サチの家
薄暗かった部屋の中が人の気配を感じると同時に明るくなり中が見渡せるようになる。
「殺風景だな」
見渡せてしまったと言うべきか、物が限りなく少ない。
あるのはベッドとキッチンと椅子とテーブルだけ。
前の世界の感覚でいえば引越し前の家に泊まりに来た時のような物の少なさ。
「そうでしょうか」
気にも留めずサチはキッチンへ向かう。
何をするのかとじっと観察してたら部屋が殺風景な理由がわかってきた。
サチは何もない空間に手を突き出すと、空間が歪んで腕の一部が消える。
腕を引くとティーセットボックスを掴んだ腕が出てきて空間の歪みが消える。
恐らく別の空間に小物類が保管してあって、必要時にああやって取り出せるから部屋の中は大きい常設物だけになるのだろう。
「そんなところに立っていないで座ってください」
「あぁ、うん」
手際良く用意した茶を盆に載せてテーブルに持って行くのでサチの対面側に移動して座る。
「色々知りたいことは山ほどあるが、とりあえず当面の生活をどうするかだな」
差し出されたカップに口をつけながら言う。
うん、美味いな。
何処と無く緑茶を髣髴とさせる味が心を落ち着かせてくれる。
「それなのですが」
サチの視線があちこちに泳ぐ。
「ソウが嫌でなければ、ここで生活するというのはどうかなと」
サチにしては珍しく恐る恐るという感じで聞いて来る。
うーん、ギャップが可愛い。
そうじゃなくてだな。
「うーん、俺としては願ったり叶ったりだが、いいのか?俺元人間の男だぞ?野蛮だぞ?」
自分としては野蛮って程ではないとは思ってるが完璧紳士で居られる程でもない。
つまりはこんな据え膳みたいな状態であれば我慢は出来ないという事。
「ソウなら問題ありません」
「問題ないってお前・・・」
「あぁ、悪い意味ではなく、信用しているという意味です」
「そんな会って時間も経ってない奴を信用するとか」
「大丈夫です、私は私の人相判断を信じていますので」
「そ、そうか」
自信満々に言われてしまっては納得するしかないな。
しかしそうか、俺を神にする提案とかの判断はそういうところから来てるのか。
まてよ、ということはあの爺さんは人相的にダメだって事か、哀れな。
「そういうことなら世話になるかな」
「はい、これからよろしくお願いします、ソウ」
「あぁ、よろしくな」