お名前は……
「あっ、名乗るの忘れてた!」
急に思い出したらしく、居ずまいを正す少年。
「ボクはルティ」
「ご丁寧にどうも」
少年──ルティの外見は日本人だが、中身は違うらしい。魔族の気配がするので、そちらが本質だろう。ということは、子どもに対する接し方に変えなくても良さそうだ。今のままでいこうと思う。
「………………」
「………………」
礼儀正しそうだが〝名〟を知られた途端にうっかり隷属……なんて流れにならないよう、こちらは名乗らないという選択をしたため、沈黙が続く。
「……あの……」
「……はい」
気遣わしげに呼びかけられ、嫌な予感に襲われながら仕方なく返事をする。
「……お姉さんの、名前は……」
「…………言わないと、ダメですか」
「……できれば、教えてもらえると……」
尻すぼみになる言葉の間に「……確認のためなので……」とか「……さしつかえなければ……」とか聞こえるのは気のせいではないだろう。
喉元までせりあがる、役人か。という突っ込みをなんとか飲みこむ。
「……えっと……」
詩鶴の顔をちらちらと見ながら言葉を探すルティ。
「あの……もうちょっと気を楽にしてもらえると……」
お見合いか。
「実は、ボク、こういうの初めてで……」
だから、お見合いか。と突っ込みをしたくなるので、微妙な表現はやめて欲しい。
気を遣わせているようだが、ここで相手の口車に乗ったら負けのような気がする。気合いを入れ直した直後、詩鶴の硬質になった〝気〟に、ルティはあたふたしていた。
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