帰り道
「またのご来館お待ちしております」
来た時より多くのメイドに見送られて情報館を後にする。
思ったより捗らなかった気がする。
まぁいいか。少しずつ慣れて行こう。
情報館が見えなくなった辺りでサチが腕を組んでくる。
「どうした?」
「なんでもありません」
「そうか。何度も行く事になりそうだな」
「そうですね。定期的に行く必要があるので丁度良いと思います」
「うん。次行くのが楽しみだ」
「何が楽しみなんです?」
「そりゃ色々知る事が出来るからな」
「・・・それなら許してあげます」
ぎゅっと腕を強く掴んで身を寄せてきた。
あぁ、どうもサチがちょいちょい突っかかってきたのはそういうことか。なるほどね。
「・・・なんです?その眼差しはなんだか不快です」
むっとした顔で見上げてくる。
でもやめない。自然と出るものだからしょうがない。
「やー早く帰りたいなーって思ってな」
「そうですか。急いでもいいですが、もう少しで日が暮れるので見て頂きたいものがあります」
「なんだ?」
「ソウが言う風情というものが少しわかるかもしれませんので、少しの時間付き合ってください」
「おぉ、いいぞ。早速とは勉強家だな」
「どこかの誰かさんの影響でしょう」
「そっかー」
他愛も無い話をしながらゆったりを森を進む。
行きの木漏れ日のある温かみのある森とは違い、日が落ちて次第に薄暗さが増す姿に儚さを感じさせる。
ただ、これ以上暗くなると今度は怖くなってくるんだよな。
若干不安になってきたところで来る時降り立った場所に到着した。
「では見ていてください」
サチは来た道に振り返ると両手をパンッと大きく叩く。
するとサチを中心に周囲の地面や木々に沿って青緑の光の粒が一斉に広がる。
「おぉ!なんだこれ!」
「光の精の子供です」
「光の精?」
「家の光は彼らによるものですよ」
詳しく聞くと、光の精は小さいうちはこのように自然が豊富な場所で育ち、大きくなると人にくっついて家などに行くらしい。
音や振動に反応するので家人が活動してると光を放ち、静になると消えるというなんとも便利な生き物。
放つ光が弱くなると再び家人にくっついて自然の多い場所に戻り、分裂分散して再び子供となる。
彼らは座標認識力があるらしく、完全に静止状態じゃないと光を放たない上に目視できない。
大人子供の判断は光の強さと色で判別し、若いうちは青緑色の寒色系、全盛期が白、晩年は赤黄色の暖色系になる。
「判明しているのはこのぐらいで、本当に生物かどうかも謎です」
「確かに生物のような植物のような」
共通してるのはある程度生態サイクルがあるってところか。
だから子供という表現をしてるのか。なるほど。
「それでこれを見せた理由は?」
「はい。ソウはこれを見てどう思いましたか?」
「うーん。幻想的って感じかな」
俺の感性だと風情とはちょっと違う感じがする。
どちらかと言えば前の世界で冬に見るイルミネーション。
夕暮れの森の方の方が風情を感じた。
ただ、それはあくまで俺の感性での話。
自然に情緒を感じるという点ではこれはこれで風情の一種ではないかと思う。
「そうですか。少し違うのですね」
「うん。でもサチはこれ好きなんだろ?」
「・・・なぜわかりました?」
驚きと恥ずかしさが同居したような表情でこっちを見る。
「何となく」
細かく指摘するとむくれそうなので誤魔化す。
「変ですか?」
「いや、いいと思う。俺も好きだな、これ」
風情がどうのとかそんな事は二の次で直感的に良いと思ったならそれが最善だと思う。
「そうですか。ならいいです」
機嫌が良くなったのか全身を預けてくる。
しばらくそのまま光が落ち着くまで俺達はこの幻想的な光の空間を楽しむ事にした。




