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ぼくとタマさんと秘密のノート  作者: 彩瀬あいり
 

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05 コックリさんと呪いの秘密 1

 コックリさん、コックリさん、おいでください。


 最近、学校ではやっている「コックリさん」だけど、禁止令が出た。

 ぼくはぜんぜん興味がないからいいんだけど、女子はぶーぶーさわいでた。

 女の子ってヘンなの。

 コックリさんが帰ってくれなかったらどうしよう、とか。怖い怖いって悲鳴をあげてるくせに、禁止されたら文句を言うって、なんだかちぐはぐじゃないかな?

 カミルくんにいわせれば「非科学的でナンセンス」らしい。ぼくもそれには同意だね。

 すると、ドレミちゃんはほっぺたをふくらませて怒るんだ。


「男子ってデリカシーがないわ! ねえ、アリサちゃん」

「……まあ、ね」

「ほら、アリサちゃんもそうだって言ってるし!」


 いや、アリサちゃんは同意してるわけじゃないと思うけどなあ。

 助けをもとめてカミルくんの顔を見たんだけど、すっと目をそらされた。ずるい。


 いまは給食の時間。

 班ごとに机を合わせて食べる。

 ぼくの班は、カミルくんと、ドレミちゃんとアリサちゃんの四人。

 ドレミちゃんは、コックリさんを信じているタイプで、放課後、友達といっしょに集まっているのを見たことがある。

 アリサちゃんのほうは、どうなんだろう?

 おとなしくて、いつも本を読んでるタイプだから、たぶん興味ないんじゃないかなってぼくは思ってるんだけど、ドレミちゃんの勢いには勝てないのかもしれないね。


「学校でやらなければいいんじゃないの?」

 ぼくが訊くと、「なに言ってるの!」と怒られた。

 でも、おかしくない? べつに学校の教室でやる必要はないじゃないか。家に帰ってやればいいんだよ。




「まあ、そういうのは場の雰囲気ってやつが大事なのさ」

 タマさんはそう言って、ぼくの秘密ノートに肉球をのせる。

 猫又のタマさんなら、コックリさんみたいなお化けっぽい存在のことも、知ってるかなって思って訊いてみたのだ。

 ちなみに、今日のノートは「コックリさんについて」だ。


「どれだけの子どもが信じているかさだかじゃないがね、あれは本来危険なものさ」

「でも、あれってメイシンってやつでしょ? 十円玉は勝手に動いてるんじゃなくて、やってるひとたちが無意識に動かしてるっておとうさんが言ってたよ」

「そうさね。だけど、人間の思いこみってやつは、時として大きな力となる。負の感情は、瘴気しょうきを呼ぶものさ」

「しょうきって、なに?」

 勝機ではないことはわかるけど。

 するとタマさんは下を向いて、考えながらポツポツと話す。

「……そうだね。まあ、それに囚われると、悪い行いをするようになっちまう、いや~な気持ちってやつだよ」

「わかった、ストレスってやつだね」

「感情としては似たようなもんだが、瘴気は裏の世界や狭間の世界から漏れてくる、普通の人間にはなかなか抗えないもんさ」


 イヤなことばっかり考えていたら、どんどん気持ちが沈んでしまって、楽しくなくなっていくことがある。

 そういうの、ウツっていうんだよね。

 ウツ病っていうのも、その瘴気と関係あるのかな?


「気をつけな。おまえはえるぶん、寄りつかれやすい」


 タマさんがいつもとはちがって、みょうにまじめなかんじで言うから、ぼくもこくりとうなずいておく。

 あ、こくりと、コックリって似てるね。なにか関係あったりするのかな?

 それもノートに書いておかなくちゃ。



   □



 ぼくは和菓子というやつは、あんまり好きじゃなかったりする。

 おまんじゅうよりはシュークリームのほうが好きだし、どら焼きよりはマドレーヌがいい。

 そんなぼくでも、『はぎのや』の和菓子はべつだったりするんだ。


 はぎのやは、隣町にある和菓子屋さん。

 すごく人気があるみたいで、お店の前には県外ナンバーの車が停まってたりすることは、しょっちゅうなんだ。

 ぼくの家からは自転車で30分ぐらいかかるんだけど、おばあちゃんの家が近くにあるから、ちいさいころからなじみがある。おかあさんが子どものころからあるお店で、うちでもよく買う。

