転移先
気付くと見慣れない風景の中に手を繋いだサチと居た。
上は空と言える青い空間。
足元には草と土の感触がある。
見回すと木は無いが心地よい風とそれに揺れる新緑の草原が一面に広がっている。
「少々座標がずれました。飛びますのでこのまましっかり掴まっててください」
辺りを見回してた俺をよそにサチは背中の羽を広げて浮く。
「え、おい、ちょっと!?」
しっかりと握られた手が次第に上に引っ張られて行き、そのまま足が浮く。
慣れない感覚に俺は両手でサチの手を握る。
それに気付いたサチは同じように両手で俺の手を握ってくれる。多少安心感に包まれる。
「飛びながら説明しますが、ここが我々天使、上位天使の生活空間になります」
さっき足元にあった草が既にただの黄緑色程度にしか見えない高さに上がるとサチは羽を大きく動かして今度は横に移動を開始し始める。
「へー・・・」
草原に降り立った時のように辺りを見回す。
見回してると気付くことがある。
「なんだあれ、島みたいなのが浮いてるように見えるんだけど」
遠くに上が緑で覆われた水のない島らしきものが点々とみえる。
「そうです、ここは幾つもの浮遊島で形成されています」
サチがそういい終わると同じ頃に下の風景が緑から白に、草から雲に変わる。
下を見渡すと一面に雲海があり、その雲海に触れない程度の高さに点々と浮遊島があって、更に真上は光り輝く太陽が確認できる。
目を凝らすと遠くで同じように飛んでる天使が見える。
なるほど、ここが天使の生活空間か。
天使は羽が生えてるから特に地面が繋がってなくても支障がないんだな。
「見えてきました」
サチの言葉に色々思案してたのをやめて視線を正面に戻すと小さな浮遊島に白い壁と赤い屋根の家が見えてくる。
家の前には小さな菜園のような畑があり、生活を感じさせる雰囲気を醸し出している。
目的地の上空に到達するとそのままゆっくりと下がっていき、足に地面の感触が戻る。
「はぁ、地面は落ち着く」
ずっと宙に吊り下げられてたのから解放されほっと一息。
「お疲れ様でした、ここが私の家になります」
「へー、なかなかいい家だな」
遠くから見ても綺麗な家だと思っていたが、近くで見ると手入れが行き届いているのがわかる。
「ひとまず中へ」
入り口の扉に向かうサチの後を追うとサチの羽が小さくなり、背中に収まる大きさ程度になったらそのまますっと消える。
天使の羽は出し入れ出来るのか、便利だな。
「どうぞ」
「お邪魔します」
扉を開けて招き入れるサチに続いて家に入る。
つい癖で放った言葉にサチが笑うのを堪えたのは見逃してない。
おのれ、覚えてろよ。