出会い②
あんなーみんなに言ってなかったけどさー、学校に通っているわけですよ。
小説書いている人ってみんな頭良さそうだよね。テストとか主席とってそうだよね。
俺だってトップテンに入ってドヤ顔して見たいよ!!
だけどわしゃ頭が悪いんじゃ。下から数えたほうが早いんじゃ。
どうにかならないかね……はい、わかってます。勉強してきます。
本編どうぞ
「・・・・ル・・・」
「エル」
懐かしい声が微かに聞こえた。その声は何度も聞いて少し聞き飽きたような、でも聞いていると心から安心できる。何もかもを包み、癒すような優しい声で。本来ならもう二度と聞くことのできないその声が聞こえてエルは夢だと確信する。
エルは辺りを見渡す。何もかもが白だった。部屋だと思わしきそこの壁も床も、そして家具も全て白で統一されており、あまりの眩しさにここでは存在しないはずの目を細める仕草をおぼえた。
自分の周囲の状況把握が済み、今度は自分の名前を呼ばれた方向、自分の背後へと視線を送る。夢の中ならもう一度会えるのでは。と、一片の期待を胸に秘めてエルは自分の背後に感じる一人の女性と思わしき存在へと振り返る。しかし、そこには誰の姿も影すらも見当たらなかった。そんな風にことがうまく運ばないとは理解していてもエルは落胆する。もう夢ですら会えないとは。もしかしたらもう自分でも彼女の、母の姿を忘れてしまったのでは、と少し自分に失望してしまう。落ち込んでいるのを動作で表すかのようにエルは視線を足元へと落とした。その時、
「エル、早く来て」
また声が聞こえた。今度は先程とは違い、はっきりとした声でエルの鼓膜を震わせた。どうせそこを向いたところで誰もいない。心底うんざりしながらも少しだけ、一抹の希望を抱いてエルは視線を足元から持ち上げ、自分の正面へと向ける。そして先程までとはまるで違う光景にエルは瞠目する。そこには影が立っていた。エルを助けた黒ずくめの人物とはまるで違う異質な存在感を放って立っているこの人物は頭から足先までまるでインクに使ったかのように真っ黒だった。そして遅れて理解する。この人物がエルを読んでいたのだ。
「早く来て。おねがい」
影がエルに向かって近づいてくる。その歩幅に合わせて背景が黒く染めあがっていく。そんな光景にエルは恐怖を抱き、後ろへ足を退けようとする。しかし金縛りにあったかのように足が地面から離れなかった。人影がその間にエルとの距離を詰めて右手をエルの左頬へとのばす。
「私を見つけて。そして」
人影がエルの左頬を撫でながら囁く。その声には今までの優しい声色はなく、男を誘惑するような甘く、妖艶な声に変貌していた。その瞬間に今までエルの心に巣食っていた恐怖心は吹き飛ばされ、空っぽになった心に強い殺意が無限に湧き出ていた。その時には背景を黒く染めていたものがエルの胸元まで迫って来ていた。人影の顔と思わしき黒に染め上げられたものがエルの右耳に向かって囁くようにこう言った。
「私を助けて」
その言葉を聞いた瞬間に黒いものがエルの体を包み込み、視界が真っ黒に染まっていくのを感じた。
───夢は起きたら忘れるものだと思っていたのだが。
やはり後味の悪い夢を見た後の目覚めは最悪だ。そう考え、エルは嘆息する。あの夢の女性はきっと彼女だろう。
「最悪だ」
一言口にして次にエルはまた嘆息する。エルの夢に出て来るのは場面は違えどいつも彼女なのだ。彼女が出るたびに叫びそうになる。殺してやる。そう叫びそうになる。
次にエルは記憶の接合を試みる。最後に見た記憶は黒づくめの少年、しかも大火災のど真ん中で。なのにエルが丁寧に柔らかい何かに寝かされているのはおかしい。ここはどこなんだ。
エルは瞼をゆっくりと開いた。しかし、目の前はまるで水中にいるようでぼやけている。なぜだ。なぜぼやけている。そう慰問に思いながらエルはそのぼやかしの原因を探るために指先を自身の瞳に向かって伸ばした。
そのぼやかしの原因に指先が触れる。瞬間、それは熱い熱を帯びており、次の瞬間にはただの体温と化していた。それが涙だと気づくのに時間がかかるほどエルは馬鹿ではない。
涙を拭い、ぼやかしを取ろうとする。しかし涙が止まることは決してなく、ずっと拭い続ける羽目になっていた。
「……ぐっ……ふっ」
次第に嗚咽が漏れだして来る。それだけは漏らすまいとエルは必死に唇を噛んだ。強く噛みすぎたせいで口の中が切れて血液が漏れ出し、鉄の味を味わうことになる。そこまでしてエルは嗚咽を止めたかった。ただ単に泣き喚くのが恥ずかしかったわけではない。何度も殺そうと誓った彼女のためだけに自分の涙を流しただけでなく、嗚咽を漏ら
したと自分で信じたくなかったからだ。
そうやって堪えて何分立ったのだろう。涙は自然と枯れて、嗚咽も不思議なほど自然に治っていった。そのおかげで現状の把握に勤めることができるようになる。
エルは寝転んでいた状態から上半身を起こし、周辺を見渡す。この部屋は恐ろしく簡素な配置になっていた。壁際に設置された一人用の机と椅子、そしてエルが寝ていたベッドだけがこの部屋に設置されていた唯一の家具だった。
「面白くねえ作りだな」
そう口にしながらこの部屋唯一の窓に視線を向ける。多分、久しく換気を行っていないのだろう。窓の枠には埃が溜まり、空気中を漂う埃が窓から漏れ出す太陽光に反射してキラキラと光る、なんとも幻想的な光景になっていた。
その光景を目に留めながらエルは現状の把握を再開する。そしてこの部屋の出口であるドアに視線を向けた時、
誰かに見られていたことに初めて気がついた。
その人物は艶のない短い黒髪と顔面にはめ込んだ黒く怪しく光る黒瞳を持ち合わせて、それと対比するように病的なまでに白い肌がとても印象的な少年で膝まである長い黒の貫頭衣を羽織っていた。
その少年がこちらの視線に気がつき、微笑を浮かべる。その笑みは何もかもを凍てつかせるような冷たい笑みだった。
「いい泣きっぷりだったな」
そう少年は微笑を浮かべながらエルを侮蔑するように言葉を紡いだ。
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