。
そしてやってきたこの惑星エヌは、サトルが知る「ソーマジック・サーガ」の世界そのものだ。
ただ幾つか疑念もあるし、みんなに確認したいこともある。そこでサトルはダンジョンに向かいながら、みんなに話かけた。
「ところで、この世界についてどう思う?みんながあの王女から聞かされたことについても、すり合わせをしたいと思うんだけど」
「私が聞いたのは、レベルを100にすれば行ける最後のダンジョンみたいなところで、日本へ戻る方法がわかるとか」
「基本的には俺も同じだな。あとは、とにかく4人のパーティーを作ることを勧められた」
「私も同じです」
「はっきり言って、この世界は何かおかしくないか?どう考えてもゲームの世界そのものだ。
現実的にこんなことってあり得るのか。漫画や小説の話だけだと思っていた」
「確かにどうやってここに来たのかも、どうしてあのゲームの世界なのかも、今の私たちじゃ説明できないわね」
「言葉も単位も、地図も城の形も食べ物も、アイテムも店もほとんど同じ。ただ、微妙に違うところもある」
「違うところ?」
「あぁ、一昨日見かけた角の飲み屋は、ソーマジック・サーガの中にはなかった。聞いたところ、1か月前くらいに新しく店を開いたらしい」
「それはどういうことでしょうか?」
「前からある建物や店などは、ソーマジック・サーガの世界と同じ。ただ、ここ最近の新しい店などは、あのゲームにはない」
「つまり、同じ世界だけどまったく同じではないということね」
「そうだ。ここでひとつ仮説がある。俺たちはゲームの世界に来たんじゃなくて、ゲームの元になった世界に来ているんじゃないかと」
「「「えっ?」」」
「この星かこの世界かはっきりしないが、ここを知る誰かが日本に行き、そしてソーマジック・サーガを作った。
そして何らかの方法で、あのイベントをクリアしたプレイヤーを、ここに飛ばしてきたんじゃないかと思う。
最初に王女が話していたが、この世界は実在する世界だと言っていた。ただ、そう言ってもゲームと似すぎている。
ここを参考にソーマジック・サーガが作られたとするならば、反映されている情報はその時まで。さっきの飲み屋のように、ここの新しい要素がゲームにアップデートされていないから、あの店がなかったんだと思う。
この仮説だと基本的につじつまが合う」
「確かにそうだな。そもそも日本に戻る方法があるという話だから、この世界と日本が何らかの形で繋がっているのは明白だろう」
「そして疑問は2つある。まずどうやって日本へ戻るのか。そして、なぜこんなことをしているのかだ」
「ソーマジック・サーガでも魔法使いだけが使える転移魔法がありますが、それを使うということでしょうか」
「それも考えたが、あの転移魔法は取得してから行った場所でなければ使えない。
つまりこれからエリが覚えたとしても、日本に行けないから、その転移魔法で日本に戻るのは不可能だ。やはり何か別の方法があると考えるのが自然だろう」
「確かにな。ただ、こっちに来たんだから、戻る方法があると考えていいはずだ。意味もなくダンジョンでレベル上げっていうのはないと思うけどな」
(王女が俺たちを利用するためにレベル上げさせている可能性も否定はできない。ただこの考えはまだ話さないほうがいいだろう)
「なぜこんなことをするのか。俺たちにレベル上げをさせて何がしたいのか、これも良くわからない。
他の星からの侵略者といっても、ダンジョンでも見たことがないし、住民からはそんな危機感も感じないだろ。
あとはダンジョンの仕組みも意味不明だ。なぜ階層を下がるごとに相手のレベルが上がっていくのか。なぜ魔物がアイテムをドロップするのか。
これがゲームの世界なら理解はできる。ただ現実世界でこれは理解できない」
「死んだ魔物のどこから剣が出てくるのか。確かに目の前でその光景を見ると違和感ありまくりね」
サトルのこの世界に対する評価は「違和感」だ。異様なまでに、現実とゲームがバランスよく整っている。
魔物、ダンジョン、アイテム、レベル、魔法、単位、通貨、食事、住民、召喚獣、王女…そのすべてに違和感を感じるが、何度考えても答えは出ない。
ただこの違和感に気づいたことによって、後に彼らの運命は大きな荒波に揉まれていくことになる。
そしてその横でサトルたちの疑念を聞きながら、黙々とついていく4匹の召喚獣の姿があった。
第一章終了
「第二章:明らかになっていく真実 遺跡調査」へつづく
最後までお読みいただきありがとうございました。誤字脱字、拙い文章かと思いますが、今後もお読みいただければ幸いです。




