断る理由
「なんでじゃあああああ!!」
神様の悲痛な叫びが辺りに伝わるがサチナリアはそこまで慌ててはいない。
「なんでって嫌ですよ勇者とか」
「じゃ、じゃあ勇者じゃなければよいのか?」
「よくないです」
懇願するような目で見ても爺さんの上目とか誰が嬉しいんだ。
「し、しかしじゃな。転生をしないとお主はこのまま成仏じゃぞ?それでよいのか?」
「別に構いませんよ。元々その予定だったんでしょうから」
「ぬぅ、随分達観してる男じゃな。じゃが本当に良いのか?折角の機会じゃぞ?勿体無いとは思わんか?」
この必死具合、やはり何かあるな。
「ではお断りする理由を述べさせて頂きますので落ち着いて聞いてください」
「う、うむ」
一息吐いてから爺さんをしっかり見据えて口を開く。
「まず勇者というイメージは俺の中で良いものではありません。むしろ蔑称に近いものがあります」
「次に魔王を倒せという事はつまり命を危険にさらすという事。勿論望んでそんな事をしたいとは思いません」
「ぬぅ・・・」
唸る神様をよそに続ける。
「仮に、仮にですよ。もし魔王を倒したとして、授かった力を持った俺を人々はどう思うでしょうか。賞賛されるのは短い間で暫くすればその力を危険視するようになります。つまり今度は俺が魔王として扱われるようになるんです」
神様とサチナリアの顔色が悪くなっていく。
「他にも強い武器と仰られましたが、つまりはそれを狙う者に常に命を狙われるという事で安息はありません。人々に好まれるようになってたとしてもそれはあちらからであり、こちらからはそのように見えるとは限らず、人間不信に陥ります」
「大体ですね、他人から与えられた力で何か成したとして、本当にそれが自分の力だったのか一生悩むのは嫌です」
「ですので申し訳ありませんがお断りさせていただきます」
そこまで言って一礼し、一息つく。
一方二人は青い顔をしたまま黙っている。
更に俺は口を開く。
「神様」
「な、なんじゃ?」
脂汗で顔がびっしょりの神様にここで疑問に思ってたことを聞くことにする。
「今言った事になにか思い当たることがあるんですね?」
「!?」
明らかな動揺、サチナリアと顔合わせちゃだめだろ、判りやすすぎる。
「詳しく聞かせてもらってもいいですかね」
「話したら転生してもらえるかの?」
「いいえ、嫌です」
だからジジイの涙目とか誰が喜ぶんだ。
「ですが、聞かせてもらえたら何かしら助言できることがあるかもしれません」
「ぬ・・・ぬぅ。わかった話そう」
その昔魔族が力を持ち、人々を苦しめていた。
苦しむ人々に神様は信仰の強い者の一人に勇者の力を与えた。
しかし魔族は倒せず勇者は死んだ。
そこで今度は信者の見込みある者達に勇者の力を与えた。
今度はそれが上手く行き、勇者達は当時の魔王を倒し、魔族の時代から人の時代に変わった。
だがそれも長くは続かなかった。
今度は勇者同士がそれぞれ国を持ち、潰し合いを始めたのだ。
相手が人である以上神様は眺めているしかなかったという。
そして勝ち残った勇者の末裔の国が一強国としての時代が訪れた。
一見平和な時代かと思われたがそうではなかった。
末裔の国は次第に贅沢三昧を極め、貧富の差が広がり、苦しむ人々が増えていった。
そして末裔の国がある力を手に入れた。
失われし魔族の力。
こうして再び世界は人から魔、新生魔族の時代になったという。
人で無くなった者ならば神の力も使えるとの事で再び神様は勇者を生み出す事に。
しかし以前のような力の強い勇者は現れなかった。
いや、現すことができなくなっていた。
新生魔族は巧みに人の心を掴んで操り、恐怖と神への不信感を植え付けた。
それは信仰心が力となる神にとって大きな打撃であった。
結果この世界の者を勇者には出来ず、異世界の者を勇者として送り込む事にした。
「なんて迷惑な話だ」
ここまで聞いて溜息が出る。
「返す言葉も無いの」
異界の勇者はなかなかの働きをした。
この世界にない発想で戦い魔族を大きく混乱させた。
人々は大きくこのことを喜んだ。
「しかし、当の勇者は人間不信になったと」
「そうじゃ。召還できる者は皆前の世界では栄華とは縁の無い者だったからの」
「無い物を求める心か」
「そうじゃな・・・」
結局異世界の勇者達は人々の前から消え、今では各地でひっそりと生活し、寿命を迎えているらしい。
「お主には各地の異界の勇者達と力を合わせて魔王を倒してもらいたかったのじゃが」
「ここまで聞いてはいとは言うわけがないな」
「じゃろうな」
はぁと溜息を付きがっくりと肩を下ろす神様。
「それなら俺をさっさと成仏させて次の奴を召還すればいいのでは?」
「そうもいかんのじゃよ」
心底困り果てた様子を見て代わりにサチナリアが言う。
「実は神の力が無くなりつつあり、貴方が最後の希望なのです」
聞きたくない事実。
「そういう事じゃ。参ったのぅ」
ちらちら俺を見るなジジイ。
そんな状況を見てなのかサチナリアが意を決したような雰囲気で口を開く。
「神様。一つ私から提案がございます」
「ん?なんじゃ?」
サチナリアが俺に聞こえないように神様に耳打ちをする。
「ふむふむ・・・なんじゃと!いや、しかし・・・なるほど・・・」
神様がこっちを見ながら困ったり驚いたり納得したりしている。
嫌な予感がするからさっさと俺を成仏しやがれ。
「よし、わかった。サチナリア、お前の提案を呑もう」
「ありがとうございます」
俺を置いて勝手に事を進めないでくれるかな。
「お主、名をナガタ ソウイチロウと申したな」
「はい、そうですが」
「うむ・・・」
神妙な顔をして俺の前に来る神様。嫌な予感がするが動けない。
「ソウイチロウよ。お主には大変迷惑をかけるがわしはお主に託してみることにした」
「いや、ちょっと何を言い出す」
こっちに手をかざしてだんだん輝き始める神様。
「お主にはわしの代わりを勤めてもらうことになった」
「は!?」
「サチナリアはお主の助手になるから色々手伝ってもらうのじゃ。頼むぞサチナリア」
「はっ」
「いやいやいや、待ってください!待って!待たんかジジイ!」
もはや光の塊のようになった神様は満面の笑みを浮かべる。
「ほっほ、頼んだぞ」
そうして神様から光の塊が放たれその塊は次第に小さくなると俺の胸に飛び込むように吸収された。
それを見て神様はにっこりと微笑みながら薄れて消えた。