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前略、そして殺せと彼女は嗤う  作者: ネギま馬
はじまりはじまり
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アーラット村にて②

そうそう、元コミュ障(自称)の俺から言わせてもらうと、コンビニのバイト本当におすすめ。二人きりになった時に気まずいやつ、あれバイトの話をしてたらなくなっているから。

まあ、いまだにクラスの女子とは喋れないんだけどさ。


……え?コミュ障じゃないかって?


うるさいな!細かいことは気にするな!!


はい!本編どうぞ!!


「そろそろ行くか」


 書斎の本棚に置いてあった本を閉じながらアルは時計をみる。時刻はすでに正午を過ぎており、小腹が空き始める時間帯に突入していた。しかし、生憎とこの館にはもう食料は存在していない。いつも家事や食料調達を行ってくれている男性のことを思い出し、アルは少し腹立たしくなる。あいつは仕事をすっぽかして何をやっているのだ。このところ数週間、彼はアルの館に帰ってきていない。そのために食料が不足しているのだ。仕方ない、山の麓の村で食料調達を行うことをアルは決断する。別に、赤髪の少年の動向が気にかかるわけではないのだ。あくまで食料調達が目標なのだから。そう自分の本音を嘘で塗り固めながらアルは山を下る。自分の気持ちに嘘をつくのは昔から行っていたために慣れていた。アルはふと一人の女性を思い出し、哀愁に浸る。


 哀愁に浸りながら山を下っているといつしか小さな集落を抜け、「アーラット村へようこそ」と異様な存在感を放つ門の前に立っていた。その門をくぐり抜け、アルはアーラット村の中に入って行く。アーラット村はとても珍しい村だ。ミイラやヴァンパイアをはじめとする亜人族が全く住んでいないのだ。種族の多様化が進んでいるこのウルド王国では亜人族のいない村はこのアーラット村だけだと言ってもいいのだろう。


 村の舗装された石畳の上を歩く。やがてその足は集落を抜け、一つの古民家風道具屋に向かっていた。見た目はただの民家で中は道具屋として機能している、情報提供者の自宅兼道具屋なのだ。その道具屋のドアに近づく。しかし中からは何も音がしておらず家主の不在をアルは疑った。まあいい、中で待てばいいだけだ。そう考えながらアルはドアノブを握る。


「そこの君、僕の店に何か用かい」


 ドアノブを捻ろうとしたときに後ろから聞き慣れた声を掛けられる。鼓膜を心地よく揺さぶるその声の主の方向へと視線を流す。緑色の艶のある背中まで流し、整った顔立ちにはどこか男性を誘惑するような色気を放ち、顔にはめ込まれた翠色の双眸がそれを強調するように怪しく輝いていた。体は完全に成熟しきっており、豊満な二つの膨らみがその体を強調する。それを隠すように彼女は黒のローブを羽織っているのだがそれすらも色気を強調させる材料となっていた。つまりは男性の思い描く女性の理想像そのものだった。


 彼女は振り返った少年を見つめ、その少年がアルであることを認識する。


「なんだ、アル君じゃないか。随分と久しぶりに見たような気もするが・・・もしかして痩せた?ダメだよーちゃんと食事は取らないと」


「確かに会ったのは久しぶりだが僕は痩せてなんかいない。むしろ体重は増えていると思うが」


 アル自身も華奢な体つきを気にしており、数週間前からトレーニングを始めていた。筋肉の方が脂肪よりも重量は重いためにアルの体重は増えているはずなのだ。


「そうなのかい?僕にはそうは見えないけど・・・まあいいや、とりあえず入ってよ」


 アルのトレーニングの成果を一言で否定した後に彼女はアルを店の中へ案内しようとドアノブを捻る。店の中は整理されており、どこに何が置かれているのかが一目でわかった。彼女の家は道具屋と名乗っている通り、生活に役立つ雑貨からどこから仕入れたのかもわからない得体の知れない物体まで幅広く取り扱っている。


「そうだなー。アル君、ちょっとそこの椅子に腰掛けて待っておいて。今、お茶を出すから」


 店の様子を観察していたアルに向かって彼女は壁際に設置された二人用の机と椅子を指差し、家の奥へと姿を隠す。彼女の淹れる紅茶は絶品のため、アルは待ち遠しく感じながらも素直に椅子に体重を預けた。


「お待たせー。お茶菓子は自由に選んでね」


 しばらくすると彼女が紅茶を淹れたティーポットと二人分のティーカップ、そして皿に盛り付けた色とりどりの茶菓子をトレイに乗せて運んできた。アルは早速ティーカップに紅茶を注ぐ。今回彼女が淹れてくれた紅茶は少し珍しいものだった。なんでも遠い東の国から取り寄せたものらしく、ティーカップに注ぐと紅茶らしくない黄金色の液体がカップを満たしていた。今まで見たこともない色の紅茶に驚きながらもアルはその黄金色の液体を口に運ぶ。その液体は少し苦味を感じるも紅茶とはまた違う茶葉のほのかな甘さが口を癒して行く。


「それはね、緑茶っていうらしいんだ。たまたま仕入れることができてね。僕のお気に入りだから君にも飲んで欲しかったんだ」


 緑茶と呼ばれたその液体に舌鼓を打ちながら、皿に盛り付けてある茶菓子にも手を出す。茶菓子は焦がしバターとアーモンドの香ばしい風味が特徴の焼き菓子から何やら見たこともない穀物の粉を練ってそのまま焼き上げたようなものまで様々な種類のものがあった。今回は苦味のある緑茶を飲んでいるために口が甘いものを欲している。あの見たこともない焼き菓子はなんだろうという好奇心は一旦捨て、バニラの甘い香りのするマドレーヌを茶菓子に選ぶことにする。マドレーヌの甘さが緑茶の苦味をいい感じに打ち消してくれてこれまた癖になる組み合わせができてしまう。小腹の空いていたアルにとってこの組み合わせは一番危険な組み合わせとなっていた。


「なんだ、君なら真っ先に煎餅を選ぶと思っていたのになー」


「煎餅?」


「君が好奇心むき出しの目で見ていたその焼き菓子のことだよ」


 その煎餅と呼ばれる焼き菓子を彼女は何の躊躇いもなく口に運ぶ。バリバリと軽快な音を口で奏でながら彼女は煎餅を食する。とてつもなく美味しいものを食べたような顔を作りながらアルを煽るようにする。その煽りに乗っかりアルも煎餅を口にする。それは甘辛い液体で包まれた硬い焼き菓子であり、香ばしい匂いとともに甘辛い液体が口の中に広がって行く。その焼き菓子の今まで味わったことのない味にアルは衝撃を受けた。癖になる味にアルは煎餅を何度も口に運ぶ。


「それより、君がここに来るということは何かあったのだろ?」


煎餅を口に運ぶアルに真剣な口調に切り替えた彼女は問いかける。


「この僕、『叡智の魔女』のガサニア・リズに何か用かい」



閲覧ありがとうございます!!

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