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-ユキ-

ユキトリエミリーナ。それが私の名前。


長いからみんなユキって呼ぶ。


私もそれでいいと思う。


今は農園でルミナテース様の下で農業に勤しんでいる。




その昔、私はルミナテース様に憧れてヴァルキリー警備隊に入った。


警備隊でも色々な仕事がある。元々運動がそこまで得意ではなかった私は事務に配属された。


それでも訓練や体力作りは必要で、その都度皆から遅れてしまって注目を集めていた。


私はそんな視線が怖くなって目を前髪で隠すようになった。


そんなある日、警備隊に大事件が起きた。


ルミナテース様が隊長を退くどころか警備隊も辞めると。


憧れの人が居なくなる失意の最中、ルミナテース様がある物を食べさせてまわっていると噂が立った。


同僚の子と様子を見に行ったら、何やら黄色い実を切り分けて興味のある人に食べて貰いたいらしい。


周りを見回すと同じように様子を見に来た人の多くはルミナテース様ばかり見ていて実の方に目が行っている人は少ない。


ルミナテース様が人気あるのはわかるけど、あんな美味しそうなものに目もくれないなんて勿体無い。


そんな風に思っていたらルミナテース様がこっちに来て、黄色い実を私に差し出してきた。


「貴女も食べてみない?美味しいわよ?」


突然の事に私の頭は真っ白になった。


気付いたら手の上に一切れの黄色い実。


どうすればいいのか分からないけど、ルミナテース様の顔を見たら笑顔でこちらを見て下さってたので実を口に入れた。


「・・・美味しい」


色んな飲み物は興味がてら飲んできたけど、これは今まで口にした事の無い甘さ。


そして鼻に抜ける良い香り。なんと言う多幸感。


「でしょ!貴女名前は?」


「ユキトリエミリーナです。みんなユキって呼びます」


「ふんふん。ねぇ、ユキちゃん、私と一緒に農業してみない?」




ルミナテース様の誘いを断ることなんて私には出来ず、気付けば私は警備隊を辞めて農園に移っていた。


辞める時はちゃんと引継ぎをした。他の部署は色々大変だったようだが私のところは事務だったので滞りなく済んだ。


辞める時に皮肉の一つでも言われるかと思ったけど部署の人達はあたたかく送り出してくれた。


どちらかと言えばルミナテース様に巻き込まれたという同情がそうさせてくれていたようだけど。


ともあれ農園で農業を始めることになったのだが、最初の顔合わせの時にその顔ぶれに腰を抜かしそうになった。


そこにはルミナテース様をはじめ、警備隊の中でも屈指の実力者達が揃っていた。


大丈夫かな、私この人達の中でやっていけるかな。


そう思っていたけどみんな良い人でこんな私にも優しくしてくれる。


ただちょっと規律主義というか運動系思考についていけない時があったりするけど。


しばらく農業に従事し、私の仕事も軌道に乗って来てみんなとも打ち解けてきて前より笑うようになった頃、一人お客が来た。


サチナリア様。主神補佐官の偉い人。


私と同い年ぐらいなのに凄い人だなって思ってたらもっと凄い人がルミナテース様。


個人視察で訪れたサチナリア様にも容赦なく抱擁して頬ずりしてる。


私も何度かされたことがあるが逃げられる気がしなかった。


その後も度々サチナリア様はやってきてはルミナテース様と必ず一悶着してから帰っていった。仲いいなぁ。




ある日二人のお客が来た。


一人はサチナリア様、そしてお連れの方がソウ様。


最初ソウ様が神様と聞かされてとても驚いた。


しかもソウ様は私達の作った作物に興味があると聞いてさらに驚いた。


この頃には既に天界の物好き集団とか不名誉ないわれが定着してたのがこの出来事で一気に覆された。


この日は本当に驚き尽くしだった。


視察程度かと思ってたら作物まで食べていただき、さらには料理までされていった。


その料理はただ違う作物を合わせただけなのに、私の中に電流が走ったような感覚は今でも忘れることができない。


後にルミナテース様からそれまで私達がしていた料理というのは初歩の初歩で、ソウ様が直々に真の料理を教えてくださると。


私はなんて幸運なのかとその日の夜は興奮してなかなか寝付けなかった。


そしてその後再びソウ様がいらっしゃった時に食べた物はまさに真の料理で、あまりの感動に泣き崩れてしまった。恥ずかしい。


その日から私はひそかに料理の研究を始めた。


研究と言ってもたいした事ではなく、ソウ様がやっていた別々の果物の組み合わせを色々やっては自分で食べてみるというだけ。


だからこれは私のひそかな楽しみ。趣味みたいなもの。


それでも色々な発見があり、私の毎日は非常に充実していた。




そして先日、再び料理教室があった。


私は他の子の注意を聞かず、ソウ様の示した手順に一手間加えた。


だってその方が絶対美味しいと思ったから。


ソウ様に見せた時は最初叱られると思った。


でもソウ様は叱るどころか褒めてくださり、さらに私の名前まで覚えてくださった。


その日から私への周囲の評価が大きく変わった。


ちょっと鈍くさい同僚の子から料理の出来る子へ一目置かれるようになった。


この事が私の中にあった常に負い目を感じる心をなくしてくれた。


今日もこの後ルミナテース様をはじめとしたみんなとお料理会をする事になっている。


これでやっとルミナテース様や今まで私の農作業を手伝ってくれた人へ恩返しが出来る。


そして研鑽を積んでいつかソウ様へお返しできればいいなと思う。


「ねぇ、ユキちゃーん、ここどうやるのー?」


「はーい。ルミナテース様、今行きますよー」

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