庭の手入れ
さて、今日は何しようかな。
下界の勇者の末裔の若者が何処に行くか気になったが時間になってしまった。
気になることがあっても強制的に中断されてしまうのが辛いな。
いや、でもそのおかげで冷静な判断が下せるのかもしれない。
前向きに捉えよう。
「ソウ、今日は直帰しましょう」
「ん?何かあるのか?」
「はい。先ほど訪問の連絡が来ました」
「うちに人来るの?珍しいな」
「えぇまぁ。定期的に来るのですけどね」
何か乗り気じゃないね。
まぁいいか、待たせちゃ悪いから帰ろう。
「こんにちは、ソウ様、サチナリア様」
家の前には二人の天使がいた。
二人ともルミナのところで見た顔だ。
「今日はルミナテースではないのですね」
「はい。先輩は探し物の最中で各地を飛び回っているので代わりに私達が来ました」
探し物って恐らく稲や麦だろうな。
うーん、まだ見つかってないのかな。
「そうですか。ではよろしくお願いします」
軽く礼をするとサチは家の中に入ってしまう。
随分素っ気無いな。
「二人は今日は何しに?」
「はい。今日は庭の手入れをしに来ました」
庭か。
確かに家の周りには小さいながら花壇や木々が生えている。
前から管理が行き届いてるなとは思ってたが、サチが庭に出て手入れしているところは見たことが無かった。
念じるとその辺りも手入れできるのかと思ってたが、どうやら違ったらしい。
「いつもはルミナテース先輩がするのですが、今日は用事で来られないので」
説明しながら作業着に着替える二人。
ちょっと興味あるな。
「邪魔しないから見てていい?」
「え?あ、はい、どうぞ」
なんで?みたいなリアクションをされた。
サチの反応があんなだからな、そういう反応されてもしょうがないか。
邪魔にならないように家の近くの石の上に座る。
何か現場監督になった気分。
二人は分担して作業にあたるようで、一人は花壇、一人は木々を担当するようだ。
分担するのはいいけど、木の方のが規模が大きくて大変じゃないかと思ったのだが、そんな事はなかった。
天使が木の上部が良く見える高さまで飛んで静止したと思ったら飛び出てる枝が吹き飛んだ。
一本飛んだのを機に次々スパパパンと枝が切れ飛んで落ちていく。
そしてあっという間に一本目の剪定が終わる。
「なぁ、アレ何やってるんだ?」
近くにいた花壇を担当している方に聞いてみる。
「あぁ、ウィンドカッターで無駄な枝を切り落としているんですよ」
ウィンドカッター。
そういえば下界でカマイタチみたいな魔法を使っているのを見たことがあるな。
なるほど、はさみとかの道具を使わずに剪定できるのか。便利だな。
一方で花壇の方に目をやると全て手作業でやっている。
うん、雑草取りは面倒だよな。
いや、そんな雑草の葉の部分引っ張ったら、ほら、根が残ってるぞ。
木の剪定をやってた天使が戻ってきて手伝い始めた。
え?もう木の方終わったの?・・・終わってさっぱりしてるわ。
雑草取りをしている二人を見るがやはり効率が悪い。
あーもー見てられんな。
立ち上がって俺も花壇のところに行く事にした。
「何をやっているのですか?」
家からお盆にお茶を載せて出てきたサチが明らかに呆れた声と顔で言う。
「あ・・・」
しまった、すっかり二人に雑草の抜き方とか見せて一緒に庭仕事してた。
「まったく、そんな土だらけになって」
「ちゃんと腕まくりしたぞ?」
「いえ、そういう意味ではないのですが。まぁいいです、休憩にしますよ」
呆れながらも俺達を洗浄してくれるサチはなんだかんだで優しい。
綺麗になったところでサチが持ってきたお茶を四人で飲む。
「ソウ様はすごいですね」
「料理の時も凄かったですが、本当に手先が器用ですね」
いや、雑草を根元から抜いて土落としたりしてただけなんだが。
俺からすれば見て念じただけで枝を切り落とす方が凄いと思う。
「私達は何かと念で済ましてしまいますからね。ソウと共に生活するようになってから自分の研鑽不足を感じます」
「そうかなぁ。知らないだけで教えれば直ぐに会得するだろ」
「そうでしょうか?」
「うん。この前教えた箸の使い方だってもう違和感無く使えてるだろう」
「いえ、まだまだです。まだソウのように箸の方が便利と思えてませんから」
「そういうもんかな」
そんな会話をサチとしていたら、天使の二人が微笑みながらこっちを見ている。
「ん?どうした?」
「い、いえ、仲がいいなと」
「そう見える?」
「はい。とっても」
満面の笑みをされてしまった。
「最近サチナリア様も丸くなったというか、優しくなったというか」
「そうですか?」
「はい。以前はもっと事務的な印象がありました」
あー、冷酷鉄面皮女とか言われてたな、そういえば。
「うーん、私自身そんな変わったつもりはないのですが」
「いいじゃないか、いい印象になったんだから」
「今日もお茶を出していただきましたし、とても嬉しいです」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
お、照れてる。
そうか、こういう人らしい自分達と同じ部分が見えるようになったから皆好感持つようになったんだな。
この後気を良くしたのかサチもそのまま外に出て俺達の庭仕事を見ていた。
さすがに手伝いはしなかったが興味深そうに観察してた。
そんな様子に俺達三人はほっこりしたのは言うまでも無い。




