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料理対決

「そんなわけで、ルミナはこっちに寝返ったから」


「はぁ!?」


相手本陣でリミにそのことを伝えると案の定驚きと怒りの反応が返ってきた。


俺の後ろの方では先ほどとは少し違う阿鼻叫喚の絵図が繰り広げられているが気にしない。


「あーもーホントあの人は・・・」


「あとでしっかり説教してやってくれ。俺が言うのもなんだけど」


「そうします」


最近どっちが農園の園長か分からなくなってきたな。


そのうち農園の事はリミに任せてまたふらっと別の事業を始めるとか言い出さないだろうな。


少なくともサチが納得できる料理を提供できるまでは許さんぞ俺は。うむ。


「そんなわけだから、旗をくれるかな」


「・・・」


旗を持ったリミが何かを考えながらこっちをじっと見てくる。


「リミ?」


「・・・気が変わりました。ただでこの旗をお渡しすることはできません」


「なっ!?」


サチが驚きの声をあげる。俺も驚いた。だが、リミの表情は本気だ。


「ソウ様、ひとつ私と勝負していただけないでしょうか」


「勝負?言っとくが運動はそんなに得意じゃないぞ」


サチが呆れた視線を向けてきているが、気にしない。


泳ぐのは天界の住人の中では良い方だが、それも平均が低いだけで後の運動関連は警備隊の子達の足元にも及ばないだろうな。


「勝負の内容は料理でお願いしたいです」


「料理?」


「はい。腕試しに付き合っていただければと」


「ふむ・・・。よし、面白い、乗ろう」


「え!?」


俺が承諾すると後ろでギャーギャー騒いでた連中が一斉に止まり、こっちを振り向いていた。聞こえてたのね。




「それではルールを確認します」


急遽俺とリミの間で料理対決する事になったが、ありがたい事にサチが仕切ってくれている。


「二人はここに居る全員に行き渡るよう同じ料理を提供してください。勝敗の審査はここの全員の多数決になりますが、どちらが何を提供したかは非公開とします。より多く票を集めた方が勝利とし、そのままそれが今回の演習の勝敗となります」


