天界の酒
「そういえばさっき酒を例えに出してたが知ってるのか?」
仕事時間が終わって片付け終わるのを待ちながら聞く。
「勿論知っていますよ」
「こっちにもあるのか?」
「はい、あります。興味ありますか?」
「うん」
興味はある。
なぜなら食文化が無いこっちの世界でどうやって作られているのか気になるからだ。
「飲んでみたいですか?」
「いや、それは別に」
飲んでみたいと思う人も多いんだろうが、俺は別に是が非でも飲みたいとは思わない。
前の世界で弱かったのもあってか飲酒に関して良い印象が薄い。
「ただ、料理に使いたいからあれば欲しいかなって」
「なるほど」
酒好きの人から酒を料理になんて勿体無いと言われそうだが、俺としては料理に酒は重要なアイテムの一つだと思っている。
「じゃあ今日は湧酒場に行って見ましょうか」
「ゆうしゅば?」
「お酒が沸いているところですよ」
え、どういうこと?
一瞬思考が停止している間に腕を掴んだサチに転移されてしまった。
転移の感覚が抜けて見渡すと湿地帯のような場所だった。
空気が澄んでて乾いているが、地面には小さな池が点々と見える高山湿地帯のような印象。
「ソウ、行きますよ」
転移場所から木の渡し板の上を先に進むサチについていく。
渡し板の横から水辺を見ると緩やかだが流れがあるのがわかる。
水は濁ってて水深はわからない。落ちないようにしないと。
「珍しいですか?」
「え?あ、うん」
サチが戻ってきて聞いてくる。
つい興味心がくすぐられて歩くのが遅くなってたようだ。
「ソウなら湧酒場へ着いたらある程度理解できると思いますよ」
「そうか、じゃあ案内頼む」
とりあえず考えるのは後にしよう。
サチがいつの間にか俺の手を取って引っ張っていくので従うことにした。
「ここです」
道なりに進んで案内された場所は大きな半楕円型の透明な建物。
入り口の前には若い男女の天使が左右に一人ずつ立っている。
「待て。この先は湧酒場だ」
近づくと二人が立ちはだかる。
「私です」
「これはサチナリア様。すみません、わかってはいたのですが規則でして」
「わかっています。警備隊のお仕事ご苦労様です」
「ありがとうございます」
情報館の時もだが顔パスな雰囲気がいいなぁ。凛々しいぞ。
「それで今日はどういった御用ですか?」
「神様の案内です」
いつもの流れだ。心の準備せねば。
「ではそちらが神様ですか。お初にお目にかかります」
天使の二人が丁寧な礼をしてくる。
あれ?いつもの驚きリアクションがないな。
「驚かないのですね」
サチも気になったのか二人に聞く。
「はい。先日ルミナテース様がいらっしゃいまして、サチナリア様とご同行の殿方は神様だと仰ってたので」
なるほどね。
「ルミナテースはここに何をしに来たのですか?」
ルミナの名前を聞いて若干むっとした声になっている。
実はサチの奴、俺を見て驚く人のリアクションを楽しんでいるんじゃなかろうな。
「どうも何か植物を探しているようで、草のような絵を見せられました」
「一瞬新しい害虫かと思いました」
悪かったな下手な絵で!
「そ、そうですかっ」
くっそ、サチの奴笑いを堪えてやがる。
あ、こっち見て噴出しやがった。
「こほん。それでは中に入ってもいいですか?」
「あ、はい。どうぞ。神様も」
「うん、ありがとう」
二人が扉を開けてくれるので中へ入る。
入る時二人に見えないようにサチの尻をつねっておいた。




