精神攻撃
「さあ、解除したぞ!人質を放せ!」
「はて、そんな約束したかな?」
実際そんな約束はしていない。本当に人の話を聞かない奴だな。
「き、貴様!」
「では、こうしよう。君が俺を満足させられたら人質は解放しよう」
「何!?本当か!何をすればいい」
うーん、素直すぎないか?大丈夫なのか?こんな子が警備隊の副隊長してて。
「何もしなくていい。そこに立っててくれていればそれでいい。ただし何があっても動くなよ」
「わ、わかった」
緊張した様子でビシッと立ったルシエナを見てサチに小声で指示を出す。
「サチ、これを強制装着」
最初に選んだのは薄ピンクと白のゴスロリ服。
「な、なんだこれは!」
一瞬にしてルシエナがゴテゴテのゴスロリに変身する。
これはこれで可愛いが違和感が凄まじいな。特に雰囲気と色が合わない。
「ソ、ソウ。貴方って人はなんていう・・・くふっ」
相変わらず沸点の低いサチさんはお気に召した様子。
後ろの警備隊の子達は視線をそらしているな。
「なかなか似合ってるじゃないか」
「くっなんたる屈辱!」
口惜しそうな表情が逆に可愛さを増幅させる。服装の力は凄い。
「では次にいこう」
次に選んだのは映像作品で扱われるような魔法少女っぽい服装。色はショッキングピンク。
そもそものサイズが合わないのでぴっちぴちになっている。
「うわぁ・・・」
思ったよりきっついな。いろんな意味で。
サチは笑うのを必死に堪えてるようで俺の腕に凄い振動が伝わってくる。
「うぅ・・・」
ルシエナも恥ずかしいようで真っ赤になって丸見えのパンツをどうにか隠そうと裾を伸ばしている。
「では最後だ」
最後はこれは絶対似合わないと即わかったものだったのだが。
・・・うん。我ながら可哀想に思えてきた。
ルシエナは黄色い帽子、水色のスモック、ショートスカートにかぼちゃパンツという所謂幼稚園児ファッションに身を包んでいる。
最初これを見つけたときは戦慄した。あの街の闇は深い。選んだ俺も俺だが。
「う、うぅ・・・あんまりだ・・・」
ルシエナは両手で顔を覆い、耳まで真っ赤にして今にも崩れ落ちそうだ。
一方サチと警備隊の二人はもう我慢しきれないようで、床に突っ伏して声を出さずに笑っている。
よし、こんなもんかな。
「しゅーりょー!」
手を叩いて終了を宣言する。
「・・・え?」
涙目になって意気消沈していたルシエナが急に雰囲気が変わった俺に視線を向けてきた。
「はー・・・さすがソウですね。大変楽しませてもらいました」
笑い涙を拭きながらサチがルシエナの服装を元に戻す。
「これはいったい・・・」
状況がつかめてないようで戸惑っているところに部下の二人が駆け寄る。
「副隊長、こちらサチナリア様と神様です」
「・・・え?」
「やぁ。はじめまして、ルシエナ」
片手を挙げて挨拶をする。
「え・・・ええええええぇぇぇぇぇぇ!?」
近くの水面が揺れるほど大きな声が辺りに広がった。
「本当に申し訳ありませんでした!」
そのまま勢いで前転してしまうのではないかと思うような勢いで何度も頭を下げるルシエナ。
「ははは、いいよ。罰はもうしたしな」
「うぅ・・・はい・・・」
思い出したのかまた耳まで真っ赤になって頭を下げた状態で固まった。
罰は言うまでも無くコスプレ三連のこと。
俺個人としては勘違いなんだから正せばいい事だと思うが、立場がそれを許してくれないので相応の事をしないといけないのがなかなか苦労する。
「こんなのが副隊長で警備隊は大丈夫なのですか?」
「あ、あはは・・・決して悪い人ではないのですが、勘違いと思い込みが激しくて」
サチの厳しい指摘に部下の二人は苦笑いを浮かべる。
割と致命的な問題だと思うんだけどな。人手と練度不足だから仕方ないのかね。
「ルシエナと言いましたか。今回の事はこれで不問にしますが、今後はこのような事が無いようにしてください」
「はい、肝に銘じておきます」
面白大好きっ子からすっかりいつもの補佐官に戻ったサチから最後に注意を受けてこの件は終わりだな。
「それで結局酒の持ち出しはしていいのか?」
「あ、はい。それはもちろん構いません。構いませんが、その・・・」
ルシエナが言い淀む。
「なんだ?」
「出来れば余り広めないで頂ければ、と」
「あぁ、酔って暴れた問題か。わかった、この容器の性能がわかるまでは俺個人の範囲で留めておこう」
「ありがとうございます」
本当ならば警備隊でどうにかすべき問題なんだろうが、今は再編成中だからそこまで手が回らないのだろう。
今回の事も特例ってことで許可が出たという風に捉えておこう。
アストやルミナに土産として持っていけば喜んで貰えると思ったが、当分の間は俺の目の届く範囲で使うことになりそうだ。すまん。
さてと、サチも容器を全部収納したみたいだし、そろそろ帰るかな。
「それじゃ俺らはそろそろ帰るよ。容器の性能結果は連絡した方がいいかな?」
「はい、お願いします」
「わかった、それじゃ無くなる頃にまた来るよ」
深く礼をするルシエナの後ろで手を振る二人に見送られながら俺とサチは湧酒場を後にした。




