表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/450

治癒の不思議

下界には回復魔法がある。


回復と言っても多岐に渡り、傷を治す以外にも外敵生物からの毒や麻痺などを治すものから風邪や食中毒など一般生活で起こる体調不良などの治療を行う魔法まで存在する。


便利な魔法と思うが、それなら何故ヒーラーという専門の職業が存在するのか。


魔法を扱える人が皆回復魔法を覚えればいいのではないかと普通は思う。


しかし実際のところ、症状に応じて個別に回復魔法を覚えなくてはならず、次第にヒーラーという専門職が確立されたようだ。


一方で回復手段には錬金術などで作られたポーションをはじめとした薬品を使う方法もある。


多少値段は張るものの、一本あれば傷の治療から解毒など複数の効果が望めるものが多い。


冒険者であれば何かに備えて何本か所持しておくというのが一般的なようだ。


ポーションがあれば冒険者の徒党にはヒーラーが不要ではないかと思うが実際はそうでもない。


ヒーラーはいわば傷や状態異常の専門家だ。


状況に応じて適したポーションを選び、回復魔法と併用する事で消費を抑えつつ最大限の効果を引き出す事が出来る。


また、共に冒険する一人の人である事に意味を持つ。


やはり人であれば状況に応じて考え、相談する。


そういう相談の場において専門家の知識というのは役に立ち、思考の拡大に繋がる。


故に冒険者達からヒーラーの存在は一つの職業として認められている。


「うーん・・・」


そんな月光族の冒険者徒党のとある女性のヒーラーの様子を見てサチが唸る。


敵対生物との戦闘が終了したところで回復の最中なのだが、そのヒーラーの処置が非常に雑なのだ。


いや、ちゃんと治療は行っているのだが、そのやり方が雑と言うべきか。


「ツバ吹きかけるだけだからな・・・」


「あれで治るという事にも驚きなのですが、される側は嫌ではないのでしょうか」


「むしろ喜んでるっぽいぞ」


実際治療を受けている男の顔を見ると嬉しそうだ。


どうも俺が見つけたこの冒険者の徒党は変わった性癖の集まりだったようで、ガラの悪いヒーラーとそれに従う男共というよく分からない集まりだった。


治療の仕方も戦闘の出来によって変わるようで、次の奴は頭を足で踏まれながら治療を受けている。男の顔は喜んでいて若干怖い。


ちなみに先ほど行われた戦闘では、男達が梃子摺ってる事に苛立ったヒーラーが持っているメイスを投げ捨て、自己強化した後に懐に素早く潜り込んで殴り倒ていた。


そんな凄いヒーラーが居たから目に付いたんだが、まさかこんな変態集団だったとは。


「さしずめ女王様と下僕達って感じの徒党だな」


「う、うーん」


しかしヒーラーが単身突撃して近接格闘するとはなぁ。


男達といいこの女性ヒーラーといい、月光族はちょっと特殊な人達が多いんじゃないかと思い始めてきた。


とりあえず理解に苦しんでるサチの眉間の皺が増えないうちに別のところを注目するかな。




「痛っ」


「大丈夫ですか?」


「うん」


料理をしているとたまに包丁で指先を切ってしまったりする。


切った直後はやはり出血するし痛い。


「・・・」


うん。塞がった。血をふき取ると何処を怪我したのかわからないぐらい綺麗に治ってる。


「あの、ソウ」


「ん?」


「怪我する度に毎回傷口を凝視するのはちょっと・・・」


「え?・・・ははは、すまん。なんか治っていく様子が面白くてつい」


「面白いですか?」


「うん。何度見てもよくわからんけど」


下界の回復魔法もそうなのだが、治癒の力が働くと治療部分はうっすらと白く光り、どのように治癒されていくかが良く分からない。


もっとこう細胞同士がうにうに動いてくっついたりするのかと思ったんだが、実際は光のパテのようなもので埋められてどうなっているか確認できなかった。


一応指で触ってみたりもしたが、かさぶたが取れた直後のツルツルした皮膚の感触を感じるだけだった。


何度見ても不思議な光景なのでついつい凝視してしまうんだが、そろそろ慣れていかないとな。サチにも言われてしまったし。


