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警備隊の演習

中央都市の視野の広がりが止まった。


どうやら北の領から移動してきた人が目的の場所に到着したからだろう。


残念ながら中央にある城まで範囲内に入らなかった。


まぁ全体図は手に入れてあるので急がなくてもいいだろう。


それより気になることがある。


この中央都市だが治安が良すぎるのだ。


今現在視野範囲にある街もある程度治安はいいが、ここはその比ではない。


他の街では冒険者ギルドや自警団といった治安維持活動をする組合があるのだが、そういった組合も確認できていない。


一応冒険者ギルドはあるものの、やっている事は人探しや届け物といった物が大半で、明らかに他の街と依頼内容の毛色が違う。


どういうことだ?


普通人が増えればそれに比例して問題やトラブルが増えるはずなんだが。


もう少し視野を絞って観察してみるか。




ふむ。分かったことは個人レベルでの言い合いはあるようだ。


しかし、そこから大きな争いには発展しない。


人が出来ているといえばそれで終わりかもしれないが、この大規模な都市の人達をすべてそのような人にすることはまず無理だと思う。


少し考え方を変えてみよう。


例えば、そうだな、何か呪いのアイテムのようなもので強制的に問題を起こさせないようにしているなんて事はないだろうか。


・・・ないな、調べてみたがそういった類のものは反応していない。


いい線行ってると思ったんだけどなぁ。


オアシスの街のように魔方陣が描かれている可能性も考えてみたが、そういう反応もなしだった。


うーん、思い過ごしかな。


いや、新生魔族の本拠地とも言える都市だ。注意しておくに越したことはないだろう。


とりあえず情報収集が落ち着くまではサチの負担を考えると視野の拡大とかは行わない方がよさそうだ。




「なぁ、サチ」


仕事の時間が終わり、片付けているサチの背中に話しかける。


「なんですか?」


「新生魔族ってあんな大人しい連中なのか?」


もっとこぅ魔族って言うぐらいだから禍々しい存在だったり怪しい儀式とかやっているものかと思っていたが、実際のところは普通の人達だった。


種族的なところで人間以外が多いぐらいで総じて平穏な状況だ。


「それが私も分からないのですよね」


「どういうことだ?」


「信仰が減少してからの事は情報として入ってこないので」


「じゃあ減少する前、最後の状況はどうだったんだ?」


「もっと血の気の多く、争いが多かったはずです」


「やはりそうか。じゃあ見られない間に何か変化があったと考えておいた方がいいな」


「はい。現在その辺りの経緯の情報も集めていますが、それなりの年月が経過しているのでなかなか・・・」


「うん。まだ街全体を把握できていないし、今のところ安定してるみたいだからあまり負担をかけるなよ」


「はい。ありがとうございます」


変化か。


確か新生魔族が現れた後に異世界の人達を勇者として差し向けたんだよな。


それで新生魔族の侵攻自体は落ち着いたものの、神への信仰は途絶えて窮地だったところに俺が呼ばれたんだったか。


つまり異世界の勇者達を差し向けたものの、どういう結果になったかの詳細が一切わかってないのか。


ふーむ。魔族になった勇者が中央都市に居たことを考えると大体の予想は出来てくる。


あとはどうやって今の平穏な状況に持っていったかだ。


色々と参考になりそうだから気になるところだ。




今日は警備隊の演習にゲストとして参加することになっていた。


前の訓練みたいに手伝いぐらいかなと思っていた。


うん、わかってる。俺の考えが甘かったことぐらい。


今日は訓練じゃなくて演習だとサチがちゃんと言ってた事も。


「だからって俺を総大将にするのはどうかと思うんだけど」


到着するとフラネンティーヌ達がいい笑顔で俺をここまで招き、そのままなし崩し的に今の状況になってしまった。


「お願いします!今日は是非とも勝ちたいのです!」


と、普段比較的冷静そうなフラネンティーヌがここまで懇願するので断るに断れない。困った。


総大将の仕事はこの手に持ってる白旗を守り通せばいいらしい。


奪われるのはもちろん、壊してもダメというルールだ。


「それで、相手は?」


「そろそろ来ると思います」


どうもこっちには演習参加者が全員いるようで、相手の姿はまだ無い。


ということは警備隊同士でやるわけではないのか。


誰が来るのかと思っていたら空を数本の筋が通るのが見えた。


そして綺麗に翻って降りてくる。俺、あの降り方見たことある。


「やっほー」


「来ましたね、ルミナテース」


やっぱりルミナか。


遅れて降りてきたのは農園の子達。リミもいる。


「今日こそは勝たせてもらいます」


「楽しみにしてるわー」


なんかフラネンティーヌが普段は見せない闘志を見せているな。


それはいいんだけど、本当に総大将は俺でいいのかな。不安になってきた。




演習のルールは赤、青、緑、白、黒の五色の旗を全部取るか破損させた方が勝ちというもの。


一定時間毎に休憩時間が設けられ、その時にのみ旗を別の人に渡す事が可能。その場合相手にも伝える。


二回の休憩時間を挟んでも決着が付かなかった場合、多く旗を持っていた方が勝ちというルールだ。


こちらの作戦は俺に白、サチは黒、フラネンティーヌが赤、ルシエナが青、それとこの前の訓練で水に隠れてた子に緑を持たせて守りきる作戦でいくようだ。


