仙桃
「今度は酒も貰いにくるよ」
建物の外でサチが空間の歪みにせっせと実を仕舞ってるのを見ながら警備の二人に礼を言う。
「え?あ、はい。お待ちしてます?」
何を言ってるの?みたいな顔を一瞬されたが気にしない。
恐らく酒を持ち出すなんて考えがないから俺が言ってる事が理解できていないんだろう。
建物内ではサチが今やってる空間収納が禁止されているので持ち出しなんて出来ないと普通は考える。
だが、揮発しない密閉容器があれば可能だと俺は考えている。
アストレウスにまた無茶な注文をする事になるので彼の腕次第ではあるが、きっとやってくれるだろう。
ふふふ、次来る時が楽しみだ。
「収納終わりました。では、行きましょうか」
「うん。じゃあ二人ともまた」
「はい、また来てください」
にこやかに見送る二人を背に渡り板を進む。
「どんな味がするか楽しみですね」
先を進む俺の背中にサチが話しかけてくる。
「なんだ、サチは食ったことないのか」
「はい。ルミナテースから話を聞いてはいましたが、興味が無かったので」
「あー最近だもんな、飲むではなく食べるに目覚めたのは」
「そうなのですよ。昔の私は何たる無駄をしていたのかと」
「ははは、気が付けただけいいじゃないか」
「そうなのですが、ルミナテースに遅れを取っていたという事がですね」
渡り板を歩くサチの足音がバンバンと大きな音を立てる。
「なるほどなるほど」
ぷりぷりしているサチにうんうんと頷いてあげる。
「ちょっと、何楽しそうにしているのですか?ちょっと、ソウ!」
いけね、顔が笑ったままだった。
このままじゃ水に落とされそうだ。逃げよ。
そのまま転移場所まで追い駆けっこすることになった。
「お、おおぉぉ・・・」
帰宅して早速実を切って食べてみる。
確かに甘くて美味しい。
味は桃とマンゴーの間のような、あれだ、黄桃のシロップ漬の味に似てる。
とにかく甘さが凄い。
天然でこれだけのものが出来るのは凄いな。
まるで空想作品に出てくる仙桃のようだ。
うん、今後これはそう呼ぼう。どうせ俺には発音できないしな。
サチさんや、無言で食べ続けてるけど凄い早さだね。
ん?今咀嚼が忙しくてコメントできないからジェスチャーでする?
頭がパー、髪が長い、胸が大きい、ルミナの事か。最初が酷いな。
ルミナが、うん、最初に見つけたのが悔しいが、こればかりは誉めるしかない。そうだな。
というか待っててあげるから食べてから話しなさい。
「はー、これは危険ですね。止まらなくなります」
手と口の周りが果汁でびしょびしょになっている。
「その空間収納の中なら鮮度は保てるんだろ?」
「はい。ただ明日まで残ってるかどうか」
いやいやいや、結構な量もらってきたでしょうに。
少しお裾分けしたいから残しておきなさい。
すっごい渋い顔するんじゃありません。我慢しなさい。
「しょうがないな。俺ももう少し食べたいからあと一、二個出してくれ」
「さすがソウ、話がわかります」
どうして三個出すのかな?
まぁいいか。
仙桃にナイフで薄く切れ込みを入れて皮をずるっと剥いてから切り分けて置く。
俺が一切目を手に取る間に二切目に手を出すサチ。
そんなに気に入ったか。
こりゃ早いうちにまた貰いに行かないといけなくなりそうだ。




