職人へ依頼
「粗茶ですが」
ミリクリエがお茶を出してくれる。
どういうわけかお茶は定着してるんだよな、この世界。不思議だ。
「それで今日は依頼をしに来ました」
俺がお茶に口をつけてる間にサチが話を切り出す。
依頼と聞いてアストレウスの顔が職人の顔つきになる。
口を開かなければカッコいいんだけどな、この人。
あ、ミリクリエが応対してたのはそういう事だったのかな。
ぼんやりそんな事考えてる間にサチが俺がこっちで生活する経緯と調理道具の作成依頼をしたいという内容の説明を終えていた。
「調理道具ねぇ。下界じゃそういう道具があると聞く。なら作れないことはないだろう」
アストレウスの言葉が聞きやすくなってる。
職人モードになるとこうなるのか。
さっきダミ声だった分渋くていい声にすら聞こえてくる。
「頼もしい限りです。ではソウ、具体的な話を」
「ん、わかった」
俺とアストレウスは向かい合って具体的な調理道具の話を始めた。
とりあえず必要なのが、包丁、まな板、箸、菜箸、ザル、鍋、フライパンぐらいかな。
出来ればコンロみたいなものも欲しいところだ。
一つ一つ特徴や用法を説明していく。
「ふんふん。なるほど、下界の連中は面白い発想してんなぁ」
アストレウスがメモを取りながら少年のような眼差しで話を聞いてくれるので話すこっちも楽しい。
ちなみにサチとミリクリエはいつの間にか席を外して少し離れたところで何やら話しているようだ。
「どうだ?出来そうか?」
「ハッハッハ、お安い御用だ。任せてくれ」
まだ色々欲しい道具もあるが、ひとまず腕前を見せてもらおう。
「しっがし新じい神様ば異世界の人だっだなんでなー」
あ、職人モード終わった。
「やっぱ変かな?異世界人が神をやってるなんて」
「ハッハッハ、ぞんな事気にぜんでよがす!わすらがごごで生活でぎでるんば神様のおがげですんがら、自信もっでぐだぜ」
「そうか、そう言ってもらえると助かる」
二人で笑ってるとサチとミリクリエが戻ってくる。
「話は終わりましたか?」
「おう、ばっちりだ」
これが俺とサチのやりとり。
「あんた、神様に失礼なこと言ってないだろうね」
「ぞんな事あるわげなが」
これがあっちの夫婦のやりとり。
薄々感じてたが奥さんの尻に敷かれてるよな、これ。
「では参りましょうか」
「うん、お邪魔しました、二人とも」
「いえいえとんでもない。ほら、あんた、お見送りするよ」
「わがっどる!」
うん、やっぱり尻に敷かれてるな。
「では依頼品ができましたらそちらに転送します」
「はい、よろしくお願いします。それではまた」
「まだ来でなー!」
サチに抱えられ、二人に見送られながら山を後にする。
「いやー面白い夫婦だったな」
転移場所に飛びながらサチに話しかける。
「そうですね。アストレウスさんが結婚した事は耳にしていましたが、まさか奥様があんな可愛らしい方だったとは」
「わかる。でもアレ実際は奥さんが主導権握ってるよな」
「はい。お二人が話してる最中に色々お話聞けました」
「ほう、どんな話したんだ?」
「それは内緒です。ふふふ」
楽しそうにしてるのでこれ以上追求すると薮蛇になりそうだ。
「これでもう少しマシな飯が作れるといいな」
「そうですね。今から楽しみです」
既に俺の飯の虜になってるな。
「ルミナにも食わせてやらないと」
「あー・・・そういえばそんな約束していましたね」
明らかに嫌そうな言い方をするが照れ隠しなのはわかってるぞ。
「後はそうだな、風呂が欲しいところだな」
「毎日洗浄しているから必要ないのではないですか?」
確かに毎日身綺麗にしてもらってはいる。
「いや、そうなんだが、あれはいいものだぞ?」
風呂は心が洗われる気がするんだよな。
「ソウがそこまで言うのでしたら考えますけど」
「ああ、是非とも頼む」
サチとも一緒に入りたいしな。
そう考えながら帰路に付いた。
そうそう、結局サチがミリクリエから聞いた話は主に夜の生活で生かされる事だった。
俺らが真面目に話してる間になんていう話してんだ、まったく。