 あんこがすっごくおいしいんだよ。生クリーム派のぼくも、あのお店のあんこはべつだと言いきれるね。いちおし。



 今日のぼくは、その『はぎのや』のほうまで、自転車で遠征している。

 おばあちゃんの家まで行って帰ってくると、けっこう運動になる。スポーツクラブに入れるほど体力に自信がないから、こういうかたちで運動をするのだ。

 水筒を持って行って、ちゃんと水分補給もしてるよ。『ねっちゅうしょう』には気をつけないといけないからね。


 もうひとつ、糖分も必要なので、ぼくは、はぎのやでおまんじゅうを買うことにしている。

 お店の近くには、ちいさな鳥居がある。赤い色をしていて、狛犬じゃなくてキツネがいるので、お稲荷さんってやつ。

 キツネには油あげだってよくいうけど、そこのほこらには、いつもお団子が置いてあるんだよね。

 お供えものは、なんでもいいのかもしれないなって思ったから、上坂神社にお供えするのも、おまんじゅうとかポテトチップスとかにしてるってわけ。


 神社を見かけるとお参りをすることにしているぼくは、そこのちいさなお稲荷さんにも、あいさつをするんだけど、今日はそこに先客がいた。

 といっても、人間じゃない。

 タマさんよりも、もうちょっと大きいぐらいの動物だ。

 なんだろう。犬でも猫でもタヌキでもない、でもなんとなく見たことがあるやつ。

 そっか、むかし見てたアニメで、主人公の友達として出てきたやつに似てるんだ。あれは、たしかフェレットっていう動物。


 ぼくが見ていると、しっぽが揺れた。ふさふさだ。

 さわってみたいと思っていたら、しっぽがぶわっと大きくなった。

 いや、なんか分裂してる。

 しっぽが、二本だ。


「もしかすると、タマさんの仲間かな?」

 ぼくがつぶやくと、フェレットがこっちを見て、口をひらいた。

「なんだ、小僧。それは俺様に訊いておるのか?」

「わ、やっぱりしゃべった。ねえ、タマさんの仲間なんでしょ?」

やかましい小僧だな。まず、そのタマさんとやらがわからぬのだが……」

「タマさんは猫だよ」

「猫だと!?」

 フェレットが急に怒った。

「えっと、正確には猫又みたい。ぼくにとっては、猫なんだけど」

「して小僧、どこから来た」

上坂かみさかのほうだけど……」

「――そうか、あちらを統べるあやかしものは、猫又であるか」

「タマさんの知り合いじゃないんだね」

「知らぬな。俺様は、常時この辺りにおるわけではないのである」


 近づいてみると、灰色の毛並みをしていて、頭の大きさに対して耳がすごくちいさい。

 かわいいけど、なんかすごく偉そうにしゃべってるところが、おもしろいや。

 いいなあ、抱っこしたいけど、ダメかなあ。


「その目、俺様を愛玩動物扱いしておるであろう。まったく不届きなことである。俺様はいと気高き雷獣なのであるからして、その辺りの獣と同列に扱うでないぞ」

「らいじゅう?」

「雷の鳴るところ、我あり。曇天を駆け、稲光を操り、一帯を轟かせるあの音こそが、我の本懐なり」


 雨を降らせるなら、ケロさんの仲間かな。

 雷獣らいじゅうさんは、ぴょんと二本足で立つことができて、そうすると、ぼくの腰ぐらいのところに頭がくる。けっこう、大きい。

 べつにぼくの背が低いってわけじゃない、はず。


 もともと、おまんじゅうを食べながらきゅうけいするつもりだったから、もうちょっと歩いた先にある大きな木のところに行って、雷獣さんの話を聞いた。

 昨日、ゴロゴロ雷が鳴っていたときに、このあたりにやってきたらしい。普段は、神さまが住んでいるところで暮らしているんだって。

 それって、タマさんが言ってた『裏側の世界』ってやつかな? お化けとかユーレイとか、そういうの。

 訊いてみると、それとはちょっとちがうらしい。

 いいものと悪いものは、べつべつのところにいるんだって。


「天国と地獄みたいなもん?」

「……それも意味合いは異なっておる気もするが、まあ、ちびに理解をしろというほうが無理であろうか。だがしかし、きちんと把握しておかねば、いざというときに太刀打ちできぬであろうに」

「いざというときって?」

「呑気なものだな。よくそれで、いままで取りこまれずに生きておられたと感心するぞ」


 あきれたように言った雷獣さんの足もと――、土のなかからぴょこんとちいさな指人形みたいなのが出てきた。

 ぼくは、その小人さんにおまんじゅうのカケラを渡す。

 小人さんはそれを受け取ると、スキップしながらどこかへ行った。


「……なにをしておるのか」

「おすそわけ。ぼくさ、むかしっから、ああいうのいっぱい見るんだ。こういうの、見鬼けんきっていうんだよね。タマさんが教えてくれたんだけど――」


 形になっていないようなモヤモヤしたやつとか、姿は見えないけど聞こえてくる声とか、誰かのそばにくっついてるひととか。

 そういうのは、みんなには見えても聞こえてもいないんだって知らなかったから、なんにもかんがえずに会話したりしていたおかげで、幼稚園に入るまえまでのぼくは、すっかり「おかしな子」だった、らしい。

 おとうさんからノートをもらって、そこに自分が見たり聞いたり知ったりしたことを書くようになって、ぼくは秘密を秘密としてあつかえるようになったのだ。


「まあ、良きものに守護されているようであるし、今後も精進するがよいぞ、小僧」

「よくわかんないけど、ありがとう」

「……もうすこし、危機感というものを持つものである」

 雷獣さんは、次の雨が来るまではこのあたりにいるらしい。

 来週、また会いに来よう。



 家に帰って、タマさんに雷獣さんのことを訊いてみたけど、よくは知らないみたいだった。

 タマさんの縄張りはこのあたりだから、おばあちゃんの家があるあたりは、かんかつがいってやつなんだろう。

 おとうさんの部屋にある本で雷獣のことを調べてみると、ハクビシンのことらしい。

 インターネットでハクビシンを調べてみたら、あの雷獣さんとは色がぜんぜんちがってた。妖怪だから、色がとくべつなのかもしれないね。


 ハクビシンさんって言いにくいなあ。

 ケロさんのときは、カエルだったから簡単だったけど、ハクビシンがなんて鳴くのかわからない。ネコって書いてあるから、おんなじように鳴くのかな?

 猫はタマさんがいるから、ハクビシンさんは――。

 よし、ハクさんにしよう。

 ぼくは秘密ノートに、雷獣のハクさんに会ったことを書いておく。

 ハクさんはみたらし団子が好きらしい。おまんじゅうもきらいじゃないけど、お団子のほうがいいんだってさ。

 タマさんもポテチ好きだし、妖怪って意外とお菓子が好きなのかもしれない。




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