正直ルミナがこちらに寝返った事で勝負は決まってたようなものだったが、リミの起死回生を狙う意気込みをつい買ってしまいこんな感じになってしまった。すまん、皆。


とはいえここで負けるようでは教える者としてよくない。全力で相手になるつもりだ。


「それと、今回念の補佐は私ではなくルミナテースにやってもらいます」


「え?」


俺とルミナの声が重なる。聞いてないぞ。


「リュミネソラリエから申請がありましたので私が受理しました」


「裏切り者には罰を」


「ひっ」


リミがルミナを威圧してる。


おっかしいなぁ、この人さっきまで警備隊員を一人で相手してたはずなんだけど。


「ソウ様、すみません、色々無理を言ってしまって」


「いいさ、リミの腕前も見たかったし」


「ルミナテース様、しっかり補佐してくださいね」


「う、うん、がんばる」


すっかりルミナが怯えてしまっている。強い。


「食材は農園から提供されていますので自由に使ってください。それでは、始めて下さい」


サチの合図と共にルシエナがいつの間にか出した音具を鳴らした。


さて、何作ろうかな。




・・・困った。


「す、すみません」


謝るルミナの前には消し炭と氷の塊が落ちている。


とりあえず調理の補助となるルミナの念がどの程度の精度か確かめるべく軽く使ってもらったところ、用意した果物がこのような無残な姿に一瞬で変わった。


「私、そこまで念は得意じゃなくて」


そう言って申し訳なさそうにするルミナを見ながらここに来てリミとサチが手を組んでいた事に気付かされた。


おそらくリミとしてはこうなる事も想定した上でサチにルミナとの交代を申請したのだろう。


そして賢明なサチの事だ、その意図を即理解し、面白そうで受理したに違いない。


くそぅ、まんまと策にはまってしまった気がする。


しかも提供された調理器具も最低限のもので、いつも使っているコンロもないので念でどうにかするしかない。


さて、どうしたものか。


今しょぼくれているルミナを元気を取り戻させ、今回の参加者全員分を賄える量を作り、その上でリミに勝つ。


なかなかにハードな課題になってきた。


「あの、ソウ様、どうしましょう」


「んーそうだな・・・念を使わない作業なら大丈夫だよね?」


「はい、もちろん大丈夫です」


よし、ならばパワー系の作業を徹底的にやってもらおうか。




「それでは勝負の結果を発表します。勝者、ソウ」


「おし」


「やったー!」


サチの発表で勝敗が決まる。


「うーん、さすがソウ様ですね」


「そうかな、三分の一はリミに投票したんだから凄いと思うぞ」


リミが作ったのはフルーツケーキだった。


どれも色鮮やかに果物が盛り付けされており、それだけでも目を引いていた。


味も美味しく、物足りなそうにしたサチがこっそり追加注文していたのを俺は見逃さなかった。この後食べるんだろうな。


対する俺が作ったのは串おでんときりたんぽだ。


以前ルミナが麦を粉々にする技を使っていたのを思い出し、すり身を作って貰った。


それを焼いたり茹でたりすればおでんの具ができて来る。


ちくわと同じ要領でご飯をやればきりたんぽになる。


そんな感じで一人一本ずつ提供できるよう作った。


「敗因は立食というところを考えていなかったところですかね」


「そうだな。食べ易さは大事だと思う」


味に関しては同じかリミの方が少し上だったかもしれない。


だが取っ付きやすさではやはり一口サイズのものを繋げた串物の方が上回っていた。


「いい勉強になりました。ありがとうございます」


「うん。ルミナも得意料理にできそうなものがあることが分かっただろ?」


「うんうん!」


これでしばらく農園でルミナによる練り物やら串物が流行りそうだが、そこはうまくリミに制御してもらおう。


「ソウ様、今日はありがとうございました」


「何とか勝ててよかったよ」


「えぇ、そうですね」


ん?思ったよりフラネンティーヌが嬉しそうにしてないな。


「どうした?」


「あ、いえ。勝てたものの結果としては負けだったかなと」


「ん?どういうこと?」


「元々隊員達にあまり料理に興味を持ってもらっては困ると思っていたのですが、結果としてリュミネにしてやられました」


「え?あ、そうだったのか!すまん、俺が迂闊に勝負を引き受けてしまったから」


「いえいえ、謝らないでください!ソウ様がいらっしゃらなければ勝てすらいませんでしたから」


慌てて頭を下げるフラネンティーヌを見ながら何故今日あれだけ闘志を見せていたかが分かった。


以前警備隊はルミナによって人員の引き抜きが行われたから、今回農園の仕事を手伝う事で再びそちらに人が抜けられると困ると思ったのだろう。


俺個人の現在の警備隊の印象だとそれは杞憂だと思うんだけど。


今この場の様子を見ても、料理を楽しみつつも話の内容は演習の感想が多く、フラネンティーヌの奮闘ぶりに感化された者が多く感じられる。


「実際のところどうなの?」


当のリミに聞いてみる。


「人手が欲しいのは事実ですよ。ルミナテース様が色々手広くやりすぎているので」


「そうなのか」


リミの視線に気付いてルミナがそっぽを向く。わかりやすい。


「ですが、だからと言って引き抜きしようなんて思ってはいません。可哀想ですし」


「可哀想?」


「たぶん警備隊の訓練よりうちの方がキツいですよ。非効率な理不尽さがある分」


リミが若干うんざりした様子で話す。苦労してるんだな。


「そ、それは最近改善してきたでしょー!」


「効率が上がった代わりに量も増やして余計辛くなりましたが」


「え?そうなの?」


「だからもうちょっと他の人の事を考えて下さいといつも言っているではないですか。そもそもですね・・・」


あーあ、リミがルミナに説教始めちゃった。ホントどっちが園長だかわからないな。


そんな様子をフラネンティーヌが少し意外そうな様子で見ている。


「とりあえず懸念してたことは大丈夫っぽいな」


「あ、はい、そうですね」


「どうした?」


「あのようなルミナテースは初めてみたので」


「そうなのか?農園じゃいつもあんな感じだぞ」


「そうなのですか?・・・今度見に行ってみようかしら」


「あはは、じゃあ私も一緒に行きたいです」


横で話を聞いてた警備隊員が手をあげ、それを片目にフラネンティーヌは小さく溜息を付く。


うん、なんとなく今の警備隊には農園という場所に対して苦手意識があったようだが、今回でそれが少し解消された気がする。


それにフラネンティーヌの奮闘で警備隊内の結束力は高まったし、いいこと尽くめだった気がする。


「なんだか嬉しそうですね」


「そうかな?そうかも」


「そんなソウに大変申し上げにくいのですが」


「どうした?」


「おでんのおかわりの要望が大量に来ています」


おおぅ、そうか。この楽しそうな雰囲気に水を差すのは良くない。


しょうがない、ここは俺がひとがんばりしますかね。

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