訊いてみた
詩鶴が部屋に戻ると、少年はクッションに座り膝を抱えていた。パタンと閉まるドアの音でこちらをそろりと向く。大きな目が、不安そうに揺れていた。
「リンゴジュースは飲めますか?」
丸いトレイを床に置き、ローテーブルを挟んで少年の向かいに座る。
「……うん」
「それは良かったです。こちらをどうぞ」
ためらいがちに頷く少年の前にコップを置く。
「ありがとう、お姉さん」
「どういたしまして」
小さな両手でコップを持ち、頬を緩ませて飲む姿を観察しながら、詩鶴も自分のコップを傾ける。
半分ほど飲んでテーブルにコップを置いたところで、話を切りだした。
「さきほど、不法侵入ではないと言いましたね」
「うん」
「では、何のご用ですか?」
詩鶴の問いに、少年はきょとんとした。
「呼ばれたからだけど」
「呼んでいませんが」
しばし見つめ合う。
「や、やだなぁ、お姉さん。魔法陣書いたでしょ?」
「覚えがありません」
再び見つめ合った。
妙な空気が流れていく。
先に視線をそらしたのは、少年だった。
「……えーと、確認したいんだけど」
「そうですね。お互いの認識が一致していないようですし」
詩鶴は深く頷いた。
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