風呂完成
レオニーナを見送ると今度はサチが戻ってきた。
「おかえり」
「戻りました。なにやらレオニーナが嬉しそうでしたが何か声をかけたのですか?」
「あぁ、ちょっとね」
質問に答えるとサチがなにやら思案した後、ある答えに行き着いた様子でこっちを見る。
「最近、ソウは人たらしではないのかと思えてきました」
「なんだよそれ」
「女たらしの性別なし版です。ソウは気付かないうちに相手に好かれる素質があるのではないかと」
「そうなのかなぁ。嫌われるよりは断然いいが、神という部分がそうさせてるんじゃないか?」
「それはあるかもしれませんね」
元々神に対しての敬う心が養われていたから今のみんなの反応があるのだと俺は思う。
なんであれ俺は恵まれていると思う。ありがたいことだ。
そして一番感謝したいのは今俺の横に居る彼女だな。
「うーん、俺としてはサチたらしぐらいでいいんだけど」
「なっ・・・ま、またそういう事を・・・」
意表を突かれたのか赤くなりながら挙動不審になる。かわいい。
「なので俺が女たらしにならないようにしっかり見張っててくれよな」
「し、仕方ありませんね。他の方に迷惑をかけてはいけませんからね。本当に困った方です、まったく」
どうにか焦っているのを隠そうとしているがバレバレだぞ。
そんな視線に気付いたのか最終的に服を掴んできて落ち着いた。
うーむ、風呂が出来たら普通に堪能しようかと思ってたがそれどころじゃなくなりそうな気がしてきたぞ。どうしてくれる。
「こんなもんですかな」
大まかな作業が終わり眼前には立派な風呂場が出来上がっている。
完成する前に火の精霊石の使い方も教えてもらったので、これでいつでも風呂が楽しめるようになるな。
まさかさっき追加注文した堰の開閉装置に取り付けられるように出来るとは驚いた。
あれなら自動でお湯が注がれるようになる。
「素晴らしい出来だな」
「ありがとうございます。我々も良い経験をさせて頂きましたわ」
「片付け終わったぞー」
レオニーナがこちらに掛ける声を合図にヨルハネキシは改めてこちらを向き、一礼してくる。
「では、これにて依頼完了とさせていただきます」
「うん、感謝する。見送ろう」
「ありがとうございます」
見送り途中にヨルハネキシが口を開く。
「実のところ個人的に風呂と言うものに興味が沸きましてな。戻ったら自分用に作ってみようと思いまして」
「おぉ、本当か」
「何か良い助言でもいただければと」
あれだけの仕事をした人に俺が助言なんぞとは思ったが、ここで会話を途切れさせる方が失礼なので頭の知識を掘り返してみる。
「うーん、そうだなぁ。湯の量が少量だと冷め易くなるから浴槽を木製にするとか空気の層を入れるとかして保温効果を上げてはどうかな」
「ほうほう、空気の層ですか」
「うん。板と板の間に空間を作っておくと断熱効果になるんだよ。窓も二重にすれば保温効果あがるし、コップもそういうのが作れればお茶も冷めにくくなるんじゃないかな」
「なるほど・・・」
顎に手を当ててなにやら思案している。何か思いついたのかな。
「念が使えるとその辺り気にならなくなるから、使えない奴の工夫だけどな」
「いえいえ、これはなかなか有意義な話ですぞ」
「そうかな」
俺としては念という力の方が凄いと思うんだけどな。
こういう知識も俺が考えたのではなく、前の世界で知っていた事だけだし。
ま、俺がやれる事はせいぜい思考の方向性に変化を与えるぐらいだと思っている。
「ソウ様とお話すると創作意欲が非常に刺激されます。お暇になりましたらこの爺と話でもしてやって欲しいくらいですわ」
世辞なのか本音なのかイマイチわからないが、ワハハと笑うこの爺さんと話しているのは楽しい。
「そういう事言うと依頼が無くても遊びに行くぞ?」
「それは願ったり叶ったりですな。是非ともいらしてくだされ」
「わかった、じゃあその時はよろしく頼む」
「はい、喜んで。それでは本日はこれにて失礼します」
「あぁ、みんなありがとう」
転移場所に着き、今日作業に来てくれた皆に礼を言うと、皆は満足気な笑みを浮かべて帰っていった。




