出会い①
あのなー。前回も書いたけど前書きって何書くん?
今回の話のあらすじとか?はネタバレだし……ま、いいか。
下ネタはちょっとなー。
あ、本編始まるよー!
───まるで世界の終わりのようだった。
今エルが歩く住宅街は家々がまるで生きているかのように炎を吹き出し、その炎が自らを焼き尽くすたびに家々は唸り声をあげるように家全体を軋ませている。
しかし、その炎吹き出す木造の牢屋の中からは住民の生々しい阿鼻叫喚は聞こえてくることはなかった。そのことを確認した上でエルはそれを誇りに思う。
やっと村人全員を避難させた。
人々の阿鼻叫喚が鼓膜を揺さぶらない。そのことで辺りに人がいないと認識してしまう彼は詰めが甘いのかもしれない。しかし、彼は十分に努力したのだ。
時には逃げ惑う村人たちを避難させるために奔走し、時には逃げ遅れた少年を助けるために炎が蹂躙する家屋に突撃したりもした。
ラムル村を襲った原因不明の大火災。それのおかげで村の大半に火が周り、今でも全てを焼却せんとする勢いで炎
がラムル村を蹂躙していく。その脅威から村人たちを遠ざけるために彼は村中を奔走したのだ。
「……臭い」
彼の鼻腔を強い火薬の匂いが刺激する。その慣れない強い匂いに顔を大きくしかめて鼻を腕で覆い隠す動作を反射的にとってしまう。
もしこの火薬の匂いが今回の火災の原因なのだとしたら故意に引き起こされた可能性も考えられる。
もしそうなのだとしたら、どうして? 誰が?
そんな疑問を頭に浮かばせ続けるにはエルは疲労しすぎていた。
顔面は煤に埋もれ、その下には疲労が正直に浮かび上がっている。姿勢を正す背筋は弛緩し尽くし全く機能していない。エルを脱出させようと動き続けている二本の足は小刻みに震えていてまるで生まれたての子鹿のようであった。
その足がまた一歩、火炎地獄からの脱出に向けて踏み出される。
その足元には拳大の石一つ。
次の瞬間、エルの体は大きく傾いていた。重力に対抗する力も、気力も生憎と持ち合わせていない。彼はまるで放り投げられた一端の小枝に錯覚させるほど無抵抗に、静かに地面へと倒れていった。
立ち上がれない。もう無理だ。
エルは四肢を放り投げ、小さく笑みを浮かべる。その笑みにはどこかに諦めを感じさせるような哀愁漂う笑みだった。
「……あの犬っころめ」
犬一匹なんて見捨てればよかった。
今更ながらに自分の失態を振り返り、嘆息しながらエルは夜空にきらめく満天の星空を眺める。その星空はまるで地上に関心など持っていないのだろう。
「なんでこんなに綺麗なんだよ」
夜空はこの火炎地獄を嘲笑するように光り物のぎっしり詰めた宝石箱をエルに見せつけてくる。
なんと皮肉なことだろうか。
彼は今まで星は彼を優しく、さながら聖母マリアの如く優しい母性で包んでくれていると思っていたのだ。
──それなのに、今光る星々はただエルを嘲笑するだけ。
こみ上げてくる絶望を胸中に抑え込み地獄を生き抜く決意を固める。
死んでしまってはいけないのだ。
俺は……俺は。
「俺は……を殺す」
その淡々と並べた言葉の端々には一切変わることのない決意の色と色濃く残る殺意だけが漂っていた。
次の瞬間、鼓膜に強く響いた。
木材のぶつかる乾いた音、それに重複するように響く、圧倒的物量を含んだ鈍く、重い音。
その音の正体を確認しようとも、生憎、体は疲れ切って一切動こうとしない。
本能が告げる。避けろと告げる。
それに賛同するように脳髄が反射神経に電気状の信号を送ろうとする。
しかし、それでも四肢はピクリとも動かない。
「動け!動け!……動けよ‼︎」
動こうとしない頑固な四肢にエルはただ怒鳴り散らすだけだった。
彼の直感に従わなければ大怪我ではすまないはずだ。
なのに、なのに彼の四肢は動かない。
やがて彼の視界が霞んでいき、思い出したくもない記憶が掘り起こされていく。
──私を殺して。
多分これは走馬灯。それでさえも思い出すのはこの記憶なのか。
ふと瞼を閉じる。迫り来る現実から目を背けるために。
次の瞬間、辺り一帯を強い突風が吹き抜ける。
その突風に巻き込まれたエルは数メートル後ろへと流されるまま転がってしまう。
何事かとエルは現状確認のために瞼を再び開く。
おおよそこれがエルの頭上から降り注いでいたのだろう。真っ黒に焦げた家屋の残骸がエルの後ろへと吹き飛ばされていた。
風の吹き荒れた方向へと視線を向ける。
そこには黒い影──いや黒づくめの男が立っていた。
体つきは男とは思えないほど細く、触れば折れてしまうのではと考えてしまう。
病的なまでに日に焼けていない白肌は黒いコートと対比して余計に白く見えてしまう。
不健康な少年。それが彼への第一印象だった。
一度安堵してしまったら張り詰めた緊張の糸は一気に緩んでいく。全身の硬直していた筋肉はこれ以上ないほどに弛緩し、顔をあげることもままならなかった。
しかし、エルの脳は思考をやめない。
なぜ? どうやって?
そして一つの結論に達した時、彼の中をどす黒い何かが満たしていく。
エルは最大限の力を込めて緩く微睡んだ意識を奮い立たせ、重い首を立てて男に焦点を向ける。
「絶対に殺してやる」
その言葉を口にした瞬間、エルの意識が遠のいていくのを感じた。
──なぜこの少年を助けようと思ったのだろうか
黒のコートを羽織った少年、アルは自分の無意識的な行動に嘆息する。
そして彼は自分の助けた少年の元へと歩み寄っていた。
くすんだ赤色の髪の毛に煤が付き、より一層くすんで見える。顔や腕、足など肌を露出しているとことには至る所に生傷を作りなんとも痛々しい状態になっていた。
そんな少年を見下ろしながらアルは思案したのだが、時間の無駄だという結論に脳が達し、即座に思考を止める。
そしてアルは少年と担ぎ上げこの地獄から逃走する準備を整える。
「ロコモータ」
アルが移動魔法を唱える。
次の瞬間、彼の足元から黒い霧が発生した。その霧はアルの全身を包み込み、気絶している少年の体さえも巻き込んで行く。アルと少年の体が完全に包み込まれ、真っ黒になると少しずつ霧が晴れて行く。
完全に霧が晴れた時、そこに彼の姿はなかった。
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