「ソウ、煮立っていますよ」


「おっと」


サチにいわれて考えるのを止め、鍋に目を戻す。


今日は先日の訓練で振舞ったおかげで無くなったアイスの補充をしている。


デザート類が無いと困るとサチに強く言われた。


一瞬依存症を疑ったがそうではなく、いつでも振舞えるようにしておきたいらしい。


うちの補佐官様はいつもそうやって天使達からの俺の印象を良くしようと考えてくれている。ありがたいことだ。


しかしだからって自分の食べたいデザートばかり指定するのはどうなんだろうか。


使う機会が無かった時に苦なく消費出来るように?そうか、まぁいいけどさ。


量があるからって一度に一杯食べようとするなよ?目を逸らさないの。


よし、味もいい感じだし、いつも通り凍らせて切って盛り付けたら仕舞ってくれ。うん、切れ端は食べていいから。


さて、凍らせている間にもう少しお菓子類を作るかな。




「・・・作りすぎた」


作ってる途中から興が乗ってしまった結果、テーブルの上がお菓子だらけになってしまった。


アイスなどの冷たいものなら直ぐに空間収納に入れればいいのだが、常温で冷ますものはどうしようもなく、このような状態に。


この後デコレーションなど行うが数の多さに若干気が滅入っている。


何故こうなったかというと、サチから貰った下界の料理レシピのせいだ。


以前から少しずつ収集していたようで、俺が求めた時にいつでも出せるように用意してあった。


しかも内容を見ると結構こちらの食材でも作れそうな物があったので、アレも出来るコレも出来ると色々手を出してしまった。不覚。


だが、そのおかげで幾つか新しく作れるものが増えた。


その中でもケーキが作れるようになったのは大きい。


前の世界や下界の職人が作るものに比べたらクオリティが大幅に下がるものの、果物をふんだんに使ったフルーツケーキは我ながらいい出来だと思う。


それともう一つ大きな収穫なのがチョコレート。


正確に言うとチョコレートもどき。


まぁこっちの世界で俺が作るものはどれももどきといえばもどきなんだが、これは素材から製法まで前の世界とは全く違うものだった。


まずチョコの実を念や魔法による雷撃で表面が消し炭になるほど黒焦げにする。火ではなく雷でないとダメらしい。


次に風の念や魔法で高速回転させる。


最後に実の中心の辺りにある真っ黒な液体を取り出せばチョコの原液が出来る。


このチョコの原液を試しに味見してみたところ悲鳴を上げるほど苦かった。


あまりの苦さにあーあー言いながら転げまわってたらサチが呼吸困難になってた。おのれ。


この原液を薄めた後に若干引くぐらいの量の砂糖を入れて作って出来たのがこっちの世界のチョコレートだ。


味はまだビターな感じだが、俺はこれぐらいでいいと思う。


同じく味見したサチが渋い顔したのでもう少し甘いのも用意した。まだこの苦さの良さは分からないようだ。


さて、あとはスポンジケーキが冷めたらこれを使ってデコレーションだな。


ま、そうはいうがまわりに塗ったり間に挟んだりするだけだが。


色々と凝った事もしたいところだが、量が量なので飾るのはいずれ教える時に農園の子達と一緒にやるのがいいだろう。


よし、そうと決まったらさっさと始めよう。


サチ、ボウルに溶かしたチョコを掬って舐めてるなら手伝ってくれ。




今日の料理も終わり、出来栄え確認のために試食。


個人的にチョコレートケーキがなかなか上手くできたと思ったのだが、サチはまだチョコの苦味が気になったようだ。


仕方ないのでミルクアイスを乗せてやったら目を輝かせながらあっという間に食べてしまった。


「止まりません。どうしましょう」


あっという間に三切れ食べ切り、次の四切れ目を口にしながらそんな事を言う。


作った側としては嬉しい限りだが、食べすぎはよくないぞ。今日はそれで終わりだからな。絶望的な顔しないの。


ふむ、サチがこれだけ喜んで食べてくれるなら農園の子達にも教えて大丈夫そうかな。


通信装置の設置もお願いしたいし、近いうち行くとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