二度目のアストレウス宅訪問
「サチ、そろそろアストレウスのところに行きたいんだが」
「わかりました。ミリクリエさんに連絡入れてみます」
片付け作業を中断して連絡を入れてくれてるみたいだ。
天界の住人はどうやってるか分からないが連絡を取ることができる。
俺は出来ない。いや、出来るかもしれないがどうせ神力を使うとか言われて使わないんだろうな。
今度何かの時にでも聞いてみるかな。
「連絡取れました。大丈夫だそうです」
「そうか。じゃあちょっと書く物くれる?依頼品の一覧作りたい」
「どうぞ」
前にルミナに稲と麦を描いた時のようなパネルをくれる。
えーっと、料理してて足りないと思った道具とルミナたちの分だろ、あとそうだ、密閉容器もいるな。
あれやこれやと書いていったら結構な量になってしまった。
大丈夫かな。ダメならその時考えよう。
「ごめんください」
アストレウスの家の前で声を出すと家が揺れた。
ドタドタと音がした後に勢い良く扉が開いた。あぶねぇ、危うく当たりそうになったわ。
「おぉ!神様!よぐ来でぐださっだ!」
「お、おぉ。久しぶり」
前と同じく手を取られブンブンと握手される。
「サチナリアちゃんもいらっしゃい」
「こんにちは、ミリクリエさん」
アストレウスの後ろからミリクリエも出てきてサチと挨拶してる。
この二人妙に仲が良くなってるんだよな。
しかも見た目はミリクリエの方が年下に見えるもんだからそのギャップが凄い。
「調理道具ありがとな。とても良い出来だったよ」
「そいづばよがっだだ!じで今日ばどんな御用で?」
「あんた、ちょっと。立ち話もなんですから中へどうぞ」
ミリクリエが話を急ぐ旦那を止めて中に招いてくれる。
「おう、ぞうだな!どうぞどうぞ」
「おじゃまします」
「粗茶ですが」
以前と全く同じ状況に既視感を覚えながらも話を切り出す。
「今日は追加依頼に来たんだが、その前にこの前の礼をしないとな。サチ、仙桃出して」
こっちでの価値観は分からないから数はサチ任せにした。
五個か。妥当ってとこかな?
「これは?」
ミリクリエが興味深そうに仙桃を見てる。
「湧酒場に生えてる木に生ってたものを許可を得てもらってきた。美味いからよかったらもらってくれ」
「おぉ!あの実が!いやー、生っでるんば知っでだけどんも、食えるとばな!」
湧酒場は行ったことあるのか。なら今回の依頼も請けてくれるかな。
「早速切り分けてきますね」
席を立つミリクリエにサチが付いて行き、男二人になる。
「それで、今回の依頼というのは?」
いつの間にかアストレウスが職人モードになってた。
「うん、先日作ってもらった道具の同じものを幾つか。それとは別に新しい調理道具も作って欲しいんだ」
「ふんふん、コンロもか?」
「あぁ、出来れば欲しいが精霊石ってそう簡単に手に入るのか?」
「うーむ、ある事はあるが加工が難しくてな。他も作るとなると少し時間がかかるかもしれん」
ふむ、先日ウィンドカッターを使っているところを見ると、火も出せたりしそうだから外にかまどでも作ればいいか。
「じゃあコンロは後回しで。あと密閉容器を作って欲しいんだ」
「密閉容器?何に使うんだ?」
「湧酒場の酒を入れる」
「何!?」
家にアストレウスの声が響く。
職人モードになっても声の大きさは変わらないのな。
声量が凄くて軽い衝撃波を受けた気分だ。
「あんたどうしたよ?そんな大声だして」
ミリクリエが切り分けて仙桃を皿に盛って持ってきた。
「いや、神様がよ、酒を持ぢ出ず容器作っでぐれっで」
あ、職人モード切れた。オンオフのタイミングがわからん。
「あら。うふふ、神様もなかなか大胆な事考えなさるね」
「そうかな。料理に使いたくて」
「飲むんでねぇんが!?」
二回目の衝撃波が来た。
「うん。俺酒余り強くないからな」
「はぁーなんでもっだいねぇ!あんなうめーもん飲めねぇなんでな!」
反応から薄々感じてたがアストレウスもルミナ側か。
「ま、代わりにこっちを美味しく頂くからいいさ」
切り分けてくれた仙桃を指差す。
「おっ!ごれがあの実が。食っでもよがか?」
「どうぞ」
勧めると夫婦で皿に手を伸ばす。
「サチ」
「なんですか?」
「耳を塞ぐ準備しときな」
「え?あ、はい、わかりました」
恐らくこの後の展開に必要なことだろうからな。




