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連絡先交換、色とりどりのジュース

「みんなに知らせた……? そっか、ありがとう」

「え?」

「俺は伝えられないから。真白がそうしてくれたなら、ありがたいよ」

「青司くん……」


 わたしはスマホを出すと、アドレス帳を表示させて青司くんに見せた。


「青司くん。ねえ、もう新しいの持ってるんでしょ? だったら……このみんなの連絡先、今すぐここで入れて。ここからは青司くんも、やらないと」

「え?」

「わたしは青司くんの味方。だけど、青司くんからもみんなに歩み寄らなきゃ。今すぐじゃなくていいけど……青司くんからの直接の言葉じゃなきゃ、伝わらないことってあると思う」

「うん……そうだね。わかった……」


 青司くんはそう言うと、自分のスマホを出してみんなの連絡先を入れはじめた。

 みんなには、後で言っておこう。

 青司くんに教えておいたって。事後報告になっちゃうけど。


「あ、そうだ。そういえば真白のアドレスも」


 ふいに青司くんが顔を上げて、わたしを見る。

 そっか。わたしの連絡先、無くなっちゃってるんだっけ。

 わたしのアドレスはみんなとは違って、昔から一回も変更してないけど、青司くんは前の携帯ごとなくしちゃったから、わたしのアドレスがわからなくなっちゃってるんだ……。


「ごめん……真白のも、もう一回教えてくれる?」

「うん、いいよ。このへんに……自分のプロフィールがあると思う」

「えっと、ここ?」

「違う。そこそこ」


 青司くんが画面をこちらに見せながら訊いてくるので、わたしは指を差して教えてあげた。

 でも、うっかり違うところをタッチされそうになったので、わたしはそれをあわてて止める。


 昔のメールとか……消さずに残してるのを見つかったら、困る。

 特に黄太郎とのメールとか。


 今は便利なチャットアプリがあるけれど、わたしは他人との過度な関わりが苦手というのもあって、それをインストールするのを意識的に敬遠していた。

 昔から連絡手段はメールか電話。

 これには一応わけがあって、「過去に青司くんとそれで連絡を取りあっていた」というのを忘れたくない、という思いがある。


「真白。俺、これをひととおり入力させてもらってるからさ、その間に真白はジュースを試してて」

「うん」


 言われてわたしは目の前に並べられた、色とりどりのジュースたちを見つめた。

 赤、オレンジ、黄色、緑。

 どれもとっても鮮やかだ。

 それぞれ小さめのグラスに入っている。


「左から、ザクロジュース、オレンジジュース、レモネード、メロンソーダとなってる。市販の物も使っているけど、それぞれさらに一工夫してるよ」

「そう。じゃあ、さっそくいただきまーす」


 というわけで、まずはザクロジュースをいってみた。

 口に含んでみると、すぐに強い酸味を感じる。


「ああっ! 酸っぱ~い。でも……あとからちゃんと甘さが来るね。不思議な甘酸っぱさだ……。しゅわしゅわしてるけど、これ炭酸が入ってるの?」

「あっ、気が付いた? それは無糖の炭酸水を入れてるんだ」

「無糖?」

「そう。甘い炭酸水でもいいんだけど、それだとザクロ本来の甘みとか味が消えちゃうかな、って。あと真白がさっき言ってた、ケーキとの相性も考えると多少酸味が残ってた方がいいかもね」