ちなみに勝った方は負けた方に仕事の手伝いをしてもらうという事らしい。


「それって俺も含まれるの?」


「そうですが、普段から農園で料理教えているではないですか」


「そうだった」


つまり勝っても負けても俺には特に問題は無いようだ。ちょっと安心。


「あの・・・」


相手方のリミがこっちに走って来た。手には俺と同じ白の旗を持っている。


「どうした?」


「ルミナテース様が警備隊当時の装備を出し始めましたので、一応連絡に」


それを聞いたこちらが一斉にざわっとする。


「あれがその格好?」


遠くで鎧やら槍を装着しているルミナが見える。


「そうです。まったく、大人気ない」


「しかしいいのか?敵側にそんなこと教えて」


「えぇ、大丈夫です。この旗以外はルミナテース様が全て持ちますので」


それを聞いて更にこちらの士気が下がる。・・・なるほど、そういう作戦か。やるな。


「あと、私は一応本陣に居ますが、それ以外の者は中立とし、怪我人の手当てにまわります」


「え、ということはルミナとリミの二人で、実質ルミナ一人でやるってこと?」


「そうなります」


「いいのか?それで」


「いいんじゃないですか?本人は最初からそのつもりだったみたいですし」


はぁとため息をつくリミ。


言われてみれば確かにあっちの参加人数はこちらに比べて圧倒的に少ない。


つまり元からハンデ戦だったわけか。


「ふむ。じゃあうちらとしてはそこを突けばいいわけか」


「はい。折角なのであの脳筋をちょっとへこませてやってください」


「ははは、わかった、頑張ってみる」


「よろしくお願いします」


そう言ってリミは戻っていった。


とはいえこっちの士気は駄々下がりだ。参ったな。


今の話を聞いて更にやる気出しているのはフラネンティーヌとサチ。


ルシエナは下がった他の子達を奮い立たせるため頑張っている。


うーん、大丈夫かなぁ。




「はぁ、はぁ、おのれ、ルミナテース」


二回戦が終わり休憩に入る。


フラネンティーヌの闘志はまだ薄れていないが、見た目はかなりボロボロになっている。


正直ルミナがここまでやるとは思っていなかった。


俺とサチは本陣で見ていただけだが、ルミナは警備隊の攻撃をものともせず、柳のように避けて岩のような強烈な一撃を与えていた。


初戦は全員攻撃での正面突破。


二戦目はフラネンティーヌ以外は順を追って波状攻撃を行ったが通用しなかった。


しかし皆の士気は落ちていない。


それもこれも現隊長であるフラネンティーヌが最も攻撃を受けていたにもかかわらず、果敢に攻めていたからだ。


本人的にはただの対抗心でやっているのかもしれないが、それが良い効果を生み出していた。


ルシエナがうまくそれを利用していたのもある。副隊長らしくなってきたと感じる。


「ソウ様、何か策はありませんか?」


次の攻撃方法を考えあぐねていたルシエナが聞いてくる。


助言を求められたら応じる方針で居たので、今のところ俺もサチも何も提案はしていなかった。


「無いことは無いが、搦め手になるがいいか?」


「・・・はい、何か嫌な予感がしますが」


既に含み笑いしているサチに視線を送りながらルシエナが頷く。


了承が取れたので作戦を伝える。


「なるほど。相手の弱点を突くというのはこういう方法もあるのですね」


お?もっと嫌がるのかと思ったけど普通の対応だ。


これも副隊長として成長したからなのかな。


「よし、それじゃ準備に入ろう。サチ」


「はい。お任せください!」


俺の言葉にサチは嬉々としてパネルを開いた。




「よ、ルミナ」


「これはこれはソウ様。どうされました?」


最前線にサチと二人で来た俺はルミナと対峙する。


いつもの緩い雰囲気とは違い、凛々しくてカッコいいな。


「一人で相手するのも疲れるだろう。そろそろ終わりにしようと思ってね」


「ソウ様が相手をしてくださるのですか?」


「いんや。ルミナの相手はこいつらだ」


合図すると後ろから警備隊の子達が現れる。


「なっ!?なーーーー!!」


それを見てルミナが武器を落として驚く。


それもそうだろう、これだけの着ぐるみを着た人が現れればな。


ルミナは可愛いものに目が無い。


なのでそれを全力で突くだけの簡単な作戦だ。


正々堂々とは程遠いが、何も正面からぶつかり合うだけが勝負ではないと俺は思う。


「うぅ、名案だとルシエナが言うから乗ったらこんなことに」


被り物をした姿で両手で顔を覆うフラネンティーヌっぽい猫の着ぐるみ。


他にも動物から変なキャラクター物、顔出しがあったりフルフェイスだったり色々居る。


サチに下界の情報を元に衣装データを作ってもらい、以前ルシエナに強制的に着させたように全員に着ぐるみを着させた。


「可愛いですよ、隊長」


「くっ、後で覚えていなさい」


しれっとそう言うが、顔出しの犬の全身パジャマのようなルシエナも十分可愛いと思う。口に出すとサチが不貞腐れるので言わないが。


「あわわわわわわ」


一方でこの着ぐるみ衆に目を奪われているルミナ。


「どうだ?ルミナ。こちらに下ればこの子らを好きに愛でる権利を」


「お願いします!」


早っ!?


こっちが言い終える前に武装解除して旗を差し出してきやがった。

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