ショタっ子現る
開いたページから放射状に撒かれる光は徐々に消えていき、しばらくすると普通の本へと戻った。
「……何これ。仕込み?」
茶目っ気のある穂乃花のサプライズかと思い、それなら反応しないほうが正解だと、再び文字を追い始める。
国立魔法修学院に初等部から通っており、あまり動じない性質も相まって、この程度では驚かない。
光が収まってから視界の端にちらちらと映りこむものがあるが、気にせず読み続けた。
数分後。
「無視はひどいんじゃないの? お姉さん」
先に音を上げたのは、相手のほうだった。
「不法侵入なら、お帰りはあちらですよ」
あえて丁寧語を使い、ベランダの窓を手で指す。
「不法侵入じゃないし、帰るつもりもないよ」
「ここはあなたの家ではないですよね?」
「うん」
「住居者の許可なく家に踏みこんだ時点で、不法侵入です」
「うっ……」
なぜか、今読んでいた本の主人公の弟の姿をした少年がたじろいだ。挿絵が動いてる……と妙なところを感心する詩鶴。
「でっ、でもっ、これがボクの仕事だし!」
「不法侵入がですか?」
「ち、違うよ! ていうか、繰り返すのやめてよ!」
……ボクだって、急にだったから、どうしたらいいかわからないんだもん……
伏し目がちに呟くしゅんとした姿に、詩鶴は小さく息を吐いた。
「……ちょっと待っててくださいね」
「えっ?」
「靴下ですから座れますね。こちらへどうぞ。クッションを置きましたから」
事務作業のように手と口を動かし、立ち上がってドアへと向かう。
背後からの「どこへ──」と焦った声を聞き流して部屋から出た。
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