「あー、なるほど。そうだねー。でも炭酸が入ってるとなんとなく『夏』っぽいかな。まだ寒いし……これあったかいのにできない?」


 たしかにこの飲み物は、どちらかというと夏とか暑い時期の方が好まれる気がした。

 三月はまだ肌寒い。

 今日も風が強くて、ここに来るまでに体がとても冷えてしまっていた。わたしは、あたたかな飲み物を所望する。


「ああ、できるよ。これ希釈タイプのやつだから」

「ホント? じゃあぜひ、お湯割りにして下さい」

「はい。ちょっと待って」


 そう言うと、青司くんはザクロジュースの瓶を出して、適当な白いティーカップの中にそれを少量そそいだ。さらにそこに沸かしたお湯をたっぷりと入れる。

 わたしは薄められて現れた、美しい赤色の液体にうっとりした。


「わー。綺麗な色!」

「グラスに入ってる時もかなり綺麗だったけど、この白いカップでもいい感じだね」

「うん。それにザクロの香り? それがふわ~って、漂ってる」

「これはホットとアイス、両方出せそうかな」


 青司くんはそう言いながら、小さなメモ帳に何かを書き留めている。

 わたしはそれを見ながら、ザクロティーのカップを手に取った。

 ザクロティーの温もりがじんわりと掌に伝わってくる。わたしはそのまま一口飲んでみた。


「……うん。さっきより酸味がちょっと抜けたみたい。わたしはこっちの方が飲みやすいかな」

「そう? それは良かった。酸っぱいのが苦手な人には、はちみつとかシロップを入れるといいって瓶には書いてあるんだけどね。真白はどう、使う?」

「うん。使う」


 そう答えると、青司くんはさっそく冷蔵庫からはちみつとシロップを取り出してくれた。

 わたしはどちらにしようか悩んで、はちみつの入ったボトルを選ぶ。

 少しだけ垂らして飲んでみると、さっきよりも格段に飲みやすくなった。


「うん。入れたらもっと良い感じ!」

「そう」

「お店でも、こういうのミルクピッチャーみたいなのに入れて出したほうがいいかもね。やっぱりこれも単品で飲む人がいるだろうし」

「そうだね。うん、そうしよう」


 青司くんがわたしの意見を取り入れてくれる。

 こんな何気ないやりとりが、とても嬉しい。


「次はオレンジジュース……だね。どれどれ」


 わたしは次のグラスを取った。

 太陽のようなオレンジ色。

 一口飲んでみると、果汁のみずみずしさが口の中いっぱいに広がった。


 冬は風邪を引かないようにビタミンCをたくさんとった方がいいと言われているので、これはこれで冬でも需要がある気がする。


「それは市販の。でも次のレモネードはちゃんと一から作ってるよ」


 というわけで、レモネードをいただく。

 透明な液体にスライスされたレモンが二、三枚入れられている。

 炭酸かと思いきや、これは普通の水で割ってあるらしかった。


「んー。爽やか~~~!」


 どこか切ない味がする。

 レモンの酸っぱさとわずかな苦みと、それからシロップの甘さが思わず胸をきゅんとさせる。

 これもビタミンCがたくさん取れそうな飲み物だった。


「それは……ほら、これ」


 そう言って、青司くんはスマホを横に置くと、掌くらいの大きさのガラス瓶を棚から取り出す。

 その中には輪切りのレモンが入ったシロップがあった。


「氷砂糖とレモンを交互に重ねてしばらく常温で置いておくと、こういったシロップができるんだ。これは昨日から仕込んでおいたものだよ」

「へえ。それだけでもおいしそうだね」

「そうなんだ。ちなみに少しだけはちみつを入れてある。このままこれを紅茶に入れたらレモンティーにもなるし、便利だよ」

「いいね。これはただの水で薄めてあるの?」

「そう。夏は炭酸混ぜてもいいけど、さっきのザクロジュースよりはこれははちみつとか入ってるから水だけで割っても美味しく飲めるんだ」

「へえ~」


 わたしはそのあと、最後のメロンソーダを手に取った。

 ケミカルな緑色。

 でもこれも炭酸水が入っているのでしゅわしゅわとしている。


「あっ、ちょっと待って」


 飲もうとしたわたしを制して、青司くんは冷凍庫からなにかを出した。

 それは市販品のバニラアイス。


「やっぱり喫茶店なんだから、『クリームソーダ』にしないとね」


 いつのまに用意したのか、青司くんはアイスクリームディッシャーを使ってアイスを丸く削り取る。そしてそれをポンとメロンソーダの上に乗せた。


「お店ではこれにさらにさくらんぼを乗せるつもり。母さんはこういうの家では作ったことなかったけど、でもどっかの喫茶店に連れていってもらったら、毎回俺これを注文してたんだ。大好きなんだ、これ」

「そうなんだ」

「うん。喫茶店やるなら、絶対これだけは外せないなあって思って。よくある味だと思うけど、一応これも大丈夫かどうか試してみて」

「うん……」


 わたしは青司くんからアイスをすくうためのスプーンを受け取った。

 その間も、乗せられたバニラアイスはもわもわと緑色のソーダ水に溶けていっている。

 わたしもこれは大好きだ。

 とくにこの、溶けかかったバニラとソーダが混ざったところ。


 ストローが置いてあったので、わたしはそれで目的のあたりを吸ってみた。


「ん~~~っ……!」


 えも言われぬ幸福感が襲ってくる。

 これは……懐かしすぎる。

 思わず小さい頃の記憶がよみがえってきた。


 わたしも昔、これをよく注文していた。

 家族でどこかに遊びに行った帰り、ファミレスとか喫茶店で休憩しているとき。

 わたしは飲み物の中でひときわ変わったものを見つけたんだ。

 それが、このクリームソーダだった。


「メロンなんか入ってない、ただの緑色の、かき氷とかにも使われてるシロップなのにね……なんでこういう形になるとめちゃめちゃ美味しく感じるんだろう。すっごく幸せ……」

「ほんと、不思議だよねえ」

「ね、青司くんも飲んでみない?」

「えっ、いいの?」

「うん。それとももう自分では作って飲んでみたの?」

「えっと、まだ……」

「じゃあどうぞ。はい」


 差し出されて、青司くんはわずかに目を見開いた。

 でも、すぐにストローを手にして、それを口に含む。


 あっ。

 しまった。

 これって、もしかして間接キスになっちゃうんじゃ……?


 って思ったけどもう遅かった。

 青司くんはすでにわたしが飲んでいたクリームソーダを飲んでいる。

 でも、飲みながら、なぜかこちらをじっと見られた。


「……っ」


 もしかして、わたしが間接キスを意識してるのバレてる……?

 ああ。い、意味深な目つき……。

 わたしはものいたたまれなくなって、視線をそらした。


 と、そこで誰かが、お店のドアを開けて入ってきた。

 姿を現したのは……森屋園芸の店長さん、森屋堅一さんだった。

次回は、森屋園芸さん回です!